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岩間山人と寅吉

 十七 おさむらい姿すがた

 廿六にちふたた寅吉とらきちあに庄吉しょうきちまして、れい名主なぬしから、モー一寅吉とらきちれていという命令めいれいけたとって大変たいへん心配しんぱいしてるのでした。

寅吉とらきちはモー彼様あんうちへはかぬともうしますし、またわたしどもとすれば名主なぬしおおせをこばわけにもまいりませぬし、ドーしてよいかこまってしまいます。おねがいですから先生せんせい万望どうぞ寅吉とらきち貴下あなた弟子でしにしてください。そうしてけば、名主なぬしからばれても謝絶ことわるのに都合つごういとおもいます。』

『ムムし』

 平田ひらたおうは二つ返事へんじでそれを承諾しょうだくし、早速さっそく寅吉とらきちいままでうすきたない衣類いるいがせて、あたらしい布子ぬのこ羽織はおりはかま大小だいしょうなどをあたえますと、寅吉とらきち

『これですっかりおさむらいさんの姿すがたになってしまった!』

っておどあがってよろこびました。

 この無邪気むじゃき茶目ちゃめ小僧こぞうがいかに当時とうじ耳目じもく聳動しょうどうせしめたかは、大關おおぜきこうだの水戸みと立原たちはら翠軒すいけんだのから美成よしなりかいして会見かいけん申込もうしこまれたのをても想像そうぞうされるのであります。美成よしなり平田ひらたかたたずねてて、寅吉とらきちれてったのはどう二十六にち夕方ゆうがたのことでした。すると翠軒すいけんがわざわざ美成よしなりかた寅吉とらきちい、いろいろの書籍しょせきませたり、またさまざまのこと質問しつもんしたり、さすがは彰考館しょうこうかん総裁そうさいらしいしらかたをしました。立原たちはら余程よほど感心かんしんしたものとえまして、後日ごじつ屋代やしろ輪池りんちおうむかってしきりに寅吉とらきちことめ、『生意気なまいきどもが寅吉とらきちことうたがってるが、それは鑑識かんしきするだけいからである。自分じぶん幽界ゆうかいさそわれまた神仙しんせん往来おうらいした幾多いくた人々ひとびと実見じっけんしてるからごううたがうべきてん発見はっけんない。』そうってかれ神仙しんせんから秘薬ひゃくさずかったという鈴木すずき精庵せいあん事跡じせきをばくわしく屋代やしろおう物語ものがたったそうであります。精庵せいあん事跡じせき面白おもしろいものでありますからふであらためてぎのかい紹介しょうかいすることにしまして、大關おおぜきこう寅吉とらきちとの関係かんけいを一げんここ附記ふきしてきます。これははなは簡単かんたん事柄ことがらで、寅吉とらきち最初さいしょ美成よしなりりました時、大關おおぜきこう夫人ふじん痼疾こしつしゃくで七年間ねんかん難儀なんぎしてりましたのを、禁厭まじないおくったらただの一なおりましたところから、どう夫人ふじんが一寅吉とらきちきたいというまでのことでした。で、翠軒すいけんかえったあと美成よしなりただちに寅吉とらきちともなきましたが、用事ようじはただ顔見かおみせだけですから、何事なにごともなくんですぐに平田ひらたかたもどりました。


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