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〔五〕 並松雑話

(七)


 霊夢れいむはなしをしたから、これから天眼通てんがんつうはなしでもすこしばかりらすとしよう。じつうと、自分じぶん並松なみまつ引越ひきこしてから、やく年間ねんかんばかりは、ほとん連日れんじつごとつま鎮魂ちんこんして、天眼通てんがんつうかんする幾多いくた実験じっけんかさねてた。自分じぶんもっとおお苦心くしんしたのは、審神者さにわとしての職務しょくむ遂行すいこうで、つま天眼てんがん通力つうりきおおくはこれ連関れんかんして使つかわれた。なにしろ相手あいてかみだの、霊魂れいこんなのであるから、その正体しょうたいをつきとめ、その正邪せいじゃ善悪ぜんあく審判しんぱんするというのは、じつ至難しなんちゅう至難しなんわざである。うっかりすると、きつねや、たぬきや、野天狗のてんぐなどにだまされて、んでもない失敗しっぱいえんずる。

 自分じぶん横須賀よこすか時分じぶんに、天眼通てんがんつう見本みほんだけは、自身じしん体験たいけんせしめられたが、そのえなくなった。わずかにゆるされたる天言通てんげんつうと、直覚ちょくかくと、常識じょうしきとで、憑依霊ひょういれい審判しんぱんせねばならぬのであるから、随分ずいぶん心細こころぼそはなしだ。出来できだけ念入ねんいりにはやるが、見損みそこなってりはせぬかという、懸念けねんつねけたことはない。一ねんねん歳月としつきかさね、一千二千と日数にっすうかさねるにしたがって、すこしづつは上達じょうたつしてはくようでもあるが、じつ現在いまでも斯麼こんな六ヶい、斯麼こんな気骨きぼねれる仕事しごとはないとおもってる。むことをずしてやることはやるが、ドウも人間にんげんには、少々しょうしょうぎた仕事しごとのようにしかおもえない。

 さいわい自分じぶん霊眼れいがん不足ふそくは、つまほう幾分いくぶんおぎなってれてる。少々しょうしょう不便ふべんだが他人たにんたのむことをかんがえれば、あま文句もんくわれまい。で、すこ重大じゅうだい問題もんだいとなると、自分じぶんただちつま鎮魂ちんこんして、自分じぶん審判しんぱん裏書うらがきをさせ、自分じぶん無形むけいくだせる審判しんぱんと、つま天眼てんがんえいぜる有形ゆうけい神示しんじとが、ぴッたりごう一せるのをて、はじめて安心あんしんするという始末しまつだ。大正たいしょうねんから七ねんはじごろにかけては、ほとんどすべてのひと守護神しゅごじんふく守護神しゅごじん断定だんていするのにも、自分じぶん毎度いつもこの二じゅう手段しゅだんった。

矢張やはおれおもったとおりのようだ。守護神しゅごじんは○○に相違そういない』

 斯麼こんなことって、自分じぶんはじめていささむね撫下なでおろすのであった。

 しかし審神さにわぞくすることは、自分じぶんだけの参考さんこう材料ざいりょうとして、当分とうぶんむね奥深おくふかくべきことで、ここで一々素破すっぱわけにはかぬ。目下もくか和光わこう同塵どうじんの百夜行やこう時代じだいである。神様かみさまはしばらく審神さにわゆるめて、おにでもじゃでも改心かいしんすればるべく赤恥あかはじをかかせず、場合ばあいによりては守護神しゅごじん転換てんかんまでもやって、すくわれようとされてる。人間にんげんごころでは、いささかしゃくさわ連中れんちゅうも、そんじょそこいらに沢山たくさんあるが、あくまでむしころして、最後さいご大審判だいしんぱんつべきであろうとおもう。

 うなるとくことははなはすくなくなる、つまらんはなしだが、天眼通てんがんつう実地じっち応用おうようしたことでもいてこう。

 たしか大正たいしょうねんの二三月頃がつごろかと記憶きおくする。自分じぶんが二かい原稿げんこういてると、役員やくいん西谷にしたにさんが大急おおいそぎでやってて、「神霊界しんれいかい」に掲載けいさいすべき出口でぐち先生せんせい原稿げんこう紛失ふんしつしたから、自分じぶんつけてもらいたいというのであった。

『モウ植字しょくじかからんければならんので、今朝けさから総掛そうがかりでさがしてますが、何処どこ什麼どうしまんだものか、ドウしても見当みあたりません。大先生だいせんせいからは大変たいへんなお目玉めだまで、みんながあおくなってしまってります。仕方しかたがないからおたく御相談ごそうだんました』

 自分じぶんもこれにはよわった。その原稿げんこうというのは、一たことはなし、近視眼きんしがんではあるし、多数たすう役員やくいんが、総掛そうがかりでさがしてわからんものを、とても自分じぶん見附みつすというがらではない。自分じぶんは、

什麼どうです、モ一念入ねんいりにさがしては……』

げをりにかかったが、西谷にしたにさんは承知しょうちしない。

『二時間じかんかかって、さがせるだけさがしてもわからんのですから、このうえ人力じんりょくさがしようはありません。一つ神様かみさまうかがっていただきます』

 自分じぶんむことをず、神前しんぜん鎮魂ちんこんして御神示ごしんじあおぐと、

役員やくいんしつ戸棚とだなの、むかってみぎはしる』

ということがわかった。そこでそのまま出掛でかけようとしたが、てしばし、まんが一にもちがったら恥晒はじさらしだ。一つ天眼通てんがんつうたしかめてるにしかずとおもって、つま神前しんぜんせた。早速さっそく鎮魂ちんこんめいじて、

原稿げんこう所在地しょざいちせていただきたい』

神様かみさまにおたのみした。

 もなくつま天眼てんがんえたとおりを報告ほうこくした。

押入おしいれの内部なかでしょうか、書籍しょせきだの、雑誌ざっしだのが沢山たくさんあります。そしてその前列ぜんれつに、日本にほんとじ書物しょもつが四五十さつんでありますが、その真中辺まんなかへんにあるのが、原稿げんこうのようにおもわれます』

 自分じぶんただち西谷にしたにさんとって大本おおもとった。そして真直まっすぐ役員やくいんしつはいってって、戸棚とだなみぎはしをガラリとけた。そのなかには書物しょもつ雑誌ざっしがゴチャゴチャしてたが、成程なるほど前列ぜんれつに四五十さつ和書わしょんであり、そしてその中央ちゅうおうへんに、三十まいばかりの原稿げんこうがハミしてえるではないか。

『へえ、これでしょう』

 そのまま引張ひっぱして西谷にしたにさんにわたすと、

『これですこれです! たッた一ぺんつけられてしまいましたなァ……』

 問題もんだいはなはちいさいが、これなどは自分じぶんった仕事しごとうちで、比較的ひかくてき手際てぎわのよいものであったかもれない。


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