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岩間山人と寅吉

 三十三 師匠ししょうきたかみ

 天狗てんぐ山人さんじんとの区別くべつまた杉山すぎやま組正そしょう人物じんぶつとうにつきては、さしあた何人なんびと不審ふしんおもうでしょうが、それにつきての寅吉とらきち説明せつめい余程よほどめずらしいもので、是非ぜひ紹介しょうかいしなければなりませぬ。――

俗界ぞくかい人々ひとびとは、仙人せんにん山人さんじん悪魔あくまその人間界にんげんかい以外いがいあやしきものをすべて天狗てんぐとなえますが、じつはそれぞれはっきりした区別くべつがあります。岩間山いわまさんの十三天狗てんぐというなかに、まこと山人さんじんわずかに四めいしかありません。わしとび其外そのほかものばけけたので、それこそホンモノの天狗てんぐです。山人さんじんもと俗界ぞくかいひとですが、なにかの理由りゆうやまり、ひとまじわりをち、山中さんちゅうもの衣食いしょくようべんずることをおぼえ、とりけもの友達ともだちとするようになり、安閑あんかん無事ぶじに、いしごと長生ながいきをしてひとたちです。からでは仙人せんにんといいますが、大体だいたい山人さんじんとかはりません。

師匠ししょう杉山すぎやま組正そしょうやまむから山人さんじんとなえますが、じつきたるかみで、仏法ぶっぽう渡来とらい以前いぜんから、いまとおりの姿すがたをしてるそうです。神通力じんつうりき自由じゆう自在じざい、そのやま神社じんじゃ守護しゅごし、ときには、そのやまかみともあがめられ、あれやこれやと人間界にんげんかいのお世話せわばかりされてります。

わたしこと南台丈山なんだいじょうさんれてった、かの老人ろうじん素性すじょういまだにわたしにもわかりません。あの老人ろうじん近頃ちかごろ山替やまがえをしたというはなしいたこともありますが、その老人ろうじんこそ杉山すぎやま組正そしょう分身ぶんしんのようにもおもわれ、そうかとおもえばまた別人べつじんのようにもあります。まった合点がてんのゆかぬはなしで、あの当時とうじことおもうとまるでゆめのようです。

みぎ次第しだいで、師匠ししょうもと何所どこひとだということわかりません。んなえらひとのことをやまではワケモチノみこともうします。お名前なまえ本字ほんじで「僧正そうじょう」ともいて矢張やはり「ソウシャウ」とんでとなえます、「杉山すぎやまそうしゃう、ワケモチノみこと」――そうぶのです。

師匠ししょう時々ときどきやまめぐりをなされます、やまめぐりとは、彼山あのやまこのやまかわるがわるたがいめぐきて受持うけもつからそうとなえるのです。去年きょねん極月ごくげつからこの正月しょうがつまでかん三十にちあいだ師匠ししょう象頭山ぞうずさんられましたが、それも矢張やはやまめぐりの一つであります。象頭山ぞうずさんというやまつねににぎやかで山人さんじん天狗てんぐなどというものが随分ずいぶん沢山たくさんりましても、まわねますから、諸国しょこく山々やまやまから手伝てつだいにくのです。こと寒中かんちゅう祈願きがんひと沢山たくさんありますから尚更なおさらで、山人さんじんのみでなく、鳥獣ちょうじゅうばけたる天狗てんぐまでも手伝てつだいにきます。金毘羅こんぴらさま山人さんじん天狗てんぐとうおさのようなかたですからはばもきくわけで、ほかやま山人さんじんのように、本山ほんざん他山たざんめぐられることなどはありません。師匠ししょうめぐられたやまなかで、わたしってりますのは、象頭山ぞうずさん烏山からすやま妙義山みょうぎさん筑波山つくばさん岩間山いわまさん大山おおやまなどです。師匠ししょう大山おおやまられた時分じぶん常昭じょうしょうという名前なまえもちいられました。一たい大山おおやま山人さんじんちょう常昭じょうしょうというひと僧形そうぎょうですが、そのひとほかやまやまめぐりにかけて不在るすであったあいだ自家うち師匠ししょうそのいおりんで名前なまえまで拝借はいしゃくした次第しだいです。やまってももと名乗なのらずそのやま山人さんじん借用しゃくようするのが規則きそくです。

師匠ししょう金毘羅こんぴらかれるときは、十二にんなか毎年まいねんにんづつくじびきで出掛でかけます。ところかん三十にち山人さんじんりて大切たいせつぎょうときで、一ねん寒行かんぎょうつとむればそれだけくらいすすむべきところを、讃岐さぬききのめに一ねんフイになるのでみなきらいます。師匠ししょうくじあたられたときけっして代人だいにんすようなことはありません。が、ほかひとはよく代理だいりでごまかします。

師匠ししょうは一けん四十さいばかりで、かみはえなりにこしへんまでれ、それに真鍮しんちゅう鉢巻はちまきをし、山伏やまぶし衣服きものはかまけてられます。身材みのたけは五しゃく七八すん平生へいぜいみ、ナイのいんむすび、咒文じゅもんとなえ、こしには太刀たちかれます。すべて山人さんじん衣服きものは、人間界にんげんかいんで時代じだいもちいたものをとしひさしく着用ちゃくようし、それを着古きふるしたときには、人間にんげん古着ふるぎをもますが、しかし女子おんなたものはもちいません。わたし師匠ししょう人間界にんげんかいころ衣服きものというものをましたが、あさのようにえてやわらかなもので、割合わりあいちてりませんでした。』


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