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〔三〕 東のぼり

(九)


 一週間しゅうかんばか郷里きょうり滞在たいざいして綾部あやべもどったが、おりれて一にちに一二ぐらい亡母なきははこと老父ろうふこと郷里きょうりことおもされてならなかった。

 ろう夫婦ふうふうち一人ひとりけると、のこったほうもめっきりおとろえるものだそうだが、ちち気丈きじょうなようでもモウ七十四さいだ。もしや、がっかりしてどっとやまいとこくようなことでもなければよいが……』

 八がつさいわいことなくぎたが、九がつると、もなく電報でんぽうちち危篤きとくしらせてた。

『とうとうやってしまった。今度こんどまた駄目だめかもれぬ』

 風声ふうせい鶴唳かくれいで、そのころ自分じぶんはビクビクものであった。早速さっそくまた大本おおもとって大神おおかみさま訴願きがんをしたが、今度こんどなおるかなおらぬかのうかがいなどはてなかった。寿命じゅみょうがあればなおしていただけるであろう、いものならば是非ぜひもないと、最初さいしょから生死せいし問題もんだい度外どがいだけ観念かんねんがついてた。

 かくよる急行きゅうこう出発しゅっぱつすることにめて、その準備したくをしてところへ、いそいではいってたのは篠原しのはらさんであった。

只今ただいまわたし神憑かみかかりがあって、御親父ごしんぷさんの御病気ごびょうきことおしえられました。もっとれいとおり、何所どこまで真実ほんとうなのか、一こうてにはされませんが……』

貴下あなた守護神しゅごしん什麼どんなことをおしえましたか』

今度こんど変梃へんてこことをやってせましたよ。御親父ごしんぷさんの病気びょうきを、わたし身体からだうつしてせてやるのだとかって、おかげ大変たいへんくるしいわされました。どうも嘔気はきけまらない御病気ごびょうきのようです』

経過けいかことについてはなんといわれます?』

ず九りん六ヶ敷むずかしいいますが、先達せんだつてもまるでうそおしえられたところると、今度こんどもアベコベかもれません……』

 こころみに篠原しのはらさんを鎮魂ちんこんして、自分じぶんまえちち病気びょうき実地じっちをしてもらってたが、ほどゲーゲー、いまにも小間物こまもの見世みせでもけはせぬかとおもわれるほど嘔吐おうと真似まねをしてせるのであった。

 午後ごご汽車きしゃ自分じぶん綾部あやべ出発しゅっぱつした。おもえば三つきばかりのあいだに、三あずまのぼりであるが、一つとしてむねいため、あたまくるしむる性質せいしつのものでないのはない。これは神諭しんゆ所謂いわゆる罪穢めぐりられるのか、それともかみさまからかれるのか、なにかはらぬが、随分ずいぶんきびしいとおもわぬわけかなかった。これがりょうねんぜん自分じぶんであったら、いろしっしてあわてさわぎ、すくなからず醜態しゅうたいえんじたであろう。が、未熟みじゅくながらも信念しんねんのあるおかげで、こころそこ案外あんがいちついてた。死中しちゅうかつあり、暗中あんちゅうひかりある心地ここちがして、何事なにごとがありともかみのまにまにという決心けっしんだけはうごかなかった。

 が、その翌日よくじついよいよ生家せいかもんをくぐったときは、ちちうえ什麼どうかしらと、矢張やはむね動悸どうきは一たかまった。

 意外いがいにもちち容態ようたいおもったほどわるくはなかった。病症びょうしょう医者いしゃわせると中風ちゅうぶう種類しゅるいで、一にち何回なんかいとなく、発作的ほっさてき半身はんしん痙攣けいれんおこし、それが三十ぷんくらいつづいてはみ、んではまたおこるのであった。

篠原しのはら守護神しゅごじんまたひとをかつぎったな。嘔気はきけだなどとうそばかりきくさる!』

 こころにかくおもったが、だれにもそのはなしはしなかった。後日ごじつ綾部あやべもどってから、篠原しのはらくん鎮魂ちんこんして詰問きつもんしてやると、れいにより洒蛙しゃあ洒蛙しゃあしたもので、ぐさふるってた。

『あれはわたしったことではありません。彼様ああしてせたら、浅野あさの什麼どんなあわかたをやるか、ためしてろと、貴下あなた御守護神ごしゅごしんたのまれてったまででした……』

 あに自分じぶんよりは二三時間じかんおくれてくれからはせつけた。それからひざまじえて、ちち病気びょうきについて、いろいろ相談そうだんをしてたが、かくこれが医薬いやくなおらぬだけうたがうべき余地よちがなかった。ちちあにもその人々ひとびとも、当時とうじ大本おおもとおしえについては、八九うたがいいだいてるところであったが、うなってはいささかってた。とうとう自分じぶん鎮魂ちんこんして祈願きがんをこめることになった。

 自分じぶんは一しん神示しんじあおぎ、一週間しゅうかん大体だいだい平癒へいゆすると断言だんげんして、まず背水はいすいじんって鎮魂ちんこんはじめた。ところが、最初さいしょにちに十数回すうかいにものぼった痙攣けいれんが、翌日よくじつは八かいり、またその翌日よくじつは五かいり、痙攣けいれん時間じかん次第しだい次第しだい短縮たんしゅくして、到頭とうとう週間しゅうかんおわりには、ただの一かいおこらぬ所迄ところまでこぎつけてしまった。

 眼前がんぜんこの顕著けんちょなる神力しんりょくせつけられた人々ひとびとは、多少たしょう感動かんどうせぬわけにはかなかった。ドウもちちあに大本おおもと信仰しんこう萌芽ほうがは、この時分じぶんから確実かくじつ発生はっせいしかけてたようだ。

 自分じぶんは十ばか郷里きょうり滞在たいざいし、今度こんどはいささかかる気分きぶんになって綾部あやべきあげた。


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