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三尺坊と才一郎

二十二 せものではない

 こんな問答もんどうなかに四れました。ところがそのばん主人しゅじん泰治たいじねんめに才一郎さいいちろう寝所しんじょをのぞいてると当人とうにん姿すがた皆目かいもくえません。

『ハテな、れいによっておやまへでもかれたかナ……。』

 近頃ちかごろれてたのでさまではさわがず、そのままき、翌朝よくちょうになってからってると才一郎さいいちろう夜具やぐきかぶって熟睡じゅくすいしてました。

『これこれ才一郎さいいちろうどのモーけました。んとよう寝入ねいってられるではござらぬか……。』

 才一郎さいいちろうばれてようやをさまし、

『あー、もうけましたか。――夜前やぜんわたし自分じぶんばれましたので、早速さっそく神前しんぜんってると、三尺坊さんじゃくぼうさまがおでになり、そのおうせで、西国さいこくの八十五里程りほど土地とちにまいり、それからおやままわもどってまいりました。おやまとき格別かくべつつかれたともおもいませんでしたが、今朝けさ大変たいへんくたびれてりますからモーしばらくこのままやすませていただきます……。』

 そうってかれはゴロリと彼方むこういて、ひるここのどきまで一といき寝入ねいったのでした。

 めるとまたれい問答もんどうはじまります。泰治たいじれい人間心にんげんしんで、はや幽界ゆうかいって自分じぶん弟子でし藩公はんこうのお目見めみえにれ、一つはかみみち天下てんかひろめ、一つは世間せけん疑深うたがいぶかきものどもにはなかせようとあせり気味ぎみなのですが、三尺坊さんじゃくぼうほうではだんじてそのことだけはゆるさんのでした。

三尺坊さんじゃくぼうさまのおうせには』と才一郎さいいちろう泰治たいじにその命令めいれいつたえたのでした。『大納言だいなごんさまへお目見めみえのこと泰治たいじふかあんじてるが、もっともではあれど、そればかりはゆるがたい。当春とうしゅん京都きょうとおいておたす申上もうしあげたことを申上もうしあげるだけにとどめるがよい。せものではなきゆえ才一郎さいいちろうをおにかけいでもよい。――ういうお言葉ことばであります。三尺坊さんじゃくぼうさまはわたしどもがここもうしてことなに御存ごぞんじであります。そのようなはなわざ人間にんげん凡体ぼんたいではとてもできません。かみみちずさわった以上いじょうわたしはやくこの凡身ぼんしんござります……。』

 しんみりとんなことをべる才一郎さいいちろう容貌ようぼう態度たいどには何所どことなく浮世うきよばなれのした神々こうごうしいおもむきそなわってるようにえるのでした。

人間にんげん神界しんかいってるとうもちがってるものかナ……。』泰治たいじはつくづく感心かんしんしました。『すこしも神様かみさまらないものは小理窟こりくつならべる。おぼろげに神様かみさま存在そんざいるものはは迷信めいしんくさいことをならべる。すッかり神様かみさまのことがわかったものは人間にんげんばなれがしてる……。われわれのようにすぐにいたりわらったりするようではまだ駄目だめじゃ……。』


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