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〔五〕 並松雑話

(三)


 先祖せんぞ両親りょうしん罪穢めぐりってくれた三郎さぶは、同時どうじまた幽界ゆうかい現界げんかいとの、一しゅ連絡れんらく機関きかんとしての役目やくめをもつとめてくれたのであった。

 すでにしばしばべたとおり、帰幽きゆうしたひと霊魂れいこん生前せいぜん個性こせいをそのまま保留ほりゅうして、永久えいきゅう不滅ふめつのこるものである。現代人げんだいじんおおくが空想くうそうかんがえるように、けっしてそのまま消滅しょうめつしたり、また死後しごただち個性こせいうしなって、宇宙うちゅう大霊たいれいうちごう一したりするようなことはない。これは真剣しんけん霊魂学れいこんがく研究けんきゅうしたものには、一てん疑義ぎぎさしはさむの余地よちもないところで、今頃いまごろ斯麼こんなことがわからずに、かれこれと屁理窟へりくつならべる人間にんげんは、余程よほど血迷ちまよってるとわねばならぬ。

 お一だん研究けんきゅうすすめてると、幽界ゆうかいける各自かくじ霊魂れいこんは、それぞれその待遇たいぐうどう一でない。その生時せいじける功罪こうざいきて厳密げんみつなる審判しんぱんけ、ことをしたものは安住あんじゅうあたえられ、わることをしたものはくにき、そこくにきなどという極刑ごくけいせられてるのもある。古来こらい仏教ぶっきょういて地獄じごく極楽ごくらくせつなどは、自分じぶんの五ねんらい調査ちょうさによると、けっしてなぞ方便ほうべんではなく、大体だいたいおい幽界ゆうかい現状げんじょうそのまま報告ほうこくであるようだ。

 現界げんかいではたくみ法網ほうもうさえくぐれば、いかなる不徳漢ふとくかんでも相当そうとうにおちゃにごせるが、かみ政庁みかど審判しんぱんはそんなお手柔てやわらかなものではなく、しゅとして道義的どうぎてき標準ひょうじゅんりて判決はんけつくださるるものらしい。げん自分じぶんすこばか幽界ゆうかい模様もようしらべてところによりても、現世げんせおい大臣だいじん大将たいしょう栄職えいしょくにあったものが、どくなほどひく取扱とりあつかいけてたり、また現世げんせおい名僧めいそう知識ちしきうたわれた人々ひとびとが、案外あんがいやすッぽい境遇きょうぐうたりする。この方面ほうめんかんする自分じぶん調査ちょうさぶんであるから、その内容ないよう発表はっぴょうをすることは当分とうぶん見合みあわせるが、無論むろんそのうちくわしいことわか時節じせつめぐってる。

 それこと什麼どうでもよいとして、げん吾人ごじん頭上ずじょうせまった目下もくか急務きゅうむは、吾人ごじん先祖せんぞ霊魂みたま問題もんだいである。吾々われわれ先祖せんぞうちには、その生時せいじおいつみおかしたり、失策しくじりをやったり、また不幸ふこう短命たんめいにして、人間にんげんとしての職責しょくせきを十ぶんはたさなかったりした結果けっか帰幽きゆう相当そうとうくるしんでるものがけっしてすくなくない。その苦痛くつうから先祖せんぞ霊魂みたま救済きゅうさいすべきほとんゆい一の方法ほうほうは、ドウも改式かいしきおこなうことのようだ。改式かいしきとはんでごとく、大本おおもと真信仰しんしんこうりたる子孫しそんが、あらためてその祖先そせん霊魂みたま正式せいしきまつりかえ、伊都いづみたま美都みづみたま大神おおかみ御名みなさいわえて、その罪科つみはらい、その苦痛くつうなぐさめることである。さすれば従来じゅうらいまよえる祖先そせん霊魂れいこんも、はじめて安心あんしんして改心かいしんじつげ、子孫しそん協力きょうりょくして、御神業ごしんぎょう遂行すいこう尽力じんりょくすることにもなる。

 自分じぶん大正たいしょうねん大神様おおかみさま御神霊ごしんれい奉祭ほうさいしたが、しかし祖霊それい改式かいしきおこなうにはいたらなかった。べつふか理由りゆうがあったというわけではなく、しゅとして改式かいしき理由りゆう当時とうじ自分じぶんに十ぶんちなかったのと、また一つには、自分じぶんの一のみがにもあわてて改式かいしき必要ひつようはなかろうとおもったからであった。が、大正たいしょうねんになると祖霊それいほうでそろそろ催足さいそくはじした。安住あんじゅうられる立派りっぱ祖霊それいほうはそうでもなかったが、罪科つみ責罰せきばつくるしんでらるる祖霊達それいたちは、凝乎じっとしてってることが出来できなくなったものとえ、すこぶ皮肉ひにく催促法さいそくほうこうした。ほかでもない。それは三郎さぶいためることであった。

 みょうなもので、自分じぶん在宅ざいたくすると、祖霊達それいたち遠慮えんりょしてかかってぬが、三不在るすをすると、きまって三郎さぶれあがるのであった。大正たいしょうねんには六がつ、八がつ、九がつ、十がつとう数回すうかい不在るすをしたが、可哀相かわいそう三郎さぶそのたびごとあがった。

随分ずいぶん祖霊それいうちには没分曉わからずやる!』

などと自分じぶんののしってたが、最後さいご自分じぶんさとった。

『これは理窟りくつではない、実地じっち問題もんだいだ。くるしんで祖霊達それいたちはや改式かいしきしてすくげねばならぬ』

 とうとう大正たいしょうねんはじめに、われ祖霊それい改式かいしきおこなわれた。三郎さぶ何回なんかいあがったればこそそのにもなったが、さもなければ、自分じぶんなどは容易よういおとなしく改式かいしきをやる人間にんげんではなかったようだ。

 改式かいしきんだので、モウ三郎さぶれることはなかろうと安心あんしんしてると、其後そのごおいてもまたれた。鎮魂ちんこんしてしらべてると、他家たけえんづいて叔母おば霊魂れいこんかかってて、改式かいしきせまるのであった。さら其後そのごれたのでしらべてれば、今度こんど叔父おじ霊魂れいこんであった。とも肉親にくしん関係かんけいがあるから、幾分いくぶん筋道すじみちちがうが、自分じぶん改式かいしきませた。

『モウこれで三郎さぶれることはなかろう。まつるべきところ全部ぜんぶまつった。今度こんどだれてもまあ謝絶ことわりだ』

 斯麼こんなことって安心あんしんしてると、昨年さくねんはるになってまたあがった。

また何処どこぞの祖霊それいかかったのだろう。おかどちがいの祖霊それいでもあったらウンとしかってやる』

 自分じぶんはブツブツいながら、三郎さぶんで鎮魂ちんこんしてると、はたしておかどちがいの霊魂れいこんかかってた。ツイその前日ぜんじつ茨城県いばらぎけんとおとお親戚しんせきが、手紙てがみ改式かいしき手続てつづき依頼いらいしてたが、当人とうにん不日ふじつ綾部あやべ参拝さんぱいするとのことであるから、自分じぶんその来着らいちゃくつことにして、改式かいしきはそのまま放棄ほうきしていた。ところが、祖霊達それいたちは、それがれずに、三郎さぶ襲撃しゅうげきしたのであった。

もの道理どうりわからんにもほどがある。即時そくじ退散たいさんせぬとしばる!』

 自分じぶんおもわず大声おおごえ叱咤しったしないわけかなかった。無論むろんかかる場合ばあいに、憑依霊ひょういれいは一鎮魂ちんこんはなれる。そして疼痛とうつうたちま消滅しょうめつするをつねとするが、一たん腫上はれあがった疵跡きずあと治癒ちゆには三や五はかかる。

三郎さぶ全然まるで幽界ゆうかい晴雨計せいうけいだ』

 などと自分じぶんたわむれるが、しかしこころうちでは随分ずいぶん御苦労ごくろう役目やくめだとおもってる。

 


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