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岩間山人と寅吉

 十九 夜光やこうたま

 二十七にちには有名ゆうめい国学こくがく大家たいかばん信友のぶともたずねてて、終日しゅうじつ平田ひらたおうとも寅吉とらきちにいろいろな質問しつもんこころみました。そのはなしなかに、岩間山いわまやま杉山すぎやま組正そしょう夜学やがくさい使用しようする燈火とうか代用だいよう器具きぐことました。

山中さんちゅうには月夜木つきよぎって、なつになると非常ひじょうひかがあります』と寅吉とらきちもうしました。『その細末さいまつにして宝珠形ほっじゅがたいた硝子器がらすきなかれて机上きじょうくとまぶしいくらいにピカピカひかります。早速さっそくわたしが一つそれをこしらえてせましょう。』

『それはしばらく見合みあわせたらドーじゃ』と二人ふたりこれせいしました。『月夜木つきよぎなどとうものは現世このよたこともいたこともないものだ。よしんばあるものにせよ、なつになってひかるようになるまでってからこしらえてもおそくはあるまい。』

 けれども寅吉とらきちは一たんしたからには、すぐそのとおりにやらなければ承知しょうちでき性分しょうぶんですから、それからというものは、てもきても、月夜木つきよぎこと夢中むちゅうになり、ひとさえれば五月蝿うるさくその所在地ありかたずねます。平田ひらたじゅく守屋もりや稻雄いねおというおとこ寅吉とらきちからこのことかれた一にんでした。

 ところが、この稻雄いねおことほか剽軽者ひょうきんものですから真顔まがおになって寅吉とらきちをからかいました。

『おまえ光木ひかりぎ夜光器やこうきつくることをかんがえてるが、其様そんナものはいりはしない。おれなどはよるになると自然しぜんひか道具どうぐをチャンと神様かみさまからさずかってるよ。』

『ナニよるになると自然しぜんひか道具どうぐ?』と寅吉とらきちまるくして『どんなものかいそれは……。』

 稻雄いねおはわざとびっくりしたかおをしまして、

『おまえほど人物じんぶつがこれくらいこと真実ほんとらないのか。』

『イヤまったらない。はやおしえてれよ、その道具どうぐというやつを。』

『これは滅多めったわれないことだが、折角せっかくだからってきかそう。』と勿体もったいらしくかたちあらため『そもそも産霊さんれい大神たいじんうえなくとうと神様かみさまで、その御徳おんとくによりて人間にんげんうまたのである。人体じんたいかみがたには二つのをつけてひるようわきまえしめ、したがたには二つのたまをつけてよるようべんぜしめたまう。じつ勿体もったいないはなしではないか。』

『エッ二つのたまよる用事ようじべんずる……。全体ぜんたいそれはなんことかい?』

寅吉とらきち何所どこまでも真面目まじめであります。

『されば暗闇くらやみうち品物しなものさがときにはふんどしをかかげて二つのたまにぎりてユラユラとふるうのじゃ。』と稻雄いねお噴飯ふきだしそうになるのをわずかにこらえて『すると電光いなずまのようなひかりひらめわたりてものとしてえないものはない。』

真実ほんとかいそれは? おれなどはただの一ひかったのをためしがないよ。』

『でもおまえふるったことがないだろう。』

わらながもうしますと、寅吉とらきち正直しょうじきに、

『そりャふるってたことなんか ぁないさ。』

『ドーもそうだろう。一たいやま先生達せんせいたち今迄いままでこのことをおまえにおしえなかったのははなは手落ておちだとおもう。ことによると天狗てんぐだの仙人せんにんだのというもののたまは、ひかりのいものかもれない……』

『よしよしおれ今夜こんや早速さっそくためしてる。』

 寅吉とらきちれるのがどおしくてたまらぬ様子ようすでしたが、やがてくらくなってますと小蔭こかげって、しきりに股間こかんのものをりました。

 無論むろんそンなもののひかはずはありませんから、かつがれたとさとって寅吉とらきちおおいはらてて真紅まっかになって稻雄いねおつかみかかりました。

『おまえおれだましたナ。いつわりをいうことは神様かみさま禁物きんもつだ。おまえはじつ不都合ふつごうな……。』

『これこれそうおこるな』と稻雄いねおおもとぼって『じつ合点がてんかぬこともあればあるものだ。ひととして夜分やぶんになればひからぬはずはないが、おまえのにひかりがないというのは、しやまだえるものがえて所為せいかもれないよ。』

『それじゃなにかい、えないうちひからないのかい?』

『それはそうだ。にもひかりのあるもので、双方そうほうらしうからつよひかるのだ。』

『ああそうか。それをらずにおれおこったのはわるかった。堪忍かんにんしてれ。』

 と寅吉とらきち顔色がんしょくやわらげてりました。

 このはなしのちいたりて平田ひらたおう門弟もんていどもからきいたもので、隨分ずいぶん莫迦ばかったはなしですが、しかしこれをても、寅吉とらきちという少年しょうねんが、いかに無邪気むじゃき窮理心きゅうりしんんでるかはうかがわれるとおもいます。


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