心霊図書館」 ≫ 「岩間山人と三尺坊」  ≫ 「三尺坊と才一郎

三尺坊と才一郎

十二 秋葉山あきばさん

 そのもやがて暮方くれがたになる。神様かみさま御掟ごじょうだというのでだれ一人ひとりうらるものがありません。すると初更しょこうころ、うつらうつらと玄関げんかん仮睡うたたねをして才一郎さいいちろうが、たちま大声おおごえ

『ハイハイ只今ただいま……。』

怒鳴どなると同時どうじに、ムックリきてうらほうはしきました。

 ほか人達ひとたちには別段べつだんなんごえきこえないのですから、なんことやらさッぱりわけわかりません。ただまるくして呆気あっけられてりますと、もなく才一郎さいいちろうもどってました。

只今ただいまうら神様かみさまにおにかかってまいりました。』

 そうってかれ其所そこすわり、かみ言葉ことばつたえるのでした。

じつはこのあいだ社檀しゃだん背後うしろいてあった角餅かくもちですが、あれは今晩こんばん皆様みなさま御別おわかれのしるしに神様かみさまからくだされたものなそうにござります。ず一つは父上ちちうえ、一つは太郎馬たろうまさま、一つは卓齋様たくさいさま、一つは三うら信次郎しんじろうさま、一つは鈴木すずき岩助様いわすけさま――それぞれに配分はいぶんせよとのおうせでござります。それから今晩こんばんここ居合いあわせたるものには後刻ごこく姿すがたおがませてくださるとのおうせであります。おうめどんにも神様かみさま言伝ことづてがあるのだが……。』

 おうめというのは柳田家やなぎだけ下女げじょなのです。おうめはこれをきいてびッくりして、

『それはんでもねえことだ。なにかわたしが神様かみさま御無礼ごぶれいでもしたのかしら……』

って蒼白まっさおになりました。才一郎さいいちろう微笑びしょうしながら、

『そんなことではないから心配しんぱいしなさるな。下女げじょうめはそのほう世話せわりたるものなり。きよからねどもおがませよ。ながひとよりは遠慮えんりょしておがめ。――そう神様かみさまおうせられたのです。わたしにはなんことだかよくわからぬふしもあるが、かく神様かみさまのお姿すがたおがましてもらえるのだから安心あんしんするがよい。』

『まァー!』

っておうめかおのように真紅まっかにしました。彼女かのじょ当時とうじ月経中げっけいちゅうであったのです。

 それから才一郎さいいちろうは一たん寝床ねどこはいってよこになりましたが、ここのどきで、ほかの一どう引連ひきつれてうらって、そしてかみのお姿すがたはいしたのでした。

いずれも御神おんかみ御姿みすがたはいたてまつり、難有ありがた心魂しんこんてっしたり。ただちわかれの暇乞いとまごいもうし、さすが名残惜なごりおしきさまにてなみだながし、いずれも涕泣ていきゅうしてうちる………』

 筆者ひっしゃ泰治氏たいじしきつけてだけ不相変あいかわらずかみ姿すがた描写びょうしゃはヌキにしてあります。遺憾いかんばんながらいたかたがありません。

 さてそれから才一郎さいいちろう屋根やねのぼり、ほか人達ひとたちは一しん真言しんごんとなえてますと屋根やねうえから才一郎さいいちろうが、

先生せんせい!』

びますので、泰治たいじ何事なにごとかとけてますと、

はなは申兼もうしかねますが何卒なにとぞ卓齋様たくさいさま脇差わきざし風呂敷ふろしきを一つおしください。』

承知しょうちいたした。』

 すぐにみぎの二しなそろえてわたしますと、

難有ありがとぞんじます。』

って受取うけとったが、そのままおともなくなりました。

 一どう御神前ごしんぜん御礼おれい申上もうしあげ、いまはガランとして人影ひとかげのない屋根やねあお才一郎さいいちろう前途ぜんと祝福しゅくふくし、厳粛げんしゅくな、しかしなにやらものさびしい気分きぶん臥床ふしどはいりました。

 翌朝よくちょう御神前ごしんぜんると一ぷう手紙てがみいてありました。その文言ぶんげんぎのとおりでありました。

私儀わたくしぎ九ツここのつ半時はんどき御山みやま申候もうしそうろうこのだん御安心ごあんしん被下度くだされたくそうろう父上ちちうえさま先生せんせい太郎たろうさま卓齋たくさいさま其外そのほか各様かくさま澤井家さわいけ親類しんるい各様かくさま。』

 いよいよ才一郎さいいちろう天狗様てんぐさまれられて秋葉山あきばやまりをしたことがあきらかになりましたので、今更いまさらのように一どう驚愕きょうがくしたのも無理むりはありません。そしてただちにみぎ手紙てがみえてちち才亮さいりょうから町奉行所まちぶぎょうしょとどいでました。その文言ぶんげんとおりであります。

わたくしせがれ同姓どうせい才一郎さいいちろう先年せんねんより寄合よりあい御医師おんいし柳田やなぎだ泰治たいじさま寄宿きしゅく入門にゅうもん医術いじゅつ修業しゅうぎょうつかまつらせそうろうところとうがつ九日ここのか同人宅どうにんたく秋葉山あきばさん御札おふだ天降あまくだり以来いらい追々おいおい奇異きいことり、委細いさいみぎの節所せっしょ町代ちょうだいより申上置もうしあげおきそうろうよし御座候ござそうろうところ今度このたびまた秋葉山あきばさんより御迎おむかえの御印おしるし御座候ござそうろうよしにて、才一郎さいいちろうこと昨夜さくや正九しょうここのどき泰治たいじさまたく屋根やねあがそうろうままにて行衛ゆくえ相知あいしもうさずそうろうところ今朝こんちょう御同人ごどうにん宅裏たくうら鎮守ちんじゅこれありそうろう秋葉宮社あきばぐうしゃまえに、うつしとお書状しょじょう差置さしおきこれありそうろうよしにつき、みぎうつし一つう相添あいそ御達おたっ申上もうしあげそうろう。十二がつ澤井さわい才亮さいりょう。』


戻る

目  次

次へ


心霊図書館: 連絡先