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心霊小品集

 後は簡単に要領だけを書きつけますが、憑霊の言ったとおり、五六分の後には、はたして延代の生霊と称するものがかかって来ました。ところがその態度なり、音声なり、又その答弁なりが、ドウ見ても延代そのものに相違ないと認められましたので、小松はKさんや、政尾さんと相談の上で、即日延代の旅費として、十円の為替を組んで大阪に送り、んな次第であるから、早速こちらへ来てくれと書き添えてやりました。

 すると越えて三日目の朝、小松が例の通り、政尾を統一状態に入れて、先方の様子を憑霊に訊いて見ると、延代は今日午後三時半の汽車で、必ずこちらに着くとのしらせ。兎も角も誑された気で、停車場まで迎えに行って見ようというので、K氏をはじめ、政尾だの小松だのが、ゾロゾロ停車場へ出掛けて行ったのです。

 ところが、延代が可愛らしい男の児の手を引いて、実際プラットフォームに降り立ったのを見た時は、一同今更ながらびっくりしました。

『矢張り神懸りも莫迦ばかにはきない。恐ろしいものだ。……』

 誰の胸にも、ずこの事がギクリと感じたのでした。

 それにしても六年の歳月を置いて、すっかり母親らしくなった延代と、その腹に宿らせた自分の子の姿を見たK氏の胸の中はドウだったでしょう。

『誰も見ているものがなかったら、私は二人の前にひれ伏して、思う存分泣いて謝りたかったのです。』

 後でK氏はそう小松に告白しましたが、恐らくそれは詐りのないところであったでしょう。

 またかつて恋を語った自分の先生と、又子供の時から仲よく遊んだ肉親の妹とに、久しぶりで会った延代の胸の中は、更に一層錯雑さくざつした感情にみなぎったことでありましょう。小松はわざと少し離れて、側から一同の会合の状況を視察していましたが、彼の視線は特にこの婦人の上に注がれていました。

 それから後の話は、一切読者の想像にお任せして、ただ結果だけ報告して、この記事を結ぶことにします。

 K氏は小松に言明したとおり、その後間もなく女子教育界から退き、今では関西のさる田舎に引込んで、好きな園芸に没頭しつつ、もっぱら心霊研究に注意を怠りません。延代母子とは、小松の家で会ったきりですが、爾来じらい引きつづいて、小松を介してその生計上の世話を焼いて居ります。

 さきに恋の犠牲となって恨みなかった延代は、今度は子供の犠牲となって、少しも恨める色を見せません。

『私はこの児のめに生きて働きます。――一生涯良人などはモウ要りません。……』

 そう言って、彼女は甲斐甲斐しく大阪で裁縫の教師を勤めています。

 が、日本の心霊学界として、一番惜しかったのは政尾の早逝そうせつしたことです。彼女は二十二の春、不図ふとした病が基因もととなって、遂に現実の世界から消え失せてしまいました。

『あれ位霊媒的素質に富んだ者は、百万人に一人もないがな……。』

 小松は今でも時々そんなことを言って痛惜つうせきして居ります。


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