心霊図書館」 > 「冬籠」  >

〔一〕 綾部の冬籠

(一)


 十二がつ十一にち午前ごぜん四十ぷん汽車きしゃ出口でぐち先生せんせい村野むらのさんをはじめ、自分じぶんの一及び八丈島じょうじま奥山おくやまさん親子おやこ無事ぶじ綾部あやべ停車場ていしゃじょうおくりとどけた。

 昨夜さくやうちあめはカラリとあがり、山陰さんいん地方ちほうめずらしい快晴かいせいであったが、丹波たんば名物めいぶつきりふかめて、四周あたり山々やまやま所々ところどころかおしてるにぎない。寒気かんきほねすばかり、さすがに丹波たんば丹波たんばだけのことはあるとおもわれた。

 大本おおもとからは役員やくいん信者しんじゃすうめいはたてて停車場ていしゃじょうまで出迎でむかえにてくれた。自分じぶんたち俥上しゃじょうひととなり、一どう行列ぎょうれつつくり、綾部あやべまち徐行じょこうしたが、んだかギロギロられるようで、少々しょうしょうキマリがわるかった。

 一たん統務とうむかく落着おちついて、教祖きょうそ澄子すみこ刀自とじその方々かたがたにおにかかりて久濶きゅうかつじょしたり、また朝餐あさめし振舞ふるまわれたりして、午前ごぜん十一ごろようやれいの六百えんった並松なみまつ新居しんきょはいった。このなつったときは、そとから一寸ちょっとべつしただけであったが、いよいよいえなかはいってて、いかにも田舎いなかくさいのにはいささおどろいた。入口いりぐちひろ土間どまになってるのはいいが、二かいの八じょうへの階段かいだんが、土間どまからただちにつけてあるのがひとおどろかす。台所だいどころ以外いがいにもおくほうについてたり、土間どまおおきな丸石まるいしいて、みぎひだりとのへや連絡れんらくさせてあったり、かべ泥塗どろぬりのままでいてあったり、見晴みはらしの絶佳ぜっかである川沿かわぞえ方面ほうめん全部ぜんぶ押入おしいれにしてふさいであったり、井戸端いどばた不可思議ふかしぎ構造こうぞうにしてあったり、そのままでは随分ずいぶん勝手かってわるく、体裁ていさいまず出来上できあがってた。こと関西かんさいしきはしら天上てんじょうあかってあるのと、光線こうせんりかたが不足ふそくであるのとは、なんとなく陰気いんきな、ムサくるしいかんじをあたえた。

矢張やは丹波たんば丹波たんばらしいいえててあるネ』

 と自分じぶんつまかえりみてわらった。

『でも、地所じしょともあわせて六百えんいえじゃございませんか、あま文句もんくをいうのが間違まちがってります。すこをかければこれで立派りっぱなものになります』

つまはやくも間取まとりなどをアチコチしらべる。子供こどもたちまた子供こどもたち家屋かおくことなどには全然ぜんぜん無頓着むとんちゃくはやくも戸外おもてしてキャッキャッとさわぎまわる。

かわだネしんちやん。ふねつくってさかなると面白おもしろいネ』

面白おもしろいとも! なつになると水泳およぎ出来できる!』

 れてきたたトム(いぬ)までが、破目はめはずしてびまわり、ジャレまわってよろこんだ。

 荷物にもつ積込つみこんだ貨車かしゃ自分じぶんたち同時どうじ到著とうちゃくし、早速さっそくその運搬うんぱんはじまった。荷物にもつ余程よほどらしたはずであるのだが、今度こんどいえにはこれでも多過おおすぎた。いえうち荒菰あらごもつつんだ荷物にもつで一パイにり、ほとんあしみどころもくらいしたがって食事しょくじなどもなかなかおもうようにかず、はしたもと饂飩屋うどんやからせて、りょうにち饂飩うどんばらすごした。

 かかる混雑こんざつ最中さいちゅうおいて、自分じぶんはやくも二かいこもって、原稿げんこうかねばならなかった。綾部あやべ引退いんたいしたうえは、早晩そうばん自分じぶん機関きかん雑誌ざっし刊行かんこうせねばならないとは、このあきからかんがえてたところであったが、今度こんど汽車きしゃなかで、そのはなし出口でぐち先生せんせい自分じぶんとのあいだされた。

『ドウせすならはやほうよろしい。早速さっそくこの一がつにち刊行かんこうとしましょうか』

れいによりて出口でぐち先生せんせい計画けいかく電光でんこう石火せっかてきで、一にちあいだも、グズグズかんがんでることをゆるさない。正月しょうがつといえばあとがモウ二十らずだ。これには自分じぶんすくなからず躊躇ちゅうちょした。

いましょうか。そんなにはやく……』

いますとも!』

この一ごんに一がつにち刊行かんこうことだけはたちま決定けっていしたが、さてその雑誌ざっしなん命名めいめいしようかというのには少々しょうしょう頭脳あたまなやました。在来ざいらい大本おおもと機関きかんは「敷島しきしま新聞しんぶん」というのであったが、あまいた名称めいしょうでもない。現代げんだいくさくてもけず、古臭ふるくさくても面白おもしろからず、一寸ちょっとこまったが、とうとう最後さいごに「神霊しんれいかい」と命名めいめいすることに決定けっていした。

 『綾部あやべいたら早速さっそくふでることにしましょう。しかわたし近頃ちかごろ執筆しっぴつはいしてましたから、はたしてうまけるか什麼どう疑問ぎもんです。それに神界しんかいことはまだ一こうわかってない。これからそろそろ研究けんきゅう著手ちゃくしゅしようというのですからネ』

 実際じっさい皇道こうどう大本おおもと真相しんそうを、いかに世間せけん発表はっぴょうし、紹介しょうかいすべきかにいては、自分じぶんはまだ何等なんら定見ていけんもなく、またまとまりたる材料ざいりょうってらぬので、内心ないしんすくなからず心配しんぱいえなかった。かかるときに一どう勇気ゆうきあたえ、光明こうみょうあたえらるるのはつね出口でぐち先生せんせいである。

かみさんがたすけてくれなはります、心配しんぱいすることはありません』

 さてこそ自分じぶんは、奮励ふんれいばん山積さんせきせる荷物にもつなかから、かくふでかみすずりとをさがし、二かい立籠たてこもって、万事ばんじ放擲ほうてきして原稿げんこうしたのであった。


前へ

目  次

次へ


心霊図書館: 連絡先