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三尺坊と才一郎

三 気絶きぜつして七五三しめ

 りょう別段べつだんかわったこともなく打過うちすぎましたが、十三にちこく午後ごご)とおぼしきころ、そよとのかぜかったのにひがしうらてた青竹あおだけ中程なかほどからぽッきとれました。それを目撃もくげきした人々ひとびと心配しんぱいたまりません。

神様かみさま御心みこころかなわないからたけれたのかもれない……』

 そうおもって、今度こんど周囲まわり七八すんふとたけ千賀ちが屋敷やしき監獄かんごくあと)からってあらたにてかえ、神様かみさま御心みこころなぐさめるめだとって、つくものなどして、多勢おおぜいあつまってにぎやかにあそたわむれてたのでしたが、もややくままにかがりし、いざ就寝やすもうとしてると才一郎さいいちろう姿すがたえません。

『さァ大変たいへんなことにった! こりャ神様かみさまがおいかりになって神隠かみかくしをされたに相違そういない……。』

燎火かがりびでもいてみんなでおびすることだ。るどころのはなしでない……』

 一ぽう泰治たいじの二なん卓齋たくさい下僕しもべ利助りすけれて才一郎さいいちろう捜索そうさく出懸でかける。他方たほうではもん向側むこうがわ中島屋なかじまや甚助じんすけ番頭ばんとうすけ七、すけ七のつま長男ちょうなん太郎馬たろうまなどが燎火かがりびく。次第しだいはしんしんとけてきました。

 やがて卓齋たくさい利助りすけ二人ふたり才一郎さいいちろうたずてずボンヤリかえってましたので、かがりそば人々ひとびとこえをかけようとする瞬間しゅんかん忽然こつぜんとしてひがしてたるたけがさやさやとおとしてたちまちパキンとれました。太郎馬たろうまおぼえず拝伏はいふくして一しん神号しんごうとなえつつそッとむこうをのぞいてると、こはそもいかに! 七五三しめ真中辺まんなかへん才一郎さいいちろう気絶きぜつしてかかってるのです! そして才一郎さいいちろうたずさえてたものとおぼしく、なにやら青竹あおだけはさんだものが地面じべたちてります。

 物音ものおとをききつけて泰治たいじをはじめ家内かないものいずれも素足すあしはしで、ブルブルふるながかがりまえ拝伏はいふくしました。

才一郎さいいちろう神様かみさまころされたに相違そういない。かくみんなでおびをすることだ!』

 泰治たいじは一しん不乱ふらんになって神号しんごうとなえるあいだ太郎馬たろうまみずび、かのちたるものをひろげ、御神前ごしんぜんてかけました。

『これ! 才一郎さいいちろう! をたしかに!』

 人々ひとびとこころみにおおきなこえんでてもなん返事へんじもありません。そこ梯子はしごけておろそうとしましたがそれもたかいので容易よういろすこともきません。人々ひとびとはただただあわてさわぐのみでした。

 するとそのでたのが芙山ふざんというろう禅僧ぜんそうでした。このひと駿州すんしゅう清見寺せいけんじ隠居いんきょさんで、泰治たいじ再従兄いとこあたおりから柳田家やなぎだけ逗留とうりゅうしてたのでしたが、

『まァたッしゃいわしおろしてあげる……。』

って、六十四さい老体ろうたいにもかかわらず、するすると梯子はしごのぼり、いとかろやかに才一郎さいいちろういだり、御神前ごしんぜん荒菰あらごもうえかせました。このはなわざまたかたならず人々ひとびとをびッくりさせました。元来がんらいきわめて非力ひりき老人ろうじん、とてもこんな力業ちからわざてきせぬでありながら、べつおもそうな様子ようすせず、才一郎さいいちろういだきおろしたのですから不思議ふしぎおうか奇妙きみょうもうそうか、まった常識じょうしきでは説明せつめいのつかぬ事柄ことがらなのでした。

神様かみさま御力添おちからぞえに相違そういない。勿体もったいないはなしだ……。』

 見聞みきひといずれもしたかざるはないのでした。


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