心霊図書館」 ≫ 「岩間山人と三尺坊」  ≫ 「三尺坊と才一郎

三尺坊と才一郎

十九 大砲たいほうたま

 明治めいじ元年がんねん十二がつの二れ三になると早朝そうちょうから才一郎さいいちろう幽界ゆうかい実見譚じっけんものがたりはじまりました。一もんとうあいだ人間界にんげんかいではおもいもよらぬ不思議ふしぎ物語ものがたりあとからまゆ手繰たぐるがごと娓々びびとしてつづきました。

 才一郎さいいちろう物語ものがたり奥州おうしゅう戦争せんそう実地じっち見聞談けんぷんだんからはじまりました。

奥州おうしゅうにてわたくし千賀ちがろう殿どの尾張藩おわりはん隊長たいちょう)をまもってました。三尺坊さんじゃくぼうさまおうせに、ろう信心しんじんうすいが、そちうまれたくに隊長たいちょうなれば守護しゅごしてやれとのことでござりましたから始終しじゅう影身かげみいてりましたところが大砲たいほうたま千賀ちがのすぐそばちましたので、さすがの千賀ちがおおいおどろきました……。』

『そのときうなされました?』

だれかが質問しつもんすると、

『されば、そのときわたくし熱田あつた大神宮だいじんぐうさま御眷族ごけんぞくとで砲弾ほうだんをおさえて破裂はれつさせませんでした。またとき敵軍てきぐん千賀ちが身辺しんぺん大砲たいほうけてまさ発射はっしゃしようとしてります。しもそれがんでには官軍かんぐん大破たいはしますから、味方みかた大砲たいほうたまてき筒先つっさき打込うちこんでやりました。それがめに敵方むこう大砲たいほうたちま破裂はれつし、隊長たいちょうかくのものをはじめ、五にんまで即死そくししたような次第しだい……。小銃弾しょうじゅうだん払落はらいおと味方みかたたすけたことは幾度いくたびあったかれません。見受みうくるところ尾州兵びしゅうへい格別かくべつ信心しんじんあついものがおおいようでした。』

御出張ごしゅっちょう神々かみがみ秋葉様あきばさま熱田様あつたさまとだけでござりましたか。』

『そんなことはございません。日本にほん神様かみさま大概たいがい御出張ごしゅっちょうにならぬのはありません。熱田様あつたさま津島様つしまさまとは御眷族ごけんぞくすくなく、秋葉様あきばさまが一ばんおおいので、何時いつはやくお見廻みまわりになります……。』

津島様つしまさま信心しんじんするものもありますか。』

『そりャ沢山たくさん御座ござります。』

東照宮様とうしょうぐうさま御出張ごしゅっちょうになりましたか?』

東照宮様とうしょうぐうさま御出張ごしゅっちょうになりません。』

『ナニ御出張ごしゅっちょうになられぬ……。何所どこられます?』

 坐客ざかくどう不審ふしんまゆをひそめました。

『イヤ』と才一郎さいいちろう微笑びしょうして『東照宮様とうしょうぐうさまはおくらいひく御神みかみにて、日光にっこうにおでに御座ございます。』

『あなたはおおがみになりましたか。』

左様さよういました。』

ときっぱりこたえたのでした。問答もんどうはいよいよ興味きょうみくわえました。

天子てんしよりの勅命ちょくめい神界しんかいかならずおもちいになりますか。』

『さればかならずもちゆるともうすことはござりませんが、一たびあしことこと通例つうれいもちいになります。』

御所ごしょへは折々おりおりでになりましたか。』

天子てんし御座辺ござへん御守護ごしゅごいたしてりました。』

『シテ御姿おすがたは……。』

だれやらが突込つっこんだことをきますと、才一郎さいいちろう

『そんなことは無益むえきのことゆえもうさぬことにいたしましょう。』

ことばをそらしました。

御所ごしょうちことごと御存ごぞんじですか。』

左様さようよくぞんじてりますが……。』

と、このといにもくわしいことをこたえませんでした。


戻る

目  次

次へ


心霊図書館: 連絡先