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岩間山人と寅吉

 二十二 やま師匠ししょうか?

 荒木田あらきだ末壽すえひさ訪問ほうもんきつづいて、いず来訪者らいほうしゃはあったであろうとおもいますがドウしたものか、くるとしはるまで記録きろくがありません。そしてはなしただちに三がつじつまで一そくびをします。

 この平田ひらた用事ようじがあって藩主はんしゅ板倉いたくら阿波守あわのかみ芝桜田しばさくらだやしきへまいりました。その不在ふざいのことでした。寅吉とらきちおう夫人ふじんむか

少々しょうしょう用事ようじございますから上野うえのかしてください。』

 と申出もうしいでました。

『ああそうかい。用事ようじ次第しだいはやくおかえりなさいよ。』

 夫人ふじん何気なにげなく寅吉とらきち外出がいしゅつゆるしましたが、不図ふとしも良人おっと不在るす間違まちがいでもあってはという懸念けねんおこりましたので、門人もんじん竹内たけうち健雄たけおんで、すぐあとから寅吉とらきち尾行びこうさせました。

 ところ寅吉とらきち歩調ほちょうったらぶようにはやい。一しょう懸命けんめいこうとあせりましたが、上野うえの広小路ひろこうじほうまがところでチラとその姿すがたたばかり、それからきは何所どこったか、さッぱり行方ゆくえわかりません。仕方しかたがないから大概たいがい見当けんとうをつけまして、上野うえの黒門くろもんはしって前面むこうると、彼方あちらから何物なにものにかおそれた顔容かおつきをしてけてるのは塩梅あんばい寅吉とらきちなのです。かれ健雄たけおるとたん微笑びしょうせたのみで、ものをもわずちがいに黒門くろもんで、一さんはしきます。

可怪おかしなやつだな。一たい何所どこきやがるかしら……』

 かれふたた寅吉とらきちあとってきますと、やがてきゅう仁王門におうもんへんにてとどまり黒門くろもん方角ほうがくむかって、三ほど丁寧ていねいこしをかがめて礼拝れいはいするのです。

彼奴あいつどこまでも変梃へんてこ真似まねをしやがる。黒門くろもんおがやついものだ……』

 まるくして健雄たけおところへ、今度こんど寅吉とらきちほうからニコニコしながあゆり一しょ帰途きときました。

『一たいまえ何所どこったのかい?』

 あるなが寅吉とらきちきますと、寅吉とらきち簡単かんたん

寒松院かんしょういんはらまでってた。』

やま師匠ししょうでもたのじゃないか。』

 寅吉とらきちはただ鼻頭はなさきわらって、そうだとも、そうでないとも明言げんめいしませんでした。かさねて健雄たけおたずねました

『ドーだい用事ようじんだのかい?』

『まだ十ぶんにはまないが、今日きょうはこれでかえろうかしら……』

『それはけない。用事ようじがあるなら何所どこまでもしらべるがよい。おそくなって先生せんせいしかられたって心配しんぱいするにはおよばない、おれ具合ぐあい弁解いいわけをしてげるから……』

『イヤ用事ようじ今日きょうでなくともかまわない。明日あすでもまた出掛でかけよう。』

『それは寒松院かんしょういんはらかい?』

『そうじゃない。』

寅吉とらきちはただ一ごんこたえたのみで、行先ゆきさきを明示めいじしません。そうするも、かれ幾度いくどとなくかえって上野うえのほうおおつつ、なにやらものさがすように大空おおぞらわすのでした。


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