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三尺坊と才一郎

十五 衣服いふく奉納ほうのう

 そののちまたもや才一郎さいいちろうからの消息しょうそくはしばらくえましたが、そのとしあき、九がつに、はたして約束やくそくごと才一郎さいいちろう柳田家やなぎだけ奉祀ほうしせる秋葉宮あきばのみや神前しんぜんあらわれました。出現しゅつげん模様もよう大体だいたい以前いぜんとおりで、そのおり才一郎さいいちろう大変たいへん取急とりいそいでりました。

今晩こんばん三尺坊さんじゃくぼうさま伊勢いせ大神宮だいじんぐうさまへおでの御道おみちすがらちょっと立寄たちよられたのですから、すぐにお暇乞いとまごいをいたさねばなりませぬ。お仲間なかまさま大勢おおぜいでになられてります。ゎたしは十一がつ十五にちか二十八にちかにはかえってまいります。あとでは以前いぜんとお御宅おたくさま御厄介ごやっかいあずかり、医学いがく修行しゅぎょういたすやう三尺坊さんじゃくぼうさまからおうせつけられてります。――それから今晩こんばんたのいたしてきたいのは、わたし衣服いふくのことでござります。何卒どうぞかさね新調しんちょうしていただぞんじます。これまでの着古きふるした衣服いふくはおやまにおあずいたしておきます……。』

 大体だいたいこれだけのこといてただちに姿すがたしてしまいました。

 国老こくろう渡邊わたなべ対馬守つしまのかみ日頃ひごろ信心しんじんあつひとなので、このはなし泰治たいじからきくと、早速さっそく羽織はおりおびとを新調しんちょうして奉納ほうのうしました。また柳田家やなぎだけでは綿入わたいれ襦袢じゅばん新調しんちょうして約束やくそくの十五にちってましたが、その才一郎さいいちろう姿すがたせませんでした。

『それでは二十八にちびたのであろう。神様かみさま御用ごようおおいとえる……。』

 そう風評うわさをして二十八にちちました。

 いよいよ当日とうじつとなると、御神前ごしんぜん新菰あらごもき、浄水じょうすいそなえ、卓齋たくさい護摩ごま執行しっこうし、鶴首かくしゅして神使しんし出現しゅつげんけたのでしたが、この到頭とうとうそのことなしにみました。

『ハテナ、うしたのだろう……。』

 不安ふあん失望しっぼうとが一どうかおくもらせました。

 しもんなこと大正たいしょう今日こんにちおこりでもしようものなら大変たいへんです。『十五にちか二十八にちかにはかならるとったからちゃんと準備したくをしてっててやったのだ! それに無断むだん約束やくそくたがえるとはンまり失敬しっけいだ! あんなやつはキット詐欺師さぎし相違そういない。神様かみさまもへったくれもあるものか! 今度こんどたらとらえて警察署けいさっしょわたしてやる……。』まさかそうまでもないかもれませんが、相当そうとう懐疑かいぎまなこひからせることは明瞭めいりょうであります。其所そこくと当時とうじ人達ひとたちはるかに寛容性かんようせいんでました。『これにはなに仔細しさいがあるに相違そういない。そのうちなんとか音信たよりがあろう……。』そうって、べつ不平ふへいわず、ますます信心しんじんをささげたのでした。

 するとえて二日目かめ晦日みそかよるいつごろはたして御神前ごしんぜんれいのおらせがありました。ると才一郎さいいちろうました。

 そこちち才亮さいりょう呼寄よびよせ、一どううらむかえると、案内あんないさるるままに才一郎さいいちろう座敷ざしきとおりましたが、ほかひと退しりぞかせ、泰治たいじ才亮さいりょう才一郎さいいちろうとただ三にんだけで面会めんかいげました。

『一昨夜さくやは』と才一郎さいいちろうはにこやかに『大変たいへん御叮嚀ごていねいなお準備したくあずかり難有ありがとうぞんじました……。』

 泰治たいじまるくして、

………うしてそれを御存知ごぞんじで………。』

『イヤ一昨夜さくや仲間なかま御同道ごどうどうにて当家こちらまいることはまいったので御座ござります。しかし三尺坊さんじゃくぼうさまがお不在るすゆえいそいでもどりました。今晩こんばん三尺坊さんじゃくぼうさま出雲いずも大社おおやしろよりおかえりにつき、これまでおむかえに出張しゅっちょうしたのでござります。今晩こんばん三尺坊さんじゃくぼうさま御本格ごほんかくござります……。』

 これをきッかけにいろいろの物語ものがたり主客しゅきゃくにんあいだおこなわれました。


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