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三尺坊と才一郎

十七 合図あいずかね

 いで主客しゅきゃくあいだにはこんな問答もんどうおこなわれました。

明晩みょうばんのおそなえものはうすればよいでしょう?』

昨夜ゆうべとおりでかまいません。ただ浄水じょうすいだけそなえただけで一こう差支さしつかえないので、そのほか先生せんせい思召おぼしめどおりになさいませ。先生せんせい思召おぼしめしことごとくおやまれます。』

『して』と泰治たいじひざをすすめ『秋葉山あきばやまつね精進しょうじんござるか。』

『いいえ左様さようのことはござりません。おやまにはおおきないけ御座ございまして、其所そこ漁猟すなどりをなされ、ったさかな召上めしあがられます。ですからお供物そなえもの御腥おなまぐさよろしいのです。それについておもしますのは、おやまはじめて参上さんじょうしたせつわたし頂戴ちょうだいしたおさかなくじらござりました。食物しょくもつはそれぞれお役儀やくぎものがあって、所々しょしょ殺生せっしょうまいります……。』

明晩みょうばんでくださる時刻じこく何時なんどきござりましょうナ。』

『さァ世間せけん寝鎮ねしずまりてからがよろしいです。九ツどきということにいたしましょう。』

護摩ごま執行しっこうはいかがいたしたものでしょう?』

護摩ごま結構けっこうなものでございます。おやまでも護摩ごまをおもちいにります。当宅こちら護摩ごま執行しっこうせつは、わたしかぎらずおやまからまいらぬものはありませぬ。ツイこの二十八にちせつにも、明日あす柳田やなぎだにて護摩ごま執行しっこうありと御沙汰ごさたでしたからわたしまいりました。―――あッ只今ただいま白牛しろうしからのらせに三尺坊さんじゃくぼうさま出雲いずもより三ほどらせられたから支度したくいたせとのことにござります。わたしはもう出懸でかけることにいたしましょう。明晩みょうばんまいったおり合図あいずいたします。そのせつ父上ちちうえだけが御神前ごしんぜんへおでください……。』

『その合図あいずなん合図あいずござりますナ?』

『さァ何品なになりと御神前ごしんぜんしていてください。それでらせることにしましょう。』

 問答もんどうんなところで打切うちきって、才一郎さいいちろうはそのままうらきましたが、たちま行方ゆくえれずになりました。

 くれば十二がつ朔日ついたち柳田家やなぎだけでは早朝そうちょうから御神前ごしんぜんかざり、みずなどをそなえ、次男じなん卓齋たくさいきよめて護摩ごま執行しっこうしました。また夕方ゆうがたからかがりき、五ツどきぎには一どう座敷ざしきあつまりました。来客らいきゃく国家老くにがろう渡邊わたなべ対馬守つしまのかみ御隠居ごいんきょやら、その惣領そうりょうはんろうというひとやら、丹羽にわ七というひと惣領そうりょう同姓どうせい永太郎えいたろう、そのおとうと駒吉こまきちまた澤井さわい才亮さいりょう柳田家やなぎだけ親戚しんせき縁者えんじゃとうで、みなしん信心しんじんらしました。

 これよりき、御神前ごしんぜんにはかねての約束やくそくどおり、合図あいずようとして喚鐘よびがねしてきましたところ、良久ややありて、そのかね夜陰やいん寂寥せきりょうやぶりて、

『ゴーン!』

りましたので、さてこそというのでちち才亮さいりょう一人ひとりだけがうらきました。


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