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三尺坊と才一郎

八 巻物まきもの焼棄やきすて

 えて十がつ二十八にちには長男ちょうなん太郎馬たろうま当人とうにん才一郎さいいちろう町内ちょうない大阪屋おおさかや彦助ひこすけの三にん同道どうどう名古屋なごや立出たちいで十一がつ朔日ついたちには秋葉山あきばさんのぼりて御本殿ごほんでんはいし、そのはお山籠やまごもりをなし、二早朝そうちょう下山げざんどう無事ぶじ帰宅きたくしました。

 ねてやしき鬼門きもん空地あきち建築中けんちくちゅうであった祠堂しどうがこのほど出来しゅっらいしましたのでどうにはお宮遷みやうつしをおこない、その家内かない打寄うちより、もちなどげて祝意しゅくいひょうし、その引続ひきつづいて御酒おみきそなえることにしました。かくて数日すうじつ何事なにごともなく打過うちすぎましたがどう十七にち不図ふとしたことから大失策おおしくじりをやりました。

 その前々日ぜんぜんじつ才一郎さいいちろうなんおもったかあたらしいふでを一ぽんもとめててそれを自分じぶんつくえ抽出ひきだしにしまってきました。三なんの三ろうがそれをききつけ、十七にち午時うまどき小供心こどもこころ好奇心ものずきからみぎ抽出ひきだしをけてると、なにやらかみつつんだものがあって、それに『秋葉宮あきばのみや』といてあります。

さい一さん』と何心なにごころなく三ろうたずねました。『いままえつくえ抽出ひきだしをけてると秋葉宮あきばのみやいた包物つつみものがあったが、あれは一たいなにかい……。』

 それをくと同時どうじ才一郎さいいちろうはびっくり仰天ぎょうてんしたさまで、ものをもわず、きてみぎ紙包かみづつみるよりはやいそいで焚火たきびなかほうんでしまいました。

 おどろいたのは三ろうをはじめ、はた居合いあわせた人々ひとびとです。

『これこれ才一郎さいいちろう、おまえ全体ぜんたいうしたというのじゃ?』そうったのはあに太郎馬たろうまでした。『三ろうはただ上書うわがきだけで、中身なかみなんだかりはしない。もやさなくてもよかりそうなものだが……。』

『ナニ中身なかみはまだない……。それならもやすのではなかった! んだことをしてしまった!』

 才一郎さいいちろうたちまそのにワッとくずれてしまいました。

 太郎馬たろうま心配しんぱいして、かさねてたずねました。

『一たいあれは何品なにしななのかい?』

『あれは秋葉山あきばさん御眷族ごけんぞくさまからいただいた大事だいじ大事だいじなお手本てほんです。十四ばんわたし枕元まくらもとへおでになり、そのほうがおやまねがった手本てほんいまここいてつかわすとっしゃって、いてくだすったお巻物まきものです……。勿体もったいないことをしてしまった……。』

 オロオロこえ口説くどきます。

『そいつはまった勿体もったいないことをしたものだ。中身なかみなにいてあるのかい?』

中身なかみ大小だいしょうかんわかれ、だいほう真行草しんぎょうそうの三たいしょうほう楷書かいしょで、細字ほそじ御文章ごぶんしょういてあります。大変たいへん六ヶむずかいものだから、わたしにはめませんと申上もうしあげたところ、神様かみさまは二三べんおしえてくだされ、わたしはすぐにおぼえましたが、只今ただいまでは所々ところどころわすれてしまいました。みぎのお手本てほんくだすッたとき神様かみさまは、このころ大勢おおぜいよく参詣さんけいいたしたナ、とおうせられました。おもえば大切たいせつ大切たいせつ宝物ほうもつはいにしてしまって、残念ざんねんたまりません。うしたらいいでしょう……。』

『さァうしたらいいかしら……。』

 一どうよわってところへ、主人しゅじん泰治たいじそとからもどってて一一什しじゅう顛末てんまつをききました。

『フムそりャ三ろうわるいことはもうすまでもないが、才一郎さいいちろうよろしくない。それほど大切たいせつ品物しなものならば、われ神様かみさまにおれい申上もうしあげ、また小供こどもにもいきかせてくところであった。物事ものごとかくくから斯様かよう不都合ふつごう出来しゅったいする。――が、んだことは何程なにほどなげいたとてせんなきことじゃ。みずびて神様かみさまにおびをするがよかろう。』

 諄々じゅんじゅん説法せっぽうしましたので才一郎さいいちろうようやなみだおさめ、わるるとおみずびておびをしたのでした。

 するとそのまたれい天狗てんぐさんが才一郎さいいちろう枕元まくらもとあらわれ、

てたうえ致方いたしかたなし、べつに一ぽんいてつかわす。ただ以後いご手本てほん当方とうほうあずかりく……。』

われたそうで、十八にちあさ才一郎さいいちろう前日ぜんじつとはってかわった上機嫌じょうきげんのニコニコものでした。


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