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岩間山人と寅吉

 三十九 天狗てんぐへの手紙てがみ

 寅吉とらきち岩間山いわまやまもどとき平田ひらたおうそのちょたま真柱まはしら』にえて一つう手紙てがみ山人さんじんおくったことは物語ものがたりうちにもいてありますが、その手紙てがみ原文げんぶん紹介しょうかいすることにいたします。――

 今般こんぱん不慮ふりょ貴山きざん侍童じどう面会めんかいいたし、御許おんもと御動静ごどうせいほぼうけたまわり、年来ねんらい疑惑ぎわくらし候ことどもこれあり、じつに千ざい奇遇きぐうかたじけなく奉存候。それにつき、失礼しつれいかえりみず、侍童じどう帰山きざんして一簡呈上かんていじょういたし候。もってその御衆中おんしゅうちゅうますます御壮盛ごそうせいにて、御勤行ごきんぎょうよし万々ばんばん恐祝きょうしゅく奉り候。そもそも神世かみよより顕幽けんゆう隔別かくべつ規定さだまり有之これあり候ことゆえ、幽境ゆうきょうこと現世げんせよりうかががたに候へども、現世げんせ御許おんもとにて委曲いきょく御承知ごしょうちこれあるおもむくに候へば、さだめて御存ごぞんじくだされ候ぞんじ奉り候。拙者せっしゃ天神てんじん地祗ちぎ古道こどうまなあきらめ、あまねくひろめたき念願ねんがんにて、不肖ふしょうながら先師せんし本居もとおりおう志業こころざしをつぎ、多年たねんその学間がくもん刻苦こっく精励せいれいいたしまかりあり候。しかしながら、現世げんせ凡夫ぼんぷとしては、幽界ゆうかいことはなかなかうかがわきまがたく、疑惑ぎわくわたり候ことども数多あまたこれあり、はなは難渋なんじゅう仕り候間、この以後いご御境おんさか相願あいねがい、御教誨ごきょうかいけ候て疑惑ぎわくはらたくぞんじ奉り候。この何分なにぶんにも御許容ごきょうようくだされ、時々ときどき疑問ぎもん祈願きがん仕候せつは、御教示ごきょうじくだされ候相成あいなるまじく候や。相成あいなるべくは、侍童じどう下山げざんみぎりに、みぎ御答おんこたえしくだされたくようひとえねがいあげ奉り候。このもし御許容ごきょうようくだされ候わば、祭礼さいれいとして生涯しょうがい毎月まいつき拙者せっしゃ相応そうおう祭事さいじ勤行ごんぎょうつかまつるべく候。さてまた先達せんだって著述ちょじゅついたし候たま真柱まはしらもうしょ御覧ごらんれ候。これは神代かみよ古伝こでんによって、およばずなが天地てんちかん真理しんりまた幽界ゆうかいことをも考記こうき仕り候ものに御座候。凡夫ぼんぷのったなき覚悟かくごもっかんがえ候事故ことゆえ貴境ききょう電覧でんらん候わば相応そうおう考説こうせつもこれあるべきかとぞんじ奉り候。もしらんなしくだされ、相違そういことども御教示ごきょうじくだされ候わば現世げんせ大幸だいこう勤学きんがく余慶よけいと、生涯しょうがい本懐ほんかいこれにぎずと存じ奉り候間、尊師そんしよろしく御執成おとりなくだされ、御許容ごきょうようこれあるよう、ひとえたのみたてまつり候。

 一向ひたすら古道こどうしんまなび候凡夫ぼんぷ誠心まごころより。貴界きかい御規定ごきてい如何いかんということもわきまえず、書簡しょかんていし候不敬ふけい罪過ざいかは、幾重いくえにも御容恕ごようじょほどおおねがうところに候

恐惶謹言。

平田ひらた大角    

   十月十七日            平 田 篤 胤 花押

  常陸国岩間山幽界

    雙岳山人御侍者衆中

 

 以上いじょう手紙てがみ全文ぜんぶんですが、天狗てんぐさんに直接ちょくせつ手紙てがみおくったというのはまこと痛快つうかいきわまる仕業しわざぞんじます。平田ひらたおう面目めんもく文中ぶんちゅういたるところ躍動やくどうしてります。いわく『拙者せっしゃ天神てんじん地祗ちぎ古道こどうまなあきらめ、あまねくひろめたき念願ねんがんいわく『この後は御境おんきょう相願あいねがい、御教誨ごきょうかいけ候て疑惑ぎわくはらく』いわく『し御一らんしくだされ、相違そういことども御教示ごきょうじもくだされ候わば現世げんせ大幸だいこう勤学きんがく余慶よけい』……なんという熱誠ねっせいなんという篤学とくがくなんという気概きがいでしょう。今日こんにちわれわれが平田ひらたおうからまなぶところはけっして尠少せんしょうではないとぞんじます。

 平田ひらたおう帰山きざんさい寅吉とらきちおくった数首すうしゅ和歌わかがありますから、それを採録さいろくして本篇ほんぺんおわりといたします。――

  寅吉とらきち山人さんじんみち修行しゅぎょうやまるにみておくる

   とらきちやまにしらばかくり

             らえぬみちだれにかはむ。

   いくたび千里ちさとやまよありかよひ

             ことをしへてよ寅吉とらきちや。

   神習かんならうわが万齢よろづよいのりたべと

             山人やまひとたち言伝ことづてをせよ。

   かみみちしくこそあれさもなくば

             さしもいのちのをしけくもなし。


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