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三尺坊と才一郎

二十七 霊肉れいにく分離ぶんり

 十二がつ十一にちは百にちぎょう満願まんがんであります。泰治たいじ昨日さくじつから才一郎さいいちろう引籠ひきこもちなのを心配しんぱいたまりません。

ぎょうつればどくがすっかりけ、病気びょうきおこらなくなるとわれたのに、今度こんど病気びょうきはなはもっ合点がてんかぬ。もしやこれをさかい御霊みたまになって、おやまれてかれるのではないかしら……。』

 思案しあんあまりてそのむね才一郎さいいちろうたずねますと、才一郎さいいちろうはそれにはなんともこたえず、なみだながしながら、

『どうか父上ちちうえをおびください……。』

 ただそうったのみでした。

 もなくちち才亮さいりょうがやってまいりますと、才一郎さいいちろうはしんみりとした口調くちょうで、

今般こんぱんわたくし御霊みたまになされおやまへおれなさるむね昨夜さくやおうせつけられました……。』

 はじめてかされた意外いがい悲報ひほうに一どうもただただおどろきさわぐばかりです。

『まだ大納言様だいなごんさまへお目見めみえもまないのに、このまま霊界れいかいへお引取ひきとりとは残念ざんねんともなんとも申様もうしようがありません。どうかどうかしばしのうちなりともおとまりください。いますぐにとはンまりです!』

じつわたしも』と才一郎さいいちろうこたえました。『昨夜さくやそのことは神様かみさまへおねがいしていてあります。いず御返事ごへんじがまいるでござりましょう……。』

 なにもあれ心細こころぼそいこと一ととおりでない事柄ことがらですから、一どうみな丹精たんせいをこらしてみずび、

国家こっか御為おため、大納言様だいなごんさまへお目見めみえの相済あいすそうろうまで才一郎さいいちろうこのまま御差置おさしお相成あいなたくいのたてまつる……。』

と一しん不乱ふらん祈願きがんめたのでした。

 するとその明方あけがたになってから、才一郎さいいちろうくちから吉報きっぽうらされました。

只今ただいま八所やところ御方々おかたがたはじたてまつり、白牛様しろうしさままでこのせきへおでになり、わたくし御霊みたまになることは、いましばらくお差止さしとめになされるとの御沙汰ごさたござりました……。』

『ヤレヤレれしい!』

万歳ばんざい!』

 一どうい、あしむところも打忘うちわすれ、十二にち早朝そうちょうからみずびて、一しん不乱ふらんになっておれい奏上そうじょうしたのでしたが、塩梅あんばい才一郎さいいちろう気分きぶんがだんだんよろしく、夕方ゆうがたにはモー大方おおかたもとごとくになり、くる十三にちにはまった常態じょうたいふくしたのでした。

 が、十三にちの七ツどきいたりてガラリ模様もようかわってしまいました。用事ようじがあるとのこと早速さっそく泰治たいじ才一郎さいいちろうへやってますと、才一郎さいいちろうくちからはとおりの悲報ひほうらされたのでした。――

只今ただいま又々またまた神様かみさまがおでになり、おやまにて御模様おもようがえの差起さしおこり、今晩こんばん是非ぜひみたまとしておやまへおれなさるとのおうせでござりまする………。』

 これをきいてがっかりとちからけないものは一人ひとりもありません。勿論むろんちち才亮さいりょう早速さっそくらせで大急おおいそぎでまいりましたが、先立さきだつものはただなみだでした。才一郎さいいちろうちちむかってなにやら遺言ゆいごんをしたのでした。

才一郎さいいちろうどの』と泰治たいじもボロボロなみだをこぼしながら『おまえ御霊みたまになっても、わたし才亮さいりょうとには時々ときどき姿すがたせてくれるであろうね……。』

又々またまた沙汰さたをいたし、おにかかりにてまいりまする……。』

『それは難有ありがたい……。』

 泰治たいじひとしお感涙かんるいにむせびながら、

『シテ御霊みたまになったあかつきには、遺骸なきがらはどういたせばよろしいものでござろうナ?』

天下てんかおきてしたがって処理しょりしていただけばよろしうござりまする……。』

 きっぱりべて、それからは別段べつだんかわったところもえず、そのうち次第しだいきてあかつきの七つどきになりました。

『おくすりしあがられては……。』

 だれやらがわきからそうすすめてましたが才一郎さいいちろうかるくびりました。

『では葛湯くずゆはいかがでござります。』

葛湯くずゆならすこし……。』

とのこたえに、早速さっそくそれをこしらえてすすめますと、才一郎さいいちろうこころよくそれをおわり、しばらく打伏うつぶしてましたが、たちまちむくむくととこうえ起上おきあがりました。そして威儀いぎただして、低声こごえ秋葉大権現あきばだいごんげん祈念きねんし、柏手かしわでを二つち、つづいてまた二つち、

皆様みなさま御苦労ごくろうさま、これからまいります……。』

いもおわらずそのままねむるがごといきえました。


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