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心霊小品集

日の出ぬ国

 むかしむかしある所に、住民の大部分が盲目者めくらばかりの国土くにがありました。哲学者も、科学者も、文学者も、政治家も、宗教家も、ことごと盲目者めくらなのであります。

 盲目者めくらでないのは、ホンの少数の無学者ばかり、その人達に限りて日輪を拝みます。

今朝けさの日の出は、何というりッぱなことでございましたろう! お日さまを拝んでいると、気が晴々はればれしますナ。』

『気が晴々はればれする段じゃありません。萎れかけた生命いのちの芽が活きかえって来ますよ。』

『イヤ日の出も結構ですが、夕陽ゆうひのけしきは又格別でございますナ。五色の雲が棚曳たなびいて、しかもしんみりとした落つきがあって、あれに向っていると慾も、得も、怨みも、妬みも、知らず知らず消えてなくなってしまいます。』

 んな問答が学者達の耳に入ったからたまりません。学者達はムキになって怒りました。

『けしからんことを申す無学者どもじゃ!』と、一人がいきまきました。『昼の間に温度の高まることは事実に相違ない。しかしこの無形のものを具体化して、あたかも太陽などという、円いものが存在するかの如く言い触らすに至っては、言語道断の沙汰じゃ。んなに世人を惑わすか知れん……。』

『第一外国へきこえても、面目ない次第じゃ。』と、他の一人も相槌を打ちました。今の時勢に太陽の存在を口にする迷信家が、一人でもあるようなことでは、到底文明国の仲間入りができなくなる。至急彼等を呼びつけて、説諭してやることにしましょう。』

 そこで眼明きの無学者どもを呼び寄せて、一流の学者達が、噛んでふくめるように、太陽などというものが有るべき筈のものでない所以を説ききかせましたが、無学者達は頑としてきき入れようとしません――。

『あなた方が何と仰ッしゃっても、私どもには、円いピカピカしたものが、現に見えるのだから仕方がないです。』

いずれも異口同音に、そう主張するのでした。

 次第に問題が大きくなって、とうとう一粒選りの学者達を委員として、一の調査会を組織し、事実の有無を研究することになりました。

 幾百回かの綿密なる実験を遂げた後で、最後に眼の開閉運動と、太陽の有無との間に、密接の因果関係が存在することを発見するに至りました。即ち無学者達が太陽を見る時には、必ずまぶたける。まぶたを閉づると同時に太陽が見えなくなる。――この事実がつきとめられたのであります。

『これが幻覚の発生した原因じゃ。』と、盲目の学者達は、大得意で説明しました。『あなた方が見えるという太陽は、つまりあなた方の眼を開くことによりて起るところの、一の幻影に過ぎない。その証拠には、試みに眼をつぶってみるがよい。太陽の幻影は即座に消えるであろうが……。』

『眼をつぶれば太陽は見えなくなります……。』

単純な無学者達は、いずれもありのままにそう答えました。

『そうじゃろう。イヤそうなくてはならん!』と、学者達は歎びました。『以後あなた方は、つとめて眼をつぶる稽古をして、一時も早く、幼稚きわまる太陽の幻覚から脱却せねばならん。さもないことには、文明国民の仲間入りがきませんぞ!』

 しかしそれをきいた時に、眼明きの無学者達は、覚えず腹の中で笑いました。そして立ち去りながら言いました――。

『ドウも学者というものは、随分無理な註文をするものだ! 見るなと言ったところで、太陽は見えるのだから仕方がない。……


薬がきき過ぎた

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綾部を去る 1


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