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三尺坊と才一郎

十三 五ヶげつ

 慶応けいおうねん十二がつからよく慶応けいおうねん明治めいじ元年がんねん戊辰ぼしんがついた足掛あしかけ四ヶげつ、そのあいだ才一郎さいいちろうから音信たよりがありませんでした。あめにつけ、かぜにつけ、柳田家やなぎだけ人達ひとたちをはじめ、この事件じけんにかかりったものはありしことおもして風評うわさをしてたのでしたが、どう十六にちよる八ツどきぎ、泰治たいじうら高塀たかべいあたり割竹わりだけをたたくようおとをきいて不図ふとました。

『コラだれじゃ騒々そうぞうしい! はよさぬか!』

 おおきなこえ寝間ねまからとがめましたが、たたいてめないので、家内かない人々ひとびとみなまし、提灯ちょうちんをつけてうらると、うやらそのこえ御神前ごしんぜんきこえたのでいずれもびッくりしてふるあがりました。

しや御神慮ごしんりょたがったことでもあっておとがめをうけけてるのではあるまいか。なにはともあれおびをすることじゃ……。』

 みずびるやら、しおくやら、真言しんごんとなえるやら、皆々みなみな一ツところ集合しゅうごうちぢあがってりますとたちまちガラガラッ! とそとから雨戸あまどきまして、ひょッくりはいってたのはおもいもよらず才一郎さいいちろうでありました。

才一郎さいいちろうござります。神前しんぜん父上ちちうえにおにかかりがありますから御面倒ごめんどうでもおください。』

そうって才一郎さいいちろうはそのまま御神前ごしんぜんってしまいました。

 一どうはいささか安心あんしんむねでおろし、早速さっそく使者ししゃてて才亮さいりょうびにやりますと、才亮さいりょうるものもえずとったさま大急おおいそぎでやってまいりました。

 が、にしろ先方むこう霊界れいかいひとなのですから、我児わがこながらも今迄いままでのような乱暴らんぼう取扱とりあつかいきません。おそおそ御神前ごしんぜんへまかりますと、はたして其所そこには才一郎さいいちろうひかえてました。

父上ちちうえござりますか。先生せんせい太郎様たろうさまもおびください……。』

 言葉ことばすくなに、ただそれだけったのみでした。

 才亮さいりょうばれてみぎ両人りょうにんがやがてまいりました。そして拝殿はいでんまえをついて恭々うやうやしく礼拝れいはいしますと、才一郎さいいちろうは、

『もちとおすすみなされませ、差上さしあげるものがござります。』

いっって、お供物くもつだの、さかづきだのを差出さしだしました。

『これは三尺坊さんじゃくぼうさま御供物おくもつござります。またこのおさかづきはおやまにて皆々みなみなさま召上めしあがりのおさかづきでありますが、三尺坊さんじゃくぼうさまってってやれとおうせられましたので持参じさんつかまつりました。どうぞ頂戴ちょうだいしてください……。』

『これはこれは難有ありがた頂戴ちょうだいいたしまする……。』

 三にんは一せいこうべをさげてあつくおれい申上もうしあげたのでした。

『ここのおみや御普請ごふしんのことについては』とやがて才一郎さいいちろうかただしました『先般せんぱんわたくしどもが大阪おおさかおもて出張しゅっちょうみぎり眷族けんぞくかたから承知しょうちいたしました。何分なにぶん大阪おおさかおもて御用務ごようむおおはなせませぬめ、ようや此頃このごろやまもどることがきたような次第しだいしたがって当所こちら参上さんじょうすることがんなに延引えんいんしてしまいました。三尺坊さんじゃくぼうさまも、おみや御覧ごらんになり、まこと結構けっこう出来できたとおめでござります。』

 泰治たいじよろこび、

わたしどもとしても、それをうかがいましてまことに恐悦きょうえつぞんじます。あなたも今後こんごますますお大切たいせつ御修行ごしゅうぎょうなされませ、わたしはじめ一とうふか御信心ごしんじん申上もうしあげまするにつきましては、今後こんごますます神様かみさま御守護ごしゅごほどねがたてまつつりまする………。』

『その心得こころえましてござる……。』

 泰治たいじ退くと今度こんど卓齋たくさいばれて大阪おおさかおもて戦争せんそう……伏見ふしみ鳥羽とば大阪おおさか落城らくじょうなどの戦争談せんそうだんをきかされる。それから才一郎さいいちろう知人ちじんで三うらのぶろうというひとばれて面会めんかいげる。そのかんちち才亮さいりょう何彼なにか世話せわしたのでした。

 かくて一どう座敷ざしきかえって御神号ごしんごうやら多羅尼だらにやらをとなえ、ふたたうら神前しんぜんておれいをしようとすると、モーそのとき才一郎さいいちろう姿すがたえませんでした。

『ああもうかえられてしまった。なんともお名残なごりしいことだ……。』

 皆々みなみなせたるひとあとおがみて感慨かんがい無量むりょう面持おももちをしたのでした。

 其夜そのよは一どう座敷ざしきあつまり、才一郎さいいちろうからいたことどもをかたみにはなってあかつきたっしました。


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