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〔三〕 東のぼり

(六)


 秋山あきやま邸内ていない空気くうきは、それからめきめきと悪化あっかしてった。

 自分じぶんはもっとくわしくくつもりであったが、いかにしてもこれ以上いじょうがせぬ。おそらく時期じき尚早しょうそうというものであろう。いまだん世界せかい形勢けいせいすすみ、いまそう世人せじん霊的れいてき理解りかいすすんでから、全部ぜんぶ描出びょうしゅつすべき機会きかいもあろう。当分とうぶんこれくらいのところであずかりだ。

 いうまでもなく六がつ廿六にちばんに、東京とうきょう大地震おおじしんおこりはしなかった。秋山あきやまさんや自分じぶんたちがいかに一すごしたか。その光景こうけいいま歴々ありありとして自分じぶん眼裡がんりのこってるが、それはわぬがはなであろう。かく自分じぶん等一こうは、二十七にちもっ秋山あきやまていきあげて綾部あやべかえった。

 東京とうきょう秋山あきやまてい大騒おおさわぎがあったごとく、そのあいだ綾部あやべ大本おおもとないでも大騒おおさわぎがあった。自由じゆう自在じざい神通力じんつうりきそなえたる出口でぐち先生せんせいには、東京とうきょうのそのその様子ようすごとわかった。秋山あきやまさんのくちからたる東京とうきょう大地震おおじしん予言よげんが、悪霊あくれい邪魔じゃまであることは、先生せんせいにはうにわかってた。一はやくその預言よげん取消とりけして、一はや綾部あやべ引上ひきあげよとの電報でんぽうは、二十五、六の両日りょうじつにかけて、十つうばかりも自分じぶんところおくられ、おわざわざ特別とくべつ使者ししゃまでも寄越よこされた。それにもかかわらず、何故なぜ自分じぶんが二十七にちまで秋山あきやまていうごかなかったか。愚痴ぐちわばえ、老婆心ろうばしんわらはばわらえ、自分じぶんには最後さいごまで秋山あきやまさんを見棄みすててかえるがせなかったがためであった。

 イヤ二十六にちの、邪神界じゃしんかい妨害ぼうがい運動うんどうったらひどいものであった。この結果けっか秋山あきやまさんと自分じぶんとのあいだには、危機ききぱつの、きわどいきわどい一まくさええんぜられんとした。自分じぶんいま呑気のんきかおをして空気くうきってられるのは、ひとえ大神おおがみさまの御守護ごしゅごのおかげである。自分じぶんごときものでも、神様かみさま見殺みごろしにはたまわず、紫電しでんせんして、西にしそらからひがしそら瑞雲ずいうん棚曳たなびいた。

 あといたはなしであるが、二十六にちの、大本おおもと内部ないぶさわがしさは一ととおりでなかったそうだ。おみやというおみやとびら全部ぜんぶはなたれたり、すう十の役員やくいん信者しんじゃせたふねがおいけかえったり、霊夢れいむ頻頻ひんぴんとして幽界ゆうかい実状じつじょうつたえたり、出口でぐち先生せんせい素盞鳴尊すさのおのみこと神懸かみがかりがあって『常夜とこよゆくあま岩戸いわとひらくなる今宵こよいそらさわがしきかな』の神歌しんかたり、神風しんぷうがだしぬけにおこったり、総員そういんてっして一すいもせず、ひがしそらこころせたそうだ。

 それはかく、このとき境界きょうかいとして、秋山あきやまさんの大本おおもと信仰しんこう急転きゅうてん直下的ちょくかてきだい動揺どうようきたし、大本おおもととらえて邪神じゃしんばわりをすることになった。ながなが悪罵あくば手紙てがみ出口でぐち先生せんせいのお手許てもとまでおくられもした。ただし、秋山あきやまさんの罵倒ばとうあまながくはつづかなかった。なんとなれば秋山あきやまさんは盲腸炎もうちょうえん再発さいはつめに、あえなく帰幽きゆうされてしまったから……。

 秋山あきやまさんの親友しんゆうもっにんずる海軍かいぐん部内ぶない某々ぼうぼう将官しょうかんれんは、よくんなことをいう。

大本おおもと邪教じゃきょうである、あのおしむべき秋山あきやまが、大本おおもとため後半生こうはんせいあやまったではないか』

 云々うんぬん。ああ大本おおもとはたして秋山あきやまさんをあやまったか。それとも秋山あきやまさんが大本おおもとあやまったのであるか。

 自分じぶんここ露骨ろこつに一げんする。秋山あきやまさんは天下てんか先立さきだちて、首尾しゅび大本おおもとただしき信仰しんこうりかけたが、おしかなかみ大試練だいしれんいて、これつまづいてしまったのであると。

 六がつ二十六にち東京とうきょう大地震おおじしん予言よげんは、大本おおもと神諭しんゆおしうるところでもなく、また自分じぶんなどの入智慧いれぢえでもなく、全然ぜんぜん秋山あきやま予言よげんであって、大本おおもと全然ぜんぜん無関係むかんけいである。どうも秋山あきやまさんは立派りっぱひとではあったが、あまりにあせぎ、あまりに神諭しんゆ教訓きょうくん無視むしぎ、あまりに自己じこ力量りきりょうしんぎ、またあまりにいろいろのヤクザかみ関係かんけいをつけぎてた。悪霊あくれいじょうずべき隙間すきまなり沢山たくさんあった。東京とうきょう大地震おおじしん予言よげんごときは、無論むろん正神せいしんのおげではなく、邪神じゃしん妨害ぼうがい運動うんどうであった。

 何人なんびとこころ多少たしょう隙間すきまのないひとはないから、時々ときどき邪神じゃしんめにじょうぜられて失敗しっぱいまぬがれない。かみさまは失敗しっぱいきては極度きょくど寛大かんだいであらせらるる。失敗しっぱいはしてもただちがついて、自己じこ不明ふめいしゃしさえすればそれでよい。自分じぶん秋山あきやまさんのあやまれる地震じしん予言よげん格別かくべつわるいとはおもわぬ。自分じぶんなどもうっかりすると、よく間違まちがったことをう。ただ、秋山あきやまさんは自己じこ不明ふめいめに間違まちがった予言よげんをしたくせに、かえりみて自己じこめずして、かえって大神おおかみさまをうらみ、ののしまたあざけった。お門違かどちがいもはなはだしい。まったもっ残念ざんねん至極しごくなことであった。秋山あきやまさんが一だい俊傑しゅんけつであっただけそれだけ自分じぶんいま当時とうじ追懐ついかいして痛惜つうせきえないとともに、自分じぶん微力びりょくがくやまれてならぬ。

 が、んでからもなく、秋山あきやまさんの霊魂れいこんは、生前せいぜん過失かしつさとったようだ。大本おおもと霊社れいしゃには秋山あきやまさんの霊魂れいこんまつられてるが、その五十にちさいときに、秋山あきやまさんの霊魂れいこん霊媒れいばいかかってた。態度たいど音声おんせいとうまでそっくり生前せいぜん秋山あきやまさんそのままになり、自分じぶんむかってんなことをった。

『あのとき貴下あなたのお言葉ことばをきかないでんだ失敗しっぱいをしてしまい、とうとうんなりかえしのつかぬことになりました。仕方しかたがない、これかられいとしておおいにります。惣領そうりょう子供こども呉々くれぐれ貴下あなたにおたのいたします。それから××大将たいしょう是非ぜひはや信仰しんこうみちびいてください……』

 これで一と秋山あきやまさんのこときてはふでくが、ただ最後さいご秋山あきやまさんの親友しんゆうしょうする海軍かいぐん某々ぼうぼう将官しょうかんれんに一げんせてく。

貴下あなたがたは、いろいろ大本おおもとことやら、大本おおもと秋山あきやまさんとの関係かんけいやらをッしゃられるが、それがはたして故人こじん霊魂れいこん真意しんいうでしょうか。それとも故人こじんは、貴下あなたがた頑迷がんめい固陋ころう歎息たんそくしてられるでしょうか』と。


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