心霊図書館 > 「心霊研究とその帰趨(神霊主義)」

心霊研究とその帰趨

 緒論

 心霊常識普及の急務――近代心霊研究おこりてここに八十年、この間に蓄積せられたる無数の心霊事実と、それ等の事実から帰納されたる理論とは、今日では最早もはや押しも押されもせぬ権威と貫禄とをもって世界の人類に臨んでいる。これを無視し、又は軽視する時に、損失を招く者は当然自身以外の何者でもない。勿論むろん近代生活はますます複雑多岐にわたり、何人も自己の専門以外の万般の学術技芸等に精通することは望まれないが、しかし各人の日常生活に至大の影響を及ぼす様な研究に対しては、すくなくともその基礎的概念だけは養って置かぬと、時として取りかえしのつかぬ失敗を招くうれいがある。就中なかんづく心霊問題はわれ等の思想、信仰、道徳、理想――これを要するにわれ等の日常生活と極めて切実不離の全的関係を有しているから、是非これに関する一般的知識を養って置くべきである。しかるに不幸にも現代の日本国民はこの点の準備にはなはだしく欠けてり、所謂いわゆる心霊常識ともいうべきものの持ち合わせがない。これがめに、往々笑うべき迷信の奴隷となったり、又不健全不徹底な悪思想の捕虜となったり、正に掛値なしに、この神聖な国土に百鬼夜行の精神的暗黒時代を現出せしめてる。

 さすがに日本国の識者先覚者達はこの人心の悪化におどろいて、いろいろの思想善導法、精神作興さっこう法等を講じてはいるが、私の観る所にしてあやまらずんば、それ等の多くはことごとく形式方法の末に走り、肝腎の標的から外れてりはせぬかと思う。科学的に正確なる実証なしで、権威ある指導原理の樹立は望まれない。しかるに彼等にはその用意がない。磐石不動の信念なしに、天下の民衆は動かない。しかるに彼等にはその準備もまたないかとあやうまれる。

 公平に観て、現在の世界において、真によく思想善導、精神作興さっこう、難局打開、理想実現の大事業の基礎工事据付の任にえるものは、前後八十余年の『時』の試練を首尾よくくぐり抜け、着々として牢乎ろうこたる地歩を学会に占めつつある心霊科学、又利害得失の打算の外に超脱して研鑚けんさんこれ日も足らざる純真なる神霊論者以外には絶無ではないかと思う。

 私は無論浅学不才、しかも斯学しがくに志してからわずかに十八年を重ねたに過ぎない。従ってわれ等の為すべき仕事はむしろ今後に存じ、過去においてはむしろ失敗、蹉跌さてつ、苦難の歴史を有するに過ぎない。しかながら幸いにもすべてが無益の努力には終らなかった。理論的にもようやまとまりがつき、又実験的にも充分識者の要求に応じ得る霊媒の幾人かを養成することに成功した。あえて誇る訳ではないが、実際欧米人士が八十年がかりでなし遂げたところを、われわれは十八年がかりでドウやら為し遂げ得たに近いらしい。まことに望外の歓びであると言うべきであろう。

 私はこれからできる丈簡潔に、又できる丈正確に、心霊問題に関する事実と理論とを一と通り講述するつもりであるが、私の手元にある資料があまりに多く、その取捨選択にはほとんど途方に暮れる次第である。止むなく私は参考とすべき資料又書籍の出所等を成るべく懇切に指示し、もって私の講述の不備を補おうかと思う。

 最後は心霊実験――ここに読者諸子の注意を喚起したいのは心霊実験の件である。私の本書中に説述する所はことごとく生きた実験実証の結果から帰納したもので、ただ一つの一家言的独断もない。現にわれわれは専属霊媒を用いて随時各種の実験に応じ、われわれの主張を裏書きし得る用意を有してるのであるが、悲しいかな遠方の人達に対してはただわずかに実験の状況又は結果を伝え得るに過ぎない。言うまでもなく心霊現象のる物は、すこぶる突飛不可思議で、読者の中にはそのままこれを事実として受け容れ得ないものもあるかも知れぬが、これは諸子の心霊常識が不備であるめで、今更いまさら急にこれをドーする訳にも行かない。それ等の方々は何卒しばらく軽率なる結論を下すことは差控え、成るべく早く機会を作りて、親しくわれ等の提供する実験に臨んで戴きたい。百聞は一見に如かずの譬の通り、一二回の心霊実験は必らず諸子の思想信念に一大革命を惹起じゃっきせずにはかないであろう。くれぐれも御免ごめんこうむりたきは無知がもたらす所の、鼻元思案式、独断式、盲目式の否定的態度である。



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