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岩間山人と寅吉

 二十五 ひざまくら

 そこで、健雄たけおいそいでおう夫人ふじんにこのこと報告ほうこくしますと、夫人ふじんただちに新吉しんきち急使きゅうしとしておう出先でさきにつかわし、また屋代やしろ輪池りんちおうかたへは上杉うえすぎろうという塾生じゅくせいつかわすことにいたしました。

 両人りょうにん門外もんがいすと、きゅう寅吉とらきちくちり、

一寸ちょっと使者ししゃもどしてもらいたい。』

との注文ちゅうもん。で、何事なにごとかと両人りょうにんもどしますと、

御礼おれいには御札おふだいてしんぜるともうしたことをつたえてください。』

『ハハァ心得こころえましてござります。』

両人りょうにん使者ししゃは一れいしてふたたきました。すると

御札おふだ何枚なんまいいて差上さしあげようか。』

かさねて寅吉とらきち言葉くちりました。

『されば』と健雄たけおが『万望どうぞ家内かない人数にんずほどおくださるように……』

承知しょうちいたした。しかしそれは先生せんせい帰宅きたくされてからくことにいたし、一とんでまたることにいたそうか。』

『その何卒なにとぞ御任意ごにんいあそばされとうござります。』

 かくこたえますと寅吉とらきちたちまちぐったりと健雄たけおひざうえあたまれて、あしって、蒼白あおかおをしてガタガタふるしました。健雄たけおはそれをそでおおうようにげてあたためにかかりますと、たちままたムクムクとあがり、

只今ただいまは、先生せんせい帰宅きたくって出直でなおすともうしたが、そうせずに、このままおかえりをつことにいたした。寅吉とらきち世話せわしてくれたことにつきてはふか御礼おんれいもうす。なんのぞみあらば遠慮えんりょなくうてもらいたい。』

 健雄たけおおそって、

難有ありがたいお言葉ことばたまわりかたじけのござりまする。きましては遠慮えんりょなく申上もうしあげますが、何卒なにとぞこのうえみち薀奥うんおうきわめ、手代てがわりのできるようにおみちびきをねがござりまする。』

『そは殊勝しゅしょう心掛こころがけ承知しょうちいたした。』

 これをきっかけに、寅吉とらきちからだかかったれいは、古道こどうかんして、いろいろ有益ゆうえき物語ものがたりをしてかせたのでありましたが、何分なにぶんにもすっかり寅吉とらきちたましいっての神憑かみがかりでありますから、寅吉とらきちからだはズンズン冷却れいきゃくしてしまいます。

『このままって、しものことがありはしないかしら……』

だれやらがもうしますと、

『イヤ仔細しさいいから、蒲団ふとんでもいてかすがよい。』

との憑霊ひょうれい注意ちゅういでありました。

たたみうえ蒲団ふとんいて、それにかしても差支さしつかえはないのですか……』とおう夫人ふじん心配しんぱいらしく健雄たけおかいしてうかがいをててますと、

『それは一こう差支さしつかえはないからいたされよ。ただからだ非常ひじょうえたから、でもれてあたためてげてれ。』

との返事へんじでありました。

 そこでその指図さしずどおりに、寅吉とらきち屏風びょうぶかげ蒲団ふとんうえ仰向あおむけにかすべく、夫人ふじん健雄たけおとが二人ふたりがかりでかかげますと、

内俯うつぶしにかすがよい。』

との注意ちゅういましたので、健雄たけおひざまくらに、そのとおかしてうちに、そろそろれて晩餐ゆうめし時刻じこくになりました。

 憑霊ひょうれいあくまで注意ちゅうい行届ゆきとどいたもので、健雄たけおむかい、

『このままですこしも差支さしつかえがないから、かまわずぜんはこばせて食事しょくじをするがかろう。』

とのことでありました。

 そこ健雄たけおはその言葉ことばとおり、寅吉とらきち膝枕ひざまくらをさせたまま食事しょくじはじめましたが、いかにも窮屈きゅうくつそうなので、夫人ふじん見兼みかねて、

わたしかわって寅吉とらきちまくらをしてあげるから、そのあいだにゆっくり食事しょくじをおしなさい。』

って、健雄たけおれかわりになりました。


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