心霊図書館」 > 「冬籠」  >

〔四〕 秋の丹波

(五)


 宇津うつ湯浅ゆあささんがかた信者しんじゃになって、大本おおもとはたらいてるのも不思議ふしぎだが、周山しゅうさん吉田よしだ大本おおもと信者しんじゃとなり、また親戚しんせきになったのはさらに一そう不思議ふしぎで、仕麼どうしても因縁いんねんというよりほか説明せつめい仕方しかたはないようだ。当主とうしゅ龍次郎りゅうじろう入信にゅうしんしたのは七八ねんまえのこと、またその二なん大二ひろつぐさんが出口でぐちもらわれてったのは三四ねんまえのことであったらしい。

 吉田よしだ北桑田きたくわたでの旧家きゅうかであり、また素封家そほうかであるだけ、いえやしき却々なかなかひろい。やしきうらはすぐやまつづきとなって、そのへんかき老木おいきばかりも三四十ぽんならんでる。そのほかくりもあり、松茸まつたけやまもあり、丹波たんばあき胃袋いぶくろあじわいたいとおもひとには、たしかにあつらえむききに出来できる。

『一ぺんうらやまのぼってましょうかい』

出口でぐち先生せんせい座敷ざしきちつくもなく自分じぶんうながす。

すこしは松茸まつたけえてましょう』

ってましょう』

 大二ひろつぐさんも周山しゅうさんかえってたが、早速さっそくっててくれた藁草履わらぞうり穿いて、三にんうらやまへと無茶むちゃ苦茶くちゃけあがった。おもいのほかたかやまで、頂点てっぺんまでは四五ちょうはあろう。恰好かっこうまつ沢山たくさんえてた。

 イクチとかしょうするたけいたところにあったが、松茸まつたけ却々なかなか見当みあたらなかった。散々さんざんさがした揚句あげく

『ヤッあった!』

 手柄顔てがらがお自分じぶんかさひらいたおおきなやつつけて、ろうとすると、

小父おじさん其麼そんなものを……。なんとか毒茸どくたけじゃありませんか』

 大二ひろつぐさんにわらわれて大失敗だいしっぱいをやった。元来がんらい自分じぶん松茸まつたけいの名人めいじんではあるが、松茸まつたけがりにかけてはまるきり素人しろうとだ。のみならず元来がんらい当物あてもの捜物さがしものにかけては、自分じぶん先天的せんてんてき下拙へただ。十四五の時分じぶん北総ほくそう印幡いんば萩村塾しゅうそんじゅくたので、初茸狩はつたけがり経験けいけんだけはってる。塾生じゅくせいどうで二三時間じかんあつめると、大籠おおかごにて一パイくらい初茸はつたけれたが、そんなときに、自分じぶんにはとても塾生じゅくせい半分はんぶんれなかったように記憶きおくしてる。

きみッとも見附みつけんじゃないか、余程よほど下拙へたおとこだ』

などと友達ともだちあざける。仕方しかたがないから、

下拙へたなもんか、非常ひじょう上手じょうずなのだ。あんま上手じょうずなのでぼくくと、初茸はつたけこわがってかくれる。』

などと負惜まけおしみをったものだ。

 三十ぷんばかりもさがしあるいた揚句あげくに、一つも見当みあたらず、そろそろ引揚ひきあげようとしてると、出口でぐち先生せんせいやぶかげからおおきなこえてられる。

浅野あさのはん、ここへおでやす、おおきなのがあります』

 ってるとほどおおきいのが一ぽん半開なかばひらいて枯松葉かれまつばこけとを押除おしのけてヌッとかおしてた。

『これで見本みほんだけは出来できました。おりやす』

 自分じぶんはそれをらしてもらった。

『おかげさまで、モウ松茸まつたけがり経験けいけんが一いとはわずにみます』

 うらやまには松茸まつたけがたった一しかかったが、台所だいどころにはての見事みごとやつやまほどんであった。それをさかなに一ぱいきこしめして、主人しゅじん夫婦ふうふともに一どう車座くるまざになって、あき夜長よなが雑談ざつだんふけった。

 神様かみさまはなしれば、吉田よしだ先祖せんぞ意義いぎふか因縁いんねんばなしる。またこうつみのない丹波たんば山里やまざと風説うわさる。

『このへんあきまったうらやましいが、ゆきでもつもってると、随分ずいぶん出入ではいりにおこまりでしょう』

自分じぶんたずねる。

ふゆになれば人間にんげん冬籠ふゆごもりよりほか仕方しかたがありません』

吉田よしださんが毎時いつもニコニコ、落著おちついた句調くちょうかたす。

『しかしゆきったときりょうでもやるには面白おもしろところです。ツイこのむかうに松山まつやまえましょう。食物たべもの欠乏けつぼうすると、あのへんまでしします。一ぺん彼所あそこ仕留しとめたことがありました』

ししにくというものはやわらかてうまいものですナ。わたしもツイ一昨年さくねんふゆまでは時々ときどきいにきましたが、ただ少々しょうしょう臭味くさみがありはしませんか』

『それはにくふるいからでしょう。あたらしいししにくになると、ほどよく脂肪しぼうがあって、やわらかで、彼麼あんなうまいものはありません。遠方えんぽうしたものは、さッぱりあじちてます』

『それとってたら大本おおもと信仰しんこうはいまえに、一ぺん猪肉ししいに丹波たんばくのでした。アハハハ』

おしゅうございましたネ。ホホホホ』

 ここでも村人むらびとすうにん大本おおもとはなしをききにあつまってたが、それは福島ふくしま星田ほしだ両女史りょうじょしまかしていて、自分達じぶんたちはぐッたり山里やまざとしずかなねむりってしまった。あとできけば両女史りょうじょしは、午前ごぜんの三時頃じごろまでほとん徹夜てつやはなしつづけたそうで、いつもながその根気こんきにはおどろかされたのであった。


前へ

目  次

次へ


心霊図書館: 連絡先