心霊図書館 > 「心霊研究とその帰趨(神霊主義)」

心霊研究とその帰趨

一、人間それ自身

 肉体と自我――心霊事実の検討を始めるに先立ち、私は何はともあれ『人間』それ自身につきての心霊科学的研究の結果を述べることが正当の順序であると思う。何となれば、いかなる心霊現象も、ことごとく人間を通じて現われ、又必らず人間を通じて研究を遂げられるからで、従って人間自身につきて正しき理解、正しき認識なしに心霊研究の遂行はけだし不可能に近い。

 われわれは平生はなはだ不用意に『私』という言葉を使用するが、そもそもこの『私』なるものの正体は何か? 唯物思想の感化を受けたものに言わせれば、私とは畢竟ひっきょう自己の肉体のことだというであろうが、これは理論的にも、又実験的にも到底成立し難き謬見びゅうけんである。ず理論的方面から述べる。――

(一)人体を組織する細胞意識と、人体を通じて発揮さるる精神力との間に余りに多大の質的懸隔けんかくがある。

 蠢爾しゅんじたる細胞意識は、いかに沢山これを集めたとて要するに大きな細胞意識を造るだけである。千頭の豚を集めても依然として千頭の豚の群衆心理が構成される丈で、その中から猿や人間のすぐれた智慧が発生せぬのと同様であろう。しかるにそれ自身としては低級無智なる細胞の集合体であるところの人体を通じて時として鬼神を動かすような、立派な詩篇が生れたり、百代を照らす様な、大思想が湧き出でたりする。して見ると人間の物質的肉体の内にはる他のくしびなる何物かが宿ってるに相違ない。

(二)人間の肉体は短期間に変化するが人間の個性は容易に変化しない。

 生理学者の指示する所によれば、人間の肉体は間断なく変化を遂げ、約七年の歳月をけみした時に元の肉体は全部新規なものに変ってしまうという。しかるに人間の個性はこれに伴って変るようなことはない。縦令たとえ変ってもはなはだ軽微である。所謂いわゆる三ッ児の魂百まで、という諺の通り、本人の個性、すくなくとも個性の中枢は依然として元のままに残る。して見ると『私』というのは決して自分の肉体のことではなく、肉体はむしろ『私』というものの運用する一の機関であるらしい。

(三)肉体的活動と、精神的活動とはしばしば逆行する。

 健全なる精神は健全なる肉体に宿るという諺があり、一個人の場合にはすこぶるうまくあてはまるが別々の人の場合には必ずしも当てはまらない。又一個人の場合にありてもこれが当てはまるのは通常意識の働きであり、思想伝達能力、直感能力、霊視能力と言った様な異常能力は、しばしばその人の肉体の元気に反比例して現われる。即ち夫等それらの能力は往々理智的に不完全なる愚物や小児において特別に発達してり、又死期に近づいて肉体組織が分解を開始したとか、催眠状態において暑さ寒さの区別さえ判らなくなった、というような場合に却って大々的活動を起すのである。これで見ると人間の肉体には、肉体と全然独立して威力を発揮する所の別個の存在があるらしい。

 以上はホンの一端を列挙したにとどまるが、これ丈を見ても唯物思想が到底学術的に成立し得ないことが判るであろう。即ち『私』というのは単なる自分の肉体のことでない。肉体は『私』の運用する一の大切なる機関ではあろうが、しかし『私』の本体はむしろその中に宿っているくしびなある物――所謂いわゆる霊魂というものであろうという事になるのである。これは新規な学説でも何でもなく、古来世界において大思想と呼ばるるものの根柢こんていことごとくこのかんがえで築かれているのである。唯物思想は物質科学が擡頭たいとうしかけた十八世紀末から十九世紀にかけて、一時的に出現した過渡期の一波紋たるに過ぎない。

 人体の霊的調査――さて人間の肉体には、別に一種のくしびなもの――霊魂が宿ってることは到底争われない事実であるとしても、しかし推理的に進み得るのは、せいぜいその辺までで詳しい事は判らない。霊魂はどんなものかと言われてもまとまった返答はとてもできないのである。そこで今度は実験方面からその本体を追窮ついきゅうして見ることになる。

 何よりもず確かな事は人体からオーラが放射されてることである。この事実を実験的に証明したのは英国の電気学者キルナア博士で、デイシャニン溶液を盛れる一種のスクリーンを造り、これを通して薄暗い室内に置かれたる人体をのぞけば、肉体の外部にはみ出している三層の放射体、所謂いわゆるオーラを認め得るのである。しかもその放射体が、思想感情の動きにつれていろいろに色彩を変えることまでつきとめられたのである。無論これ丈でオーラの内容は判らないが、しかし人体が案外に複雑微妙であることは想像に難くない。

 現在の所で、最も正確に人間の超物質的エーテル体の存在、並にその性質形態等をつきとめ得る最鋭の武器は何と言っても普通霊媒と称する異常能力者の発揮する霊視能力を挙げねばならぬ。霊視能力にきては別に章を設けてくわしく述べるが、ここではしばらくそれは精神統一状態において発揮さるる一の不可思議なる主観性の異常能力であると思って貰えばよい。すでにそれが主観性の能力であるから、たッた一人や二人の霊視者の述べる所ならば、学術的にさして価値を認め難いが、併し多数の能力者の報告を集めて比較研究を行い、その一致点を見出すにおいては断じてこれを無視する訳には行かない。幸い世界の心霊学界には今や優秀的確な霊視者の数が相当多数に上り、私の手元にもすぐれたのが数人ある。私は今後世界の人類が此等これらの霊視能力者を無視しては、すくなくともる方面の研究又は事業を到底満足に遂行し得ないことを断言してはばからないものである。

 自我の行使する四つの機関――さて人間の有する超物質的エーテル体に関して多くの霊視能力者の所見は精粗の別こそあれ、大体一致してる。私は今ここで一々それらの出所を指摘し、異同を弁じているいとまを有せぬが、兎に角私の述べる所が古今東西の霊的調査を比較研究した上で、最後にドーあっても動かないと思われる所をあくまで公平な眼で取りまとめたものであると思って戴きたいのである。簡潔を期すべく私は要点を個条書きにする。――

(一)人間はその肉体の内に超物質的エーテル体をっている。ただしエーテル体とは概称であって、詳しくいえばそれは幽体アストラル・ボディ霊体メンタル・ボディ本体スピリット・ボディの三つに大別し得る。

(二)肉体、幽体、霊体、本体の四つは滲透しんとう的に互に重なり合ってるのであって、各個に層を為して偏在してるのではない。

(三)此等これらの四つの体はいずれも自我の行使する機関であって、それぞれの分担がある。即ち肉体は主として慾望よくぼう、幽体は主として感情、霊体は主として理性、本体は主として叡智の機関で、必要に応じてこもごも使い分けられる。

(四)概してエーテル体は非常に鋭敏に意念の影響を受け、その形態は決して肉体の如く固定的でない。又その色彩、就中なかんずく感情の媒体たる幽体の色彩は情緒の動きにつれて千変万化する。

(五)エーテル体は時空を超越している、すくなくとも時空の束縛をくることが極めて少ない。故にその活動は極めて神速自在である。

(六)エーテル体は人間の地上生活中においてもしばしば肉体を離脱するが、そうした場合には必らず白色の紐で肉体と連絡されている。死とは右の紐が永遠に断絶した現象である。

 神秘的観念論者に言わせると、霊魂の形態質量等を云為うんいすることは、唯物的悪影響を受けた結果であると非難するであろうが、これは第一義的の普遍的実在、スピリットと、第二義的の個性を有する霊魂ソールとを混同した所の僻見へきけんである。すでにそれが個性を有し、それぞれ特異の慾望よくぼう、感情、思想等を発揮している以上、当然これを運用すべき何等か特異の媒体があるべきは、理論的にも又実験的にも到底動かし難き事柄である。霊魂を単なる抽象的、又単なる主観的存在と認めんとする所に神秘論者の迷妄めいもうがある。

 以上私は人間の構成要素にきて、近代心霊科学的追窮ついきゅうの結果を述べたが、しかしいかに追窮ついきゅうを重ねて見ても、『私』の本体、自我の出発点だけは到底掴めない。物質的肉体も又超物質的エーテル体も、いずれも自我運用の機関であって、自我そのものではない。自我の出所ばかりは神秘不可思議の解けない謎で、強いてこれに定義を下せば、矢張り先哲ののべた通り、大我から岐れ出た小我というより外には致し方がないのであろう。


 (参考書)

 The Human Atmospher. By Dr. W. J. Kilner.

 霊衣オーラの研究を発表した名著。

 Man Visible and Invisible. By C. W. Leadbeater.

 霊視能力による人体の内面研究で、思念がエーテル体に及ぼす色彩の変化を示す色刷の挿絵が多い。

 The Road to Immortality. By G. Cummins.

 故マイヤースの霊魂がカムミンス霊媒を通じて行った自動書記式通信である。人体組織に関する有益な解説がある。近来の最も優れた霊界通信。

 Man and His Bodies. By Annie Besant.

 The Seven Principles of Man. By Annie Besant.

 ベザンド女史は霊智学者セオソフィーで、以上の外にも多数の著書がある。全部首肯しゅこうすることもできないが、所々に卓抜なる見識と暗示とを発見する。

 Body, Soul and Spirit. By G. Vale Owen.

 平易通俗に書いたもので初学者には良い読本の一つである。

 『死後の世界』       ワアド著、浅野和三郎訳。

 『幽界行脚』        同 上、 浅野 粕川訳。

 右二著の中にも人体の構成につきての霊的調査が随所に発見される。前者には『霊界より見た人間の肉体』『幽界と霊界』等があり、後者には『霊界と幽界との区別』『オーラ』等の諸章があり、有益な参考になる。

 The Projection of the Astral Body. By Mulden and Carrington.

 霊魂遊離の実験並に理論である。



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