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岩間山人と寅吉

 五 

 寅吉とらきちうして毎日まいにち老人ろうじんれられてやまきましたが、そのうち南台丈山なんたいじょうさんから岩間山いわまやまうつりました。そして岩間山いわまやま異人いじん弟子でしりをしたのです。

 ぎょうほどきは百にち断食だんじきでした。首尾しゅびよくそれをつとおわったときに、寅吉とらきちかねてよりの念願ねんがんなれば、卜筮うらないことおしえてくれとたのみますと、師匠ししょうは、それはいとやすいことであるが、卜筮うらないからぬわけがあるから、ほかことまなぶがよいとって、武術ぶじゅつ書法しょほうをはじめ、神道しんとうかんすること祈祷きとう呪禁まじない仕様しようぬさかた医薬いやく製法せいほう武器ぶきつくかた普通ふつう易卜うらないともちがう一しゅ卜法ぼくほう仏道ぶつどう諸宗しょしゅう秘事ひじ経文きょうもん、そのさまざまのことおしえられましたが、途中とちゅう送迎おくりむかえは、毎時いつもれい老人ろうじん任務にんむとなってました。

 ここ不思議ふしぎてんは、寅吉とらきちが十、廿、五十にちあるいは百にち引続ひきつづいてやまき、いえおくかえされることになってながら、両親りょうしんもとより、寅吉とらきち自身じしんばかりひさしくやまたとかんじないことでありました。とうとうかれは七さいときから十一さいの十がつまで足掛あしかけねん山通やまがよいをして諸事しょじおしえられ、そのあいだ師匠ししょうまた兄弟子あにでしたちともなわれて諸国しょこく見廻みまわったことも屡々しばしばありました。しかし、寅吉とらきちが十二さい十三さいときやまへはかなくなり、師匠ししょうほうから寅吉とらきちもとたずねておしえてれてました。

 かかるなかにも寅吉とらきちうえには多少たしょう波瀾はらん曲折きょくせつおこりました。十一さいの八がつには父親ちちおや病気びょうきかかりました。すると師匠ししょうやまからわざわざってて、寅吉とらきち禅宗ぜんしゅう日蓮宗にちれんしゅうなどの宗体しゅうたい見覚みおぼえておけめいじました。で、寅吉とらきちはそれとなく父母ふぼいていけはた正慶寺しょうけいじという禅宗ぜんしゅうてらあずけてもらうことになり、同年どうねんの十二がつまで同寺どうじ小僧こぞうつとめました。

 くるとしの二がつにはかれ同所どうしょ日蓮宗にちれんしゅう覚姓寺かくせいじというのに引移ひきうつりましたが、かれ父親ちちおやんだのはそのつきのことでした。かれ霊覚れいかくは、このてらときにそろそろその鋒鋩ほうぼうあらわしました。

 覚姓寺かくせいじひとが、大切たいせつ品物しなものうしなったとってりますと、そばできいて寅吉とらきち耳元みみもとで、だれともなく、

『その品物しなものひとぬすんで広徳寺こうとくじまえいし井戸いどそばかくしてある。』

 とおしえるのです。で、そのとおりをみぎ来訪者らいほうしゃってきかせますと、そのひと早速さっそくしてって井戸いどそばさがしてると、はたして品物しなもの其所そこかくしてありました。

 それから以来いらい寅吉とらきち評判ひょうばんは一人々ひとびとあいだたかくなり、呪禁まじないまた加持かじなどをたのむものが、続々ぞくぞくあらわれました。ところが、それがことごと霊験れいけんがありますので、のちには当時とうじ流行りゅうこうせる富籤とみくじあたふだまでたずねらるることになりました。しかるにその予言よげんまたつねに百ぱつちゅうというのですから、よくふか連中れんちゅうがわれもわしもとおてら門前もんぜんしかけてたというのもまった無理むりはありません。

 あまりのことにおてら和尚おしょうさんは心配しんぱいして『かくては寅吉とらきちめになるまい』とって、うちもどしてしまいました。するとそのとしの四月にまたやま師匠ししょうたずねてて、その命令めいれい宗源寺そうげんじという日蓮宗にちれんしゅうのおてら弟子でしりをすることになり、今度こんどおもって剃髪ていはつして可愛かわいらしい青道心あおどうしんになりました。

 が、寅吉とらきち小僧こぞう生活せいかつもホンのつかのことでありました。文政ぶんせいねんの五月二十五日に、やま師匠ししょうて、一しょれてくともうしますので、かれひとさそわれて伊勢いせ参宮さんぐうをするのだとははにはげて、師匠ししょうのおともをして一たん常陸ひたち岩間山いわまやまき、それから師匠ししょう便利べんり至極しごく空中くうちゅう飛行ひこうで、順々じゅんじゅん東海道とうかいどう名山めいざん旧跡きゅうせきめぐり、てんじて伊勢いせ山田やまだおもむいて両宮りょうぐう参拝さんぱいし、さらはねをのばして西国さいごく山々やまやま見廻みまわり、八月二十五日に一たん江戸えどかえりましたが、九月にはふたたともなわれて北越ほくえつ諸国しょこくかけあるき、十一月のはじめに、妙義山みょうぎさん山奥やまおくなる小西こにし山中さんちゅうへさしかかったまでは至極しごく無事ぶじでしたが、其所そこ寅吉とらきち師匠ししょうから置いてきぼりをされ、ただ一人ひとり偏僻へんぺききわまる山里やまざととどまることになりました。


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