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三尺坊と才一郎

五 三尺坊さんじゃくぼう

十三にち午後ごごになって才一郎さいいちろうふたたましました。そしておなかいたとって平常ふだんとお食事しょくじませ、灯明とうみょう神檀かみだなそなえてすこしも平生へいぜいかわった模様もようえません。そこ泰治たいじ才一郎さいいちろうんで質問しつもんはじめました。

才一郎さいいちろう其方そちうしておやまったのじゃ? ちく事情じじょう物語ものがたってきかしてくれ……。』

 才一郎さいいちろう落付おちついて巨細こさい物語ものがたりをはじめました。

じつわたし夜前やぜん小用こようきてうらたのでございます。すると母屋おもや屋根やねうえ周囲まわり七八すんきん光物ひかりものがあるのです。大曽根おおそね名古屋なごや東北とうほくまち)では黄金おうごん大黒天だいこくてんったというはなしですから、しやそんなものではないから……。そうおもいましたので高塀たかべいのぼりますとそのままくともなしに大屋根おおやねうえしまいました。オヤッ! とおももなくわたしからだはそのまま空中くうちゅうあがってしまいましたので……。』

『フム随分ずいぶんくもをつかむようなはなしじゃナ。してそのとき其方そち単独ひとりか?』

『イヤふとがついてるとだれやらみぎひだり一人ひとりづつりましてわたし左右さゆうってくれ、またうしろからも両手りょうてこししてくれてるものがあるのです。そのはやさとったらまことにもとまらぬくらい、ブーッ! というかぜおとみみがちぎれそうで、頭髪かみのけなどはバラバラにげられました。こころみにそらあおぎますると、お月様つきさまも、お星様ほしさま地面じべたるよりずっとおおきい……。』

『そんなこともあるかもれない。それから……。』

『それからもなく頭髪かみのけしたからうえ吹上ふきあげらるるようにおぼえますと、たちまわたしからだ御山おやま御神前ごしんぜんいしうえりてります。そのときまえ御方おかたが、これは秋葉山あきばさん御神前ごしんぜんである、参詣さんけいせよ、とおうせられますので、早速さっそく礼拝れいはいしようといたしますと、ふたたびグイ! と空中くうちゅう引張ひっぱげられ、やがてかがりひかり白昼はくちゅうをあざむくところろされました。れば親玉おやだま三尺坊さんじゃくぼうさまをはじめたてまつり、その左右さゆうには大勢おおぜい方々かたがた威儀いぎ堂々どうどうならんでられます。そしてその大勢おおぜいなかから一人ひとりかたあらわれてわたしまえまいり、先夜せんやゆめ姿すがたせたのはそれがしであるとのおうせ成程なるほどそのかおには見覚みおぼえがありました。』

成程なるほどな……。』

泰治たいじ感心かんしんしてひざすすめました。

『そうするうち親玉様おやだまさまが、白紙はくし御幣ごへい枯木かれきえだはさんでわたしわたされました。そしてそち柳田家やなぎだけ代参だいさんしるしこれさずくるのであるとおうせられて、三ほううえから御札おふだまい銀紙ぎんかみまいり、この銀紙ぎんがみでこの手本てほんとおりに御幣ごへいって、しかじかのひとくばれとのおうせでござりました。んでもそれを信心しんじんすればなが火難かなんまぬがれるそうにござります。お手本てほん御幣ごへいいただいて其所そこ荒菰あらごもうえきました。』

 才一郎さいいちろうほかにもいろいろの物語ものがたりをしました。可笑おかしかったのはかれ天狗てんぐさんにむかって寝小便ねしょうべんくせなおしてくれとたのんだことで、天狗てんぐさんは、それにはなんともこたえがなかったそうです。神罰しんばつおそろしいはなしました。『今度こんど世間せけん御札おふだしてから八にんほど裂殺さきころしてやった』そう天狗てんぐさんがいますので、才一郎さいいちろうが『どういうものをおころあそばされました』と質問しつもんすると『かみ粗末そまつにするものひとにくしみをけて悪人あくにんどもを裂殺さきころしたのじゃ。』とこたえたそうです。

 才一郎さいいちろう厳達げんたつされたのは、親玉おやだま三尺坊さんじゃくぼうをはじめ、一とう姿すがたけっしてひとはなこと相成あいならぬということで、このきんやぶればたちまきにされるというのでした。しかし、その事柄ことがらかんしては相当そうとう寛大かんだいで、多少たしょう道楽味どうらくみったようなものも加味かみされてりました。かれんなこと物語ものがたりました。――

三尺坊さんじゃくぼうさまは、御手おてづからわたしにお神酒みきたまわり、これは柳田やなぎだにてそなえたさけである。其方そのほうはたべぬゆえ少量すこしにしてけとおうせられました。おさかなには七けんほどさかな切身きりみいただきましたが、イヤその風味ふうみまこと結構けっこうござりました。』

 才一郎さいいちろう物語ものがたりおわりのほうはなはだボンヤリしてました。今朝けさけると、いつのにやらかえってたというまでで、途中とちゅうことは一さい記憶きおくのこってないのでした。


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