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岩間山人と寅吉

  三十一 お名残なごり

 邪神じゃしん退治たいじが一段落だんらくつくと、平田ひらた夫人ふじんふたたすすまして、

神様かみさま少々しょうしょう御伺おうかがいたしたいことござりまする。』

もうしますと、

なんなりとえ。』

とのはなは心易こころやすげの返事へんじでした。

じつ此所ここりまするははこと、ひさしく病気びょうきにてこまってりまするが、何時いつごろなおりますものか御伺おうかがい申上もうしあげまする。』

『そのはしばらくて。しらべてつかわす、――そのほういそいでってまいれ。』

と、何所どこかへ使者ししゃしたていでしたが、暫時ざんじにしてみぎ使者ししゃかえってたらしく、

『この病気びょうきはむづかしい。あきにもなったらかろうが、ながい。』

との返答へんとう夫人ふじんかさねて、

何分なにぶん大角だいがく大恩たいおんけたものでござりまするから、すこしもはや全快ぜんかいするようおねが申上もうしあげまする。』

『それは随分ずいぶんよくしてつかわす――大角だいかくかみみちひろめることに熱心ねっしんであるが、とかく邪神じゃしんどもが大勢おおぜい邪魔じゃまをしたがる。ふせるほどでもないが、これから二三にち加減かげんるかろう。随分ずいぶんわきからもをつけるがよい。――して寅吉とらきち近頃ちかごろなにごともないか?』

『お言葉ことばゆえ申上もうしあげまするが、寅吉とらきち先日せんじつより痳疾りんしつなやんでりまする。子供こどものこととて、甘茶あまちゃみたいともうしますにより、今日こんにちそれをせんじてませましたが、それでよろしいものでござりましょうか。』

『そのやまいには一にちむぎごうほどべさせるがよい。寅吉とらきちむぎきらいであれど無理むりにもるがよい。むぎは七ごうでもかまわぬ。近頃ちかごろ寅吉とらきちふさんでるのはみな邪神じゃしん所為しわざである。随分ずいぶん用心ようじんするがよい。――もうほか用事ようじはないか。』

長右衛門ちょうえもん養子ようしけんはいかがいたせばよいものでござりましょうか?』

『されば、きたかたからの相談そうだんよろしくない。一二ねんつがよい。いづひがしかたからの相談そうだんで、他人たにんよろしい。――ついでに寅吉とらきち食物たべものきつけてかせる。むぎあわひえ青物あおもの川魚かわうおくず砂糖さとうなどがよい。寅吉とらきちぎょうは、してもせいでもいものの、すこしのわけで、させるから、病中びょうちゅう蒲団ふとんいてもくるしうない。――さらばこれにてちましょう。』

 一たんいとまげましたがたちままたもどり、

其所そこるちいさいのはなんというか?』

『これはぜんろうもうしまする……』

ことによるとそのものわずらうから、めしは一にちに一ぱいひかえさせ、それだけかるものつかわすがよろしい。奉公ほうこうにはふゆになってからつかわせ。それまでは親戚しんせきつかわしたり、んかしてくがよろしい。もうそれでなにくことはないかナ?』

とわざわざ先方せんぽうからねんされましたが、人々ひとびと差当さしあたってこれぞという質問しつもんむねうかばず、ただおそって無言むごんりますと、

『もうちます。寅吉とらきちにはいつもとおさけきかけたり、ませたりしてつかわせ。』――

 これを最終さいしゅう言葉ことばとして憑神ひょうしんあがってしまいました。

 あと人々ひとびとは、まだあれもうかがいたかった、これもたずねてるとよかったなどと口惜くやしがりましたが、いたかたもありませんでした。


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