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岩間山人と寅吉

 二十七 左司馬さしま訪問ほうもん

 しばらくありて憑霊ひょうれい寅吉とらきちからだからけてしまいました。すると寅吉とらきちはそのままグッタリつくえにもたれて昏々こんこんふかねむりにちました。平田ひらたおうかみからわれたとおり、さけ寅吉とらきちかおきかけたり、また一とくちそれをませたりしますと、寅吉とらきちようや人心ひとごころづき、ただならぬ四辺あたり光景こうけいて、おどろいたようすでしたが、平田ひらたおうだの、屋代やしろおうだのが、委細いさいはなしてきかせますと、格別かくべつあやしむいろせませんでした。それから人々ひとびとすすむるまますこしばかり食事しょくじをしてまった平生へいぜい寅吉とらきちふくしました。

 えてそのつきの十二にちふたたびかの善之助ぜんのすけという子供こどもが、竹内たけうち健雄たけおそばんでもうしますには、

いま寅吉とらきちあがって、だれかと会話はなしをしてるから、へんだとおもってそばってたが、ひと一人ひとりはしない。そうすると寅吉とらきちつけて、此所ここてはかん! りてれッ! というのだが、ドーもぽど可笑おかしいよ……』

『そうかい。――寅吉とらきちはまだるかしら?』

『ああまだるよ。』

『それならってよう。』

 健雄たけおにわして物蔭ものかげからのぞいてると、いかにも寅吉とらきちくちびるうごかしてる! なにやらしきりに返答へんじをして敬意けいいひょうする状況ようすからさっすれば、れいやま師匠ししょうでもるらしいので、健雄たけおおぼえずあたまげました。

おれほうではかくれてるつもりだが』そのとき健雄たけおこころうちおもいました『やま大将たいしょうほうではチャントがついてるかもれない。――しそうだとすれば寅吉とらきちとの会話はなしこしってんだ邪魔じゃまをすることになる……』

 そこふたたあたまをあげてると、はたして寅吉とらきちはモーおりくちまでて、西にしほうむかい、凝乎じっとばかりそらながってるのでした。

 このうえまた邪魔じゃましてはならぬとながって、健雄たけおただちにうち内部なかはいって、かく師匠ししょう平田ひらたおうこの次第しだい報告ほうこくしてりますと、寅吉とらきちやくもそばへやってました。平田ひらたが、

またやまのお師匠ししょうさんがおいでなすったのかナ?』とたずねますと、

明日あしたやま師匠ししょう誕生日たんじょうびなのです。』寅吉とらきちはわざと平田ひらたといにはれずかくこたえるのでした『そのめにやまほうでもおまつりがありますから、わたしも此所ここでそれをりたいとおもいます。――先生せんせいどうぞゆるしてください。』

『ああいとも!』と平田ひらたおおいよろこびまして『おやすいことだ。遠慮えんりょらぬ。やまとおりにやるがよい。費用ひようなどはいくらかかってもかまわぬ。』

『それならわたくしが一さい料理りょうりをしておそなえします。』と寅吉とらきちだい満足まんぞくのてんてこまい、『供物くもつ品物しなものはこれこれです。』

 そうって寅吉とらきち供物くもつようする品物しなもの精細せいさいべました。平田ひらた感心かんしんして、

『一たいまつりのことうからってたのか、それとも今度こんどあらたにいつけられたのか。』

いただしますと、

とうから明日あしたはおまつりをするつもりでした。』

との返答こたえ平田ひらたはすかさず、

『コレコレうそもうすナ。先刻さっきやま師匠ししょうからけられたのであろう。』

『そんなことはありません。まえからってたので……』

 健雄たけお今度こんどわきから素破すっぱきをやりました。

『だっておれ先刻さっき、おまえだれかと物語ものがたりをして実況さまをチャーンと見届みとどけてあるのだ。きっとあのときいつけられたのだろう。』

 平田ひらたしきりに根堀ねほ葉堀はほたずねますので、とうとう寅吉とらきちかくしきれず、

じつ先刻さっきいつけられたのです。』

本音ほんねいてしまいました。

『それでは矢張やはやまのお師匠ししょうさんがえたのか?』

『そうじゃありません、使つかいものです。』

だれ使者ししゃたのだ? 左司馬さじまでもたのか?』

『そうです。』

何所どこたのか。』

平田ひらた質問しつもん何所どこまでもさいります。寅吉とらきち平田ひらた書斎しょさいにわむかいのそらして、

彼処あそこのあたりへたのです。――それでわたしは二かいあがって物語ものがたりをしたのです。』

『フム、して左司馬さじま什麼どんなこともうしてった?』

左司馬さじまもうしますには、明日あすまえところでおまつりをやるなら、師匠ししょうがそれをうけるべきだが、おまえってのとおり、明日あすやまにも種々いろいろことがあって大変たいへんいそがしいから、多分たぶん師匠ししょうないで、代理だいりるだろう。だれてもかまわぬからなに願望ねがいことがあったら、それをかみいて神前しんぜんそなえてくように――と、大体だいたいんなことをもうしました。』


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