心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊と人生・第五巻

「人は死なぬ」(その四)

――フロレンスマリアット女史の記録から――

粕川 章子

シャワーズ嬢とその守護霊

ウィリアム・エグリントン氏の霊能

 亡姉エメリーとの再会や、地縛の悪僧の告白に力を貸した霊媒ウィリアム・エグリントンの優れた霊能に関しては、私の親しく実験した中にも尚他に記録すべきものが多い。

 エグリントン氏の守護霊の一人ジョーイというのは生前ジョー・グリマルディーという有名な道化師であった、身柄は霊媒の三分の二位しかあるまいと思われる程の小男で、常に身体にピタリと合った白い着物を被て居るので一層華奢に見えた。エグリントン氏の交霊会の時には、いつもよく働いて自分の姿を現わさぬ時にも出現せる他の霊の説明をするために声丈は絶えず出したものである。

 ラッセル街で催した交霊会上で彼は面白い現象を見せてくれた事がある。二三の霊が出現した後、キャビネットの中からあたかも十二三才の男児位の体に老人の頭を附けた様なジョーイの姿が現われた。彼は私の傍に座して丁度手鞠でも取る様な風に手を上下に振廻しながら、婦人服はうして作るのだと説明した。

 彼の手の中に一片のモスリンが出て来たが、見る見る中に彼の手の振動に連れて容積を増して行き遂には彼の頭から身体全部を蔽い尽してしまった。このこの白モスリンの山が急に宙に釣り上がったと思うとその瞬間にその大塊はおなじくエグリントン氏の守護霊であるアブダラの背高き姿と変じてしまった。

 彼斯ペルシア人であるアブダラは六尺豊かの大男で、額高に捲き附けた頭布の下から見えるその薄黒い顔に高い鼻と黒く光るその双眼、偉丈ながらスラリとしたその体格、巧者なその挙動には東洋人の特長が歴然と見えて居り、到底霊媒エグリントン氏には別人種たる事を疑わしめる余地はない。彼は英語を話せないためにいつもその頭巾や、耳や、首飾りに垂れ下って居る夥しい宝玉類を列座の人に示すとか一本しか無い自分の腕を探らせるとかの動作で親しみを見せたものである。

 やがてこのアブダラがキャビネット内に入るや、ジョーイが再び現われてキャビネットの前に垂れた幕を引き明けたそして一座の者は彼と霊媒とを同時に其処そこに見出したのである。エグリントン氏はイブニングドレッスの一糸乱れぬ服装のまま椅子上に安眠し例の白服の小男のジョーイはその膝上に跨って眠れる霊媒を優しく呼び醒しつつある処であった。

 ジョーイは又自分がエグリントンとは別人である事を証するためにかの呪われた僧から生前の恋の悲劇を見せ附けられた、ブラッグスにある姉の家で、面白い事をした事があった。

 その家は古い建物であるため寝室が皆連鎖的に連絡して居り皆がよく集まった中二階は此等これら五個の寝室の両端を繋ぐ様になっていたので、自然寝室への必然の通路という事になるのであった。

 霊媒エグリントンは第一室の椅子に座し、その部室と隣室即ち第二室の間は鍵を下してしまった。私達一同はこの時第一室から唯一の出口である中二階室に集っていた故、霊媒の出入は充分監視する事が出来た。ジョーイはず幕外に姿を現わして第一室から第二室へ鍵の下してある戸口を通って行くと宣言したがやがて第二室からその室内の模様を話す彼の声が聞えて来た、かくして彼は更に第三、第四室と進み遂に第五室から私達の座した室への戸口に来ると、各室から携え来った、一個づつの物品を一同の面前へ証拠物件として投出した。そして幕を上げて第一室内に熟眠中の霊媒の姿を見せた、其時そのときその室の後の戸口の錠はなお固く閉じたままであった。勿論むろんその鍵は私達の手にあったのである。

 千八百八十四年九月五日にクベック街にあるエグリントン氏の家で七八人の交霊会を催した。客室をカーテンで二間に仕切り会集は瓦斯ガス灯の明るい前面の室に集まり、霊媒は幕内の後室に入った。二分間と経たぬ中に幕内から一人の大男が出て来たが、誰も知らぬこの巌重な体格を待ったこの男の体からは一種の体臭を放ってた事になが気附いた。次に現われたのもこの男に酷似した女であったが、この二人が一所になって会衆の顔を不思議想ふしぎそうに眺め廻した様子は頗る愛嬌があったこの二人が消えてからしばらくすると、此度こたびは小さい瘠せた男がノソノソと大儀そうに歩き出して皆の前を歩き廻ったので、私の夫リーン大佐が握手を求めた処いきなりその手を引掴んで椅子から落ちる計りに引張った。この小男は力自慢か、此度こたびは向側に駆け出しておなじくステリート氏の手を力強く引寄せて驚かした。私が呼んで見た処、自分の処へ来たが此度こたびは引張る代りにただ強い握手をしたのみであった。この妙な男が消えるか消えぬ中に、六尺の大男アブダラが現われて、一座の人達に東洋風の挨拶をした。次いで私の霊児フロレンスが現われて二三度私の傍に来様としたが何と思ったか踵を廻らして失神状態のエグリントン氏を後に従えて連れて来た、この時氏は如何いかにも苦しげな息遣いをしていたが、私の手を隣りの人から引離し私を立上らせ娘を私の腕の中に委ねて立去った。かくして此時こたび丁度十九才に成長した私の霊児は私の腕によったまま、私の手をその胸にあてて心臓の響きを知らせるのであった。

 リーン大佐が彼女に自分の処へも来て貰いたいと云うたので彼女は行こうとしたが力足らず、再び力の補充に幕内に立戻って、霊媒を連れ来り、リーン大佐を傍に呼んで彼を抱いたが、この時灯下にフロレンスの肉体は霊媒と相並んで判然と会衆の眼に映じたのである

 フロレンスが去った後前年歿したステワート氏の姪が現われ彼に接吻を与えた、この時も霊媒は霊の姿と共にキャビネット内から歩み出て来た。このステワート氏はオーストラリヤから来た人で霊媒とは全然未知の間柄であったのである。彼は姪の姿が病気前の健康体であった事を喜んでいた。

 第七番目の霊は二才位の小児で、椅子に捉ってヨチヨチとようやく歩いていたが私がかがんで話しを仕掛け様とした時、知らぬ人達の顔を見て怯えた様に泣き出した、そして逃げ様とするのであった。急にアブダラの丈高い姿が皆の眼の前に現われて今の小児を遮った同時に霊媒エグリントンもその中間に歩み出て、交霊室内はあたかも舞台面のごとき感があった。

 どう月廿七日におなじくエグリントン氏の家で七八人の交霊会を催した会合の顔振れは私達夫妻の他は前回とは別人であった。霊の出現に先立って霊媒が何度となく会衆の霊力を集めにキャビネット内から席上に出て来たのでその日は特別な現象を見得る事を予想したのであった。そしてジョーイの声で如何なる場合においても連いだ手を解かぬ様にとの注文があった。

 やがて席上に現われたのは濃き髪と髯を有した、丈高き人であった、其人そのひとは座中の一婦人の前に進みよったその婦人は驚きの余り一時気絶もしかねまじく見えたがようやく気を取直し、その霊の名を呼んで親しげな接吻を交して皆に其人そのひとは自分の兄である由を告げた、生前の姿其侭そのままであったので、酷く心を打たれたのである。其中そのうちにクラリオネットの音が聞えて来た。一座中のウッド氏は他国から来た人でどう夜始めて逢った人であるがその兄なる人が特別の死に方をしたので、どうその会で会いたき希望を持って居る事は聞いて居た。今其処そこにクラリオネットを手にして現われた霊を見た時、私は思わず、「ウッドさん、さあ御兄様が来られました」と叫んだほど、一目で兄弟と知れるほどこの二人は酷似して居たのであった。

 この霊は直ちにウッド氏に歩み寄り、彼の手を取った霊としては稀らく頭に何も被らず、その濃い縮れた髪の毛を見せていた。彼は一度消え、二度目に現われた時ウッド氏に向い明白な句調で再度繰り返した。

「神の恩寵御身の上にあれ」

 其処そこに居合せたホイラー夫人はこのウッド氏の令兄と生前知合の間であったのでその音声は其人そのひとに疑い無いと云い、おなじく会衆の一人でオーストラリヤでどう人と親交のあったモーガン氏もこれを証言するのであった。

 ウッド氏の話によれば、氏の令兄は生前有数な音楽家であったので、その黒地に銀の象嵌を鏤めた美しいクラリオネットは彼がその卓絶した技倆によって勝ち得た賞品であるとの事、しかし不思議に思われる事は、その笛はオーストラリアのウッド氏の邸宅に大切に保管してある筈で。鍵をあけずに持出す事は不可能であったのだ。

 私のためにフロレンスも相変らず顔を一寸見せたが間もなく去ったので、私は非常に物足らず感じた時ジョーイはその日は後にる計画がある故霊力を貯えて置くのだと説明した。次に共済組合の徽章を附けた若者が現われ、一同に挨拶をした後一座中にはオーストラリアで遭った人達も居ると云うのであったが、誰もこの人を見知った者は無かった。続いて前会に見覚えのある東洋人が出て来たがその霊がカーテンの下を潜る時、今一人の女人の霊が現われてその足下を照し出すかの如く灯火を捧げて居るのが見えたこの女の姿はそれ以上前には出て来なかったがその形は一同の眼に明らかに映じたのである、私の息子フランク・マリアットは船乗で東洋の事情に通じてる処から、この霊を印度人と認めて印度語で話掛けたが低声の返辞を聞いた。一人がその霊に向って椅子に掛けよと勧めたとき彼は片手で一個の椅子を持上げ、頭上で振廻した後、床上に蹲くまったと思うと次の瞬間にはもうその姿は消えていた。

 いよいよ本舞台に入った。ジョーイは彼等の霊が如何いかにしてその形を霊媒の力で現わすかを実演して見せると云う。

 エグリントン氏は両眼を閉ぢたる失神状態のまま後部から室の中央に歩み出て来た。キャビネット内に入れ様とする力に抵抗して居るかの如く、その呼吸は非常に苦しげであった。そして其処そこにあった椅子に凭掛もたれかかってようやその身を支えて居たのである。

 白い煙草の煙の様なものが彼の左腰辺に見えたと思うと、二三の光りの塊が現われて彼の脚部を上下しその両足を照し始めた。其中そのうちその白い雲の様なものは彼の頭上と肩上に集まり、だんだんとその容積を増して行くに従って彼の呼吸困難の度が増し行く様に見えたが、此時このとき人の手の形が現われて彼の腰から白い煙様のものを長い条の如くに引き出しては一所に集めて居たのが、遂に大塊となり濃密さも加わったかの如くで、一同脇目も触らず注視して居たのである。

 ハッと思った一瞬間にその白雲団は消散して、後には一人の霊がその全形を現わして霊媒と相並んで立って居たのである。衆人環視の間に、その中央に何時何処より来たとも知れず、その霊の姿は其処そこに生じた。

 この時霊媒エグリントンはの霊体を随えてキャビネット内に入ったが、直ぐに幕外に投げ出されて皆の前に倒れた、すると幕がサッと明いてアーネストという同じエ氏の守護霊が歩み出し、霊媒の体を抱き起し、再び幕内に連れて行った。

 この交霊会はれで終ったがエ氏の守護霊は数人あってこのアーネストの業であるか、又は今一人のデーゼーと呼ぶアメリカ土人の女の霊のする事であるか、其処そこは判然としないが、どう氏は又霊書に勝れた力を持て居ったので、或時私はこんな試験をして見た。

 彼には何にも相談をせずに、私はある部厚な本を撰び、その頁の間に私の名札を挿入して、その本を彼の前に差出した、彼はその手を本の上に戴せていた私の手の上に重ねたのみである、周囲には家族の者達が見物をしていた。

 エグリントン氏の額から汗が浸み出して頬を伝って流れたが、平時と異った事は其丈それだけなので、私達は実の処何事も期待しなかったがややあってその名剌を書物の間から振り落して見ると驚くべし、その紙上には立派に霊児フロレンスからの通信が記されて居たのである、その文句は、

 「愛する御母様! 私が此処ここに居る事を今又御知らせする事が出来るのをほんとに嬉しく思います、けれどもこの通信は私が自分で書いたのではなく、此処ここに一緒に居るチャリーに頼みました、未だ他にも大勢集まって居ますが、皆から御母様によろしく、フロレンスより」

 氏のスレートライテングも定評のあるものであったが、前にも一寸記した事のある、その皮膚上に文字を現わす霊能も特記すべきものであろう。

 ある夕、エ氏が自分の家へ食事に来た時、私は食卓で彼と相対座して食事中、心密かに彼の守護霊のジョーイに向って彼の身体の手の届かぬる個所に何か書いてれる事は出来ぬかと頼んだものである。これは霊書を特種の化学的手段による詐偽だと主張する人達への立証が欲しかったので、私はこんな事を考えて見た、そして出来るなればその結果を得たいと願うた。

 間もなくエグリントン氏は食事を止めてしまい、酷く不快な表情をして居たが、その訳を問うてもただ赤面して口籠クチゴモる計りで一向要領を得ないのであった。そして遂に食事半ばに席を離れ寝室に引籠ってしまった。

 翌朝彼の説明によると、其時そのとき急に彼の背中があたかも発疹でも出来たかの様に無性に痒くなって来たので堪えられなくなったため中座したとの事で、寝室で裸体になって鏡に映した処、何か文字が現われて居たが丁度その日は私の家内中女ばかりであったので、呼んで見て貰う人も無く其侭そのままになってしまったとの事であった。私の心中の願いはジョーイに伝わって彼をこんな目に逢わしたのである。

 エグリントン氏の周囲に起る心霊現象の一として今一つ特筆すべき事がある。それは彼の身体が浮揚する事で、の現象は彼の交霊会では屡々しばしば目撃したが、彼の身体が急に空中に釣り上げられて、頭が天井に届きその足が椅子にかけて居る人々の頭上に来た事は度々あった。勿論むろん室内で一つの場所から他の場所へと歩く事なしに空間を運ばれて行く事は普通の出来事であったなお珍らしい現象の一つとして、霊の出現中その霊の姓名等が屡々しばしば火の如く光る文字で前面の空間に現われグルグルと回転する事があった。彼は又霊言能力にも凡ならざるものがあり、パリーで交霊会を催した際、通訳者の必要があるかと思い自分も仝伴どうはんした事があったが其時そのときなどは四十人ほどの会衆の中一人も英語を話す人はない彼自身は他国語を一切知らぬため、頗るその結果を気遣ったものであるが、実際はこれに反し、会上に於ける彼は仏語でも独語でもその場合に応じて出現し来る霊の国語を自由に繰り会衆のすべてに大満足を与えたのであった。

 


シャワーズ嬢と其守護霊

目  次

これでも信じられぬか


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第五巻第七号

発行: 1927(昭和3)年7月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 訳者・粕川章子氏の著作権は残存していますが、当サイトは御遺族の許可を得て公開しています。

※ 入力:いさお      2009年1月24日

※ 公開:新かな版    2009年6月28日


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