心霊図書館 心霊小品集綾部を去る

心霊小品集

綾部を去る

 私は今王仁氏を補えて、その器にあらずと申しましたが、その意味は、同氏が宗教家たるにはなはだ不適当であるというつもりなのです。あれ位の芸当をする人ですから、同氏にも、他人の到底とうてい真似まねのできない長所があります。万事に如才にょさいなく、人意を察してこれに迎合することの巧妙なことは、ほとんど一の天才というべく、又、しゃれ地口じぐち[#ごろあわせ]が上手で、記憶力がよくて、とぼけた中に愛嬌があって、利害の打算が神速で、座談に長じて、ちょっと親分気質を有っている……。何の因果でかほどの才物が四角四面な、窮屈きわまる出口直子のお弟子入りなどをしたものか、全く惜しいものだと気の毒に思われます。

『あの男は、全く職業の選択を誤ったのだ。他の方面に持って行ったら、相当に成功しただろうに……。』

 ある人が私に向って、んなことを申しましたが、私もそれには一理あるものと考うるものであります。この人が何職業に一番向くのかは、ちょっと判断に苦しみますが、仮りに代議士にでもなっていたなら、確かに今頃は、陣笠以上に脱出して居たことは受合です。

 あの人が宗教家として一番の欠点は、余りに肉的分子が強烈なことであります。嫌いなのは、不思議にただ酒ばかり、たばこが好き、茶が好き、肉が好き、芝居が好き、義太夫が好き、茶番が好き、就中なかんずく女が好き、これで神様を職業しょうばいにしようというのですから、骨の折れる筈で、その苦心はお察し申す次第であります。これではいかにゴマカシの名人でも、最後にボロを出して、尻尾をつかまえられて、ギューギュー油を搾られる訳であります。それにしても、道楽をるのには、一番都合の悪い職業を、りにって苦しまねばならぬというのは、運命の神も、何という皮肉な真似まねをなさるものでしょう!

わしのする事は、皆神様の御命令でナ……。』

 んなことを言って、女でも口説き落すのには、一寸便利な点があるかも知れませんが、そんなことは、結局後始末が厄介であります。日本の飯野某、ロシアのラスプーチン、みんなその手で成功して、その手で破綻して居ります。王仁さんなども、その轍を踏まねばよいがと危まれてなりませぬ。

 才物は才のめにつまずくと申しますが、王仁氏などにも、たしかにその趣が見えます。何事に対しても持久性がとぼしく、年がら年中猫の眼のように、クルクル方針をかえて行きます。言霊学でなければ、夜も日もあけないように言っているかと思うと、やがて鎮魂帰神法をかつぎ出す。修齋会が瑞会となり、神霊界が神の国となり、昨日まで日本語を世界の通用語にするのだと意張っているかと思えば、今日はエスペラントに限るようなことを云って、可哀想に七十八十の田舎の年寄にまで、その講習を迫り、宗教統一の標語が、宗教連盟のそれにかわり、筆先のうしとら金神が、たちまち紅卍の老君と合併し、長髪になって冠をつけたものが、近頃は短髪で支那服を着たり、トルコ帽をかぶったり、気まぐれに蒙古に出掛けて見たり、亀岡城址の埋れ石を引き摺り出して、石垣を築いて見たり……。讃めていえば、機略縦横かも知れませんが、う頻繁に変ったのでは、結局支離滅裂に陥るのが当り前で、誰やらが

『出口は猿芝居を打っている。』

と評したとの事ですが、成程そういえば、たしかにそんなところがあるようです。しかし世の中は広いもので、信者の中には、今なお根気よく、

『神さまのなさる事は、さッぱり見当が取れませんが、いずれは落ちつくところに落ちつくでしょうかい……。』

などと云って、すべて善意に解釈して、希望をその将来につなぐものも、絶無ではないようです。猿の芝居か? みろく様の御経綸か? それはやがて、時が最後の解決を与えてくれるでしょう。


綾部を去る 2

目  次

綾部を去る 4


心霊図書館: 連絡先