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岩間山人と寅吉

 三 不思議ふしぎつぼ

 下谷池したやいけ端茅町はたがやちょう稲荷社いなりしゃまえ貞意ていいという一人ひとり売卜者ばいぼくしゃて、よくものてるので中々なかなか人気にんきでした。当時とうじさい寅吉とらきちはそれがうらやましくてたまらず、ある自分じぶんにも易占うらないおしえてれと真面目まじめくさって貞意ていいたのみました。貞意ていい冗談じょうだん半分はんぶんに『貴様きさまし七あいだてのひらあぶらたたえてともすことをつとめてたら、おしえてやってもよい』といました。

 寅吉とらきちはこの言葉ことば真実まことけ、早速さっそく自分じぶんいえの二かいあがり、おやあににもくしてひそかに手燈てびぎょうはじめました。てのひらはジリジリとたまらなくあついが、とうとうやせ我慢がまんで七ぎょうつとおうせ、それから卜者ぼくしゃもとって、『このとおてのひらただれてしまった。約束やくそくどおおしえてれ』とせまりました。卜者ぼくしゃその根気こんきにはおどろあきれましたが、もともと本気ほんきったことではありませんから、ただわらったのみで、べつおしえようともしませんでした。寅吉とらきちはそれが口惜くやしくて口惜くやしくて、ながあいだ易占うらないことばかりかんがえてたそうです。

 寅吉とらきちにいよいよ大変動だいへんどうおこったのは丁度ちょうど其年そのとしの四月頃がつごろのことでした。かれはあるブラリと東叡山とうえいざん上野うえのした黒門前くろもんぜんなる五じょう天神てんじんあたりあそびにました。すると、年輩ねんぱいは五十さいぐらい総髪そうはつをクルクルと櫛巻くしまきのうにった、ひげながい、旅装束たびしょうそく老人ろうじんが、路上ろじょう敷物しきものいてし、口径こうけいすんぐらい小壷こつぼ丸薬がんやくれてってました。

へんじじいるナ。』

 寅吉とらきちふかくはにもめず、その附近ふきんあそんでりましたが、やがて暮方くれがたになると、くだん老人ろうじん小葛龍こつづら敷物しきものを、かの小壷こつぼなか押込おしこみ、『ドリャおれつぼなか這入はいってせやうか。』と申しました。

人間にんげんがどうしてんなッぽけなつぼ這入はいれるかしら!』

 寅吉とらきち半信はんしん半疑はんぎ見物けんぶつしてるスグまえで、くだん怪人物かいじんぶつ片足かたあしつぼ突込つっこみ、ぎに片足かたあしをもれ、やがて全身ぜんしんつぼなかおさめたとると、つぼひとりでに空中くうちゅうはるかにあがり、東北とうほくそらへとせました。

 寅吉とらきち子供こどもごころにも、それが不思議ふしぎ不思議ふしぎたまりません。かれその翌日よくじつも、その翌々日よくよくじつも、ってもっても五じょう天神てんじん日参にっさんしました。売薬ばいやく老人ろうじん何時いつってもかならず其所そこました。そして何時いつがたにはまえ同様どうよう奇術きじゅつかえすのでした。

 寅吉とらきちれいによって売薬ばいやくおうまえってりますと、先方せんぽうから馴々なれなれしく言葉ことばをかけました。

『ドーじゃ小僧こぞうきさまもこのつぼ這入はいらぬか。面白おもしろものせてやるよ。』

 さすがの寅吉とらきちもこれには二のあしみ、尻込しりごみしながらいやだともうしますと、老人ろうじん近所きんじょみせ菓子かしって寅吉とらきちれました。

『これこれきさま卜筮うらないことりたいだろう』老人ろうじんは一そう言葉ことばやわらげてもうしました『卜筮うらないりたいなら、このつぼはいれば、おれところれてって、いくらでもおしえてやるよ。』

 卜筮うらないの一寅吉とらきちはツイ釣込つりこまれました。

『そンならこうか。』

 いもおわらずかれたちまつぼなかまれてしまいました。


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