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三尺坊と才一郎

六 三尺坊さんじゃくぼう来臨らいりん

 十がつの十四には何事なにごとおこらずにみましたが、くる十五にち早朝そうちょう才一郎さいいちろう泰治たいじむかい、夜前やぜんゆめなか天狗界てんぐかいからの使者ししゃあらわれたことをげました。

昨晩さくばんでになられたお使者つかい矢張やは先日せんじつのおかたでした。そのお言葉ことばは、今晩こんばん三尺坊さんじゃくぼうさま御来臨ごらいりんになるから、神前しんぜんもとより邸内ていないきよらかに掃除そうじし、ひとまぬ新菰あらごもきかえよ。町内ちょうないもの拝礼はいれいおもうものがあるなら、二ほんたけ両脇りょうわきこもいて其所そこおがませるがよい。御来臨ごらいりんときなにかのおらせがある。そのとき燎火かがり提灯ちょうちん一つものこらずし、往来おうらい雑人ざつじん通行つうこうきんじねばならぬ……。大体だいたい斯様かようおうせでござります。』

『それはまた大変たいへんなことじゃ!』

 泰治たいじおどろよろこび、早速さっそくみぎむねを、町代ちょうだい現今げんこん町長ちょうちょう)にとどけ、町代ちょうだいからはさら奉行所ぶぎょうしょ申達しんたつしましたので、ほどなく奉行所ぶぎょうしょからは才一郎さいいちろう呼出よびだし、始終しじゅうったのでした。才一郎さいいちろう帰宅きたくしたのはモー夕刻ゆうこくでしたが、そのときまでには町奉行まちぶぎょうめいにより、町内ちょうない通行つうこう厳禁げんきん命令めいれいくだってました。

 柳田やなぎだ人達ひとたちは一どう斎戒さいかい沐浴もくよくうえ衣服いふくあらため、町内ちょうないものみなきよめ、日頃ひごろごと灯明とうみょうをかかげ、才一郎さいいちろう太郎馬たろうまそのほか二三にん御神前ごしんぜんつぎし、泰治たいじ燎火かがりびまえ蹲踞そんきょし、いまおそしと時刻じこくちました。

 二こうちかりたるころ泰治たいじはそっと才一郎さいいちろうほううかがると、睡気ねむけもよおせるようにて、くびうなだれてります。太郎馬たろうまもこれにがついて手真似てまねらせますので、泰治たいじはいよいよ時刻じこくであるとさっし、燎火かがりびさらなり、家々いえいえ提灯ちょうちんすべくれまわりました。ただ向側むかいがわ中島屋なかじまや提灯ちょうちん一つだけすことわすれてりますと、みぎ提灯ちょうちんひとにクルクルとまわし、三四たび上下じょうげ動揺どうようしてやがてボタリとちました。その実況じっきょう目撃もくげきしたものはみなあおくなって慄上ふるえあがりました。のちになってしらべてると蝋燭ろうそくは二つにれてたそうです。

 さて一とうおわり、平伏へいふくして柏手かしわでち、秋葉あきば三尺坊さんじゃくぼう大権現だいごんげんさまという御神号ごしんごうとなえつづけました。才一郎さいいちろう人々ひとびと同様どうようにそうしてましたが、やがて才一郎さいいちろう

皆様みなさま最早もはや相済あいすみました。』

もうしますので、神号しんごう奉唱ほうしょう中止ちゅうしし、ふたたびお灯明とうみょうともしたり、また御神前ごしんぜん提灯ちょうちんけたりしました。

うじゃそのほう神様かみさま御姿みすがたおがんだのか。』

 泰治たいじ早速さっそく才一郎さいいちろうむか質問しつもん開始かいししました。

『ハアわたし最前さいぜん坐睡いねむりして不図ふとひらきますと、御神前ごしんぜん灯明とうみょうえると同時どうじ御五方おいつかた御来臨ごらいりんあそばされました。コリャ大変たいへんだとぞんじましていそいでのこりの提灯ちょうちんつくし、門前もんぜんたけわきはし拝伏はいふくしてりましたが、どうやら御神前ごしんぜんほうおときこえますので、くびげてあおれば、やおたちあそばされ御五方おいつかた御揃おそろいみなみして御出立ごしゅったちになられました。』

『シテ御五方おいつかたのお姿すがたは?』

『お姿すがたはかねておはないたしたとお申上もうしあげげるわけにはまいりませんので……』と才一郎さいいちろうはそのてんだけはどうしてもくちつぐみて何事なにごともらしません。『御五方おいつかたなかで五番目ばんめ御方おかたわたし御山おやまれてかれたおかたです。四番目ばんめのおかた毎度まいどゆめにおでなさる御方おかたなか御方おかた御山おやま親玉おやだまさまござります。のお二方ふたかたわたしぞんぜぬおかたでありました。』

ほかなんかわったはなしはないか。』

泰治たいじせまりましたが、才一郎さいいちろう

『それだけござります。このほかにはべつにおはなもうすべきことございません。』

こたえました。

 それから御神前ごしんぜんると、上段じょうだんそなえてあった神酒みきつぼ柑子かんし、しめじたけこもうえろしてあり、つぼれば一ぱいつめた神酒みき過半かはんげんじてました。

神様かみさま召上めしあがってくださったのじゃ。なん有難ありがたいことではないか! 一とうあまりを頂戴ちょうだいすることにいたそう。』

 そうって泰治たいじつぼりあげ、うやまつつしみて、一てきづつみなものいただかせました。

 不図ふとがついてると新菰あらごもうえには白紙しろかみ黒木くろき御幣ごへいいてありました。才一郎さいいちろうはそれをると、

『これは御山おやまで、お手本てほんにとてってわたしたまわりし御幣ごへいであります。』

もうしました。


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