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岩間山人と寅吉

 三十七 やま師匠ししょう折檻せっかん

 平田ひらたおう平生へいぜいるべく寅吉とらきち叱言こごとわぬ方針ほうしんで、気儘きまま放題ほうだいにさせてありましたが、御神水ごしんすいかたあまりに不謹慎ふきんしんであったので、とうとう寅吉とらきちをきびしくしかりました。

おまえ師匠ししょう御神事ごしんじといえばあくまでおごそかに取扱とりあつかうというのに、おまえ何故なぜ師匠ししょう真似まねをせぬのだ。また平常へいぜいのアノいたずらはうしたものだ。やまときとはちがって、このれば、すこしはこのれいらなくてはならぬ。さきにはおもむねありて、ワザとおまえててあったが、すこかんがえることがあるから、おれやま師匠ししょう遠方えんぽうからことわって、今後こんごすこしづつ叱言こごとうぞ。――一たい悧怜りこう割合わりあいおまえっともおれおしえまもらないのはドウしたものか。やま師匠ししょうおまえしからなかったのか。やまたりいたりしたことはよくおぼえておまえおれからならったことを一つもおぼえてないというのは不思議ふしぎでならぬ! ……』

 諄々じゅんじゅんさとされますと、寅吉とらきちもひどく恥入はじいり、日頃ひごろ似気にげなく殊勝しゅしょうらしくこたえました。

先生せんせいからそうわれてると、つくづく自分じぶん欠点あらわかります。じつやまときも、師匠ししょう言葉ことばまもらぬめにしかられたことが幾度いくどあったかれません。そういうおりには、しりペタをつなたれたり、唾液つばきかけられたり、またいろいろの難題なんだいもうしつけられたりします。わたし彼地あち此地こっちてられたのもまり吩咐いいつけまもらぬからの懲罰しおきです。それがおそろしいばかりに師匠ししょう言葉ことばまもるようになりましたが、こちらでは今迄いままでそれがありませんから、なに悪意わるぎがあってのことではないのですが、ツイ油断ゆだんして悪戯いたずらをやるのです。』

やま師匠ししょうから 大体だいたい什麼どんな懲罰しおきをされたか。後日ごじつめにいてこう』と平田ひらたおうからうながされて、寅吉とらきちぎのような思出おもいでがたりをいたしました。

わたし小供こども時分じぶんから衣服きものたもとわるくせがありました。やま師匠ししょうはそれをなおせと所中しょっちゅう叱言こごとわれましたが、ツイわすれてまたるので、いつのにやら師匠ししょう蕃椒とうがらしをどっさりたもとけてかれました。そうとはらず、平生いつもとおまたんだのですからたまりません、たまほどからったものですから、とうとう一りごりしてわるくせみました。

『それからまたわたしわるくせ雪隠せっちんはいって、鼻唄はなうたなどをうたなが長居ながいすることでした。これなども言葉くちだけの訓戒くんかいではなおりませんので、師匠ししょうんでもない方法ほうほうかんがされました。わたしれいとお雪隠せっちんなかしゃがんでりますと、つめながい、がモジヤモジヤした化物ばけものあなからわたししりでるのです。わたしきもつぶしてそれからはなが雪隠せっちんやめました。その当時とうじはホンモノの化物ばけものとばかりおもいつめてましたが、無論むろんそうではありません。それも師匠ししょう懲罰しおきの一つなのです。わたしことをよく面倒めんどうるかわりにまたきびしくしかるのは左司馬さじまでした。わたしれいひが根性こんじょうで、彼奴あいつ師匠ししょう真似まねばかりしゃがって生意気なまいきだ。なにか一つ欠点あらをさがして、師匠ししょう告口つげくちしてお目玉めだま頂戴ちょうだいさせたいものだとかまえてりますと、とき左司馬さじまたわむれに百しょう仕掛しかけてあった水車みずぐるまはずしました。塩梅あんばいだとおもって、そのこと師匠ししょうげますと、師匠ししょうわたし言葉ことばそこねたふうをして、ナニッおまえは百しょう水車みずぐるまはずしたというのか。ひと難儀なんぎになることすとは不埓ふらちやつだとって、おかどちがいにわたししかりつけますので、わたし躍起やっきとなりて弁解べんかいしましたがうしてもみみれてくれません。左司馬さじま穏和おとなしいが、おまえ悪戯いたずらきでこまる。それに自分じぶん悪事あくじひとことにして告口つげくちするなどはもってのほかだ。此様こんやつふうめるにかぎるというので、わたしことをまるまる一日間にちかんはこのようなものなか檻禁かんきんしました。これなどもひと告口つげくちはせぬものだということ実地じっちしめしたものだとわかりましたから、それ以来いらいわたし告口つげくちはバッタリいたしません。

師匠ししょう平生へいぜい柔和にゅうわかおをしてますが、おこってしからるるときは、ひたいあか竪筋たてすじが二三ぼんがって二たられぬおそろしいかおになります。また今日きょう師匠ししょうないから大丈夫だいじょうぶだなどと油断ゆだんして、悪戯いたずらでもってろうものなら、突然とつぜん脊中せなかをピシャリとたるることなどもあります。びっくりしてかえっててもかげかたちもありません。そんなとき気味きみるさ! こりャ滅多めった悪戯いたずらはできないとつくづくみます。

『そのほか懲罰しおき種類しゅるい沢山たくさんあります。此方こっちいとって、みみられたり、るいやつだとってしりをまくりてたれたり、つねられたり、またつばをかけられたりします。しりつばをひっかけられるのは気色きしょくるいものですが、なかでもしおんで、そのつばをかけられるのは、ひりひりしみて、そしてイヤにねばねばして、んなにこまることはありません。ときとするとおれまえすわってれッ! とって、一にちき、いささかでもうごかさずにることもあり、またときとすれば左手ひだりて並々なみなみみずいだ茶碗ちゃわんたされ、右手みぎてをつけた線香せんこうにぎらされ、えるまでかれることもあります。あるときわたし拇指おやゆび線香せんこうしたところをこっそりってましてますと、師匠ししょうはいつのにかかんづいて、にくやつだ! 線香せんこうったばつとしていまほん線香せんこうてッ! とわれたにはよわりました。』


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