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三尺坊と才一郎

七 神授しんじゅ御幣ごへい

 その町内ちょうない人々ひとびと全部ぜんぶ柳田やなぎだあつまり、御来臨ごらいりん御神徳ごしんとく有難ありがたいことをかたい、かがりいてとおしました。はなし公儀おかみへもきこえてりますので、国家老くにがろう渡邊わたなべ対馬守つしまのかみから使者ししゃがあって、今宵こよい一条いちじょうみょう早朝そうちょう屋敷やしきまで申出もうしでよとの命令めいれいがさがる。イヤなかなかの大騒おおさわぎであります。

 翌朝よくちょう泰治たいじ国家老くにがろう屋敷やしき出頭しゅっとう支度したくいたしてりますところへ、ひょっこり才一郎さいいちろうしてました。

先生せんせいさま、あれからわたしまたゆめにおげをけました。』

『してそれはんなおつげで……。』

じつ夜前やぜん御幣ごへいござりまするが、あれは勿体もったいないからかがりなかれてけとのことござります。そういたしましょうか。』

『そりャんだことじゃ。一たい昨夜さくやのような奇瑞きずいは二にあるべきことともおぼえない。して御幣ごへいは、神様かみさま御親おんみずかららせたまえるしなじゃ。二つと人間にんげんかい見出みいださるるものではない。ついては子々孫々ししそんそん大切たいせつ祭祀さいしたてまつるにより、てること御免ごめんくださるように、才一郎さいいちろうそのほうからひたすら神様かみさまにおねがいしててくれい。しそのかなわざるときは、おかみ差上さしあげ、御城おしろのおまもりにいたしてもよい。にもかくにもてること幾重いくえにも御免恕ごめんじょいただきたい。勿論もちろん御幣ごへい奉祀ほうしするについてはあらたに社壇しゃだんもうちからおよかぎ鄭重ていちょういたすつもりじゃ。くれぐれも才一郎さいいちろうそのほうから神様かみさまにおねがいしてれ……。』

 泰治たいじ才一郎さいいちろうをつかまえて熱心ねっしん口説くどてます。才一郎さいいちろうもこれにはいささか当惑とうわくして、

わたくしはただゆめみぎのおつげけただけのことですから、このまま祈願きがんしてもすぐにしるしろうともおもわれません。これからみずび、一生いっしょう懸命けんめいになって祈願きがんいたしてましょう。』

是非ぜひそうしてもらいたい。かくわたくし対馬守つしまのかみ殿どの出頭しゅっとうせにゃならぬ……。』

 御幣ごへい神檀しんだんふか奉納ほうのうしていて泰治たいじ国家老くにがろうやしき出頭しゅっとうし、夜前やぜん事柄ことがらはじめからしまいまでことこまやかに申上もうしあげたのでした。十六にちはそんなことおわり、くる十七にちあかつき才一郎さいいちろうは、またゆめ神告しんこくけました。それは

御幣ごへい奉祀ほうしはたやすからぬことなれど、とく相談そうだんし、+八日迄にちまで返答へんとうすべし。』

というのでした。で、十八にち一同いちどうみぎ返事へんじちましたがついに何等なんらのおつげくだりませんでした。芙山ふざん老師ろうし心配しんぱいして、泰治たいじむかい、

『あれは柳田やなぎだたまわり、けとめいぜられたものじゃ。それをおまえ殿様とのさまへさげてくれなどとねがうのは筋道すじみちちがってる。かならず神様かみさまのおこころそむいてるに相違そういない。いそいで神様かみさまへおびを申上もうしあげるがよい。』

きましたので、泰治たいじにわかにおそろしくなり、みずびておびしたのでした。

 十九にちはおまつり最終さいしゅうでありますから皆々みなみな早天そうてんから食事しょくじにかかろうとすると、才一郎さいいちろうしてて、

難有ありがたゆめつげがありました。』

もうします。

『ナニ難有ありがたいおつげ……。……ういうおげじゃ?』

 泰治たいじをはじめ一どう才一郎さいいちろう身辺しんぺんあつまりました。

昨晩さくばんでのおかたれいのおかたでしたが』と才一郎さいいちろうはやがてかたりはじめました。『あの御幣ごへい折角せっかく柳田やなぎだ持来もちきたりしものであるのに殿様とのさま差上さしあげたいとはいかなる了簡りょうけんじゃとひどいおしかりでござりました。わたくしこまり、だんだんおびを申上もうしあげますと、神様かみさま柳田やなぎだ社頭しゃとう大切たいせつまつれ! 社頭しゃとうべつ華美かびにするにはおよばぬ、ただ清浄せいじょうだい一に心懸こころがけよとのおおせでござります。』

有難ありがたことじゃ!』

泰治たいじ肺肝はいかんからさけびました。才一郎さいいちろう言葉ことばをつづけ、

お一たん奉祀ほうしせる御幣ごへいかならずひとおがますべからず、しこの命令めいれいやぶればきわめてたたりあり、きびしくつつしめよとの神様かみさまおおせでござります。そこわたくし不図ふと心付こころづき、家内かないのもので御幣ごへい拝礼はいれいせぬものがござりますから、一御許おゆるしくだされたいとねがいましたところ、神様かみさま暫時しばらくかんがえになられ、左様さようならば一ぺん拝礼はいれいゆるすとおおせられました。』

 これをきいて人達ひとたちいずれも感涙かんるいもようしました。才一郎さいいちろう物語ものがたりおもつづきました。

神様かみさまおおせには、この御幣ごへい大切たいせつまつとき当家とうけ勿論もちろん親類しんるいいたまでなが火難かなんのがれるとのござります。そこわたくしまたうと心付こころづき、凡夫ぼんぷことでおまつりそのなにかにつけて御心みこころかなわぬことござりましょう。そのせつわたくしにおげくだされ、たたりひとえ御免ごめんくだされいと申上もうしあげますると、承知しょうちいたした、との御返事ごへんじござりました。神様かみさま先生せんせいをはじめ皆様みなさまのお年齢とし一人ひとり一人ひとりにおたずねでござりました……。』

勿体もったいないことじゃ。』

 一どう神前しんぜんあつまって衷心ちゅうしんから御礼おれいもうげたのでした。

 門前もんぜんかざりをったのはその夕方ゆうがたでした。そして家内かないどう御幣ごへい奉拝ほうはいうえあつふうじて御酒おみきそなうやうやしく神壇しんだんおさめたのでした。


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