心霊読本

第三篇 心霊現象の体験事実

十三、本吉氏の霊視能力その他

 本吉嶺山氏は霊視能力者として、従来なり卓越した技術を有っていましたが、近来は物理的能力を発揮して、学術的研究の資料を提供するに至り、の能力は益々発達して行きつつあります。

 本吉氏の背後に在って、その心霊的活動の総指揮役となって居る司配霊しはいれいは、号を天空と呼び、およそ百年前に歿ぼっせる武人朝倉某なるものであるといいます。の人は生前なりの修業を積んでいたらしく、晩年を堂守に送ったというから、その心境の程も略々ほぼうかがい知ることが出来ます。

 の天空霊は氏が四歳の時から連絡があったということで、本吉氏の語るところによれば、氏が小学校時代に眼に見えぬものが見えた記憶があるということですから、の時代から既に今日の素地が作られていたやう考えられます。が、の霊媒的能力を発揮するに至ったのは、往年俄然がぜん無意識状態に陥った時を、の発端と見てよいようであります。

 本吉氏は先年まで千葉県大原の海岸に住んで居たが、の頃土地の漁業に従事する人々の請うがままに、海中を霊視して魚介の状態を調査し、同時に自動書記能力により、漁業に関する適切な指導を受信し、彼等に多大の援助を与えつつあったのみならず、人体の内部を透視し、病気診断等にも相応の功績を挙げ得たのでありました。後東京心霊科学協会の実験に応ずるようになってから他の司配霊しはいれいも参加するに至り、霊的通信が一層容易になって来た次第です。

 霊視をする人は、の時肉眼を塞ぎ、精神統一状態に入るのを普通としますが、本吉氏にはそんな面倒な工作は不必要らしく、眼の調子が少し変って来たなと思わるる瞬間には、既に霊視状態となって居るのであります。但し霊視なるものは主観に属するところから、客観的物理現象などに比すれば、うたがいの眼をもって見らるる恐れが多分に存することを免れないのであります。要するに本吉氏の本領は北村氏の場合と同じく、霊的調査の方面に存するのですが、ごく最近にありて物理現象に一種独特の技能を発揮することになりました。『これからゼニイルという印度霊が本吉の体を使うことになるから、そのうち何か不思議な事がおこるかも知れない……。』――そう本吉氏の司配霊しはいれいが私に予告したのは昭和九年の春頃のことでした。すると同年の十二月頃になりて、にわかに本吉氏の身辺に物品引寄の現象が続発するようになりました。いずれも偶発性のもので、本吉氏が座談でもしている時に、急に入神状態になり、その瞬間に椅子、火鉢、石塊、虫眼鏡、額面などが一室から他室へ引寄せられ、時とすれば東京の心霊相談所と本吉氏の沼津の住宅との間に、品物の長距離移動が行わるるのでした。

 昭和十年四月八日の午後三時頃に起った仏像引寄現象などは、その最も代表的な一例であります。その時心霊相談所階下の六畳には、私の外に二人の婦人が居合わせて雑談していると、たまたま本吉氏が外から右の六畳に入って来た。そして火鉢の前に座を占めて、一分間も経つか経たない中に、本吉氏の首が急に硬直し出した。本吉氏自身も最初は変だな、と思っていたそうですが、そのうちすっかり入神して無意識状態に陥りました。遠距離の仏像引寄が行われたのは、実にこの短時間の入神中でした。本吉氏の司配霊しはいれい(天空)はすぐその場で私に報告するのでした。

『今日は本吉がボンヤリ火鉢の前へ坐ったところを掴えてうまく行った……。今引寄せたのは本吉の沼津の自宅の二階床間に安置してある仏像で、すでにここの二階八畳の真中まんなかに来ている……。』

 早速二階へ行ってしらべて見ると、八畳の神床の正面に据えてある小机の中央に、はたして一個の釈迦像――高さ四寸五分、重さ九十一匁――が行儀よく立っていました。

 われわれは念のめに早速沼津の本吉氏宅に電話をかけました。留守居の女中が電話口ヘ出たので、わざと物品引寄の件には触れず、二階の床間の仏像の有無をしらべさせました。すると一二分の後に女中から、いくらしらべても仏像は見当らないとの報告がありました。

 又、本吉氏の縄抜き、襦袢じゅばん抜き現象は昭和十年九月十九日東京心霊科学協会の座談会に於ける実験の結果、いよいよ大成を公認してよい事になりました。私自身手を下して二丈余の木綿繩で、本吉氏を緊縛して封印を施し、二十余名の会員がかわるがわるこれを点検しました。右が終ると本吉氏を蚊帳式の暗室に入れて電灯を消し、縄の末端を会員の一人が握っていた。消灯後約五秒で蚊帳の内部で本吉氏の倒れる気配を感じ、つづいて司配霊しはいれいからの合図があったので蚊帳をめくり、電灯を点けて見ると、本吉氏は緊縛されたまま深き入神状態において畳の上に樅臥して居り、そしてその右側後方に白木綿の肌襦袢が脱ぎ棄てられて居ました。

 一同点検後、今度は繩抜けの実験にかかりましたが、これも約一分間で首尾よく成功しました。後で司配霊しはいれいの報告する所によると、縄が抜けたのは本吉氏が蚊帳の内部に入ったとほとんど同時で、決してこれに一分間を要したのではない。あれはただ合図が遅れた丈であるとの事でした。

 の他本吉氏の物理的現象は、記せば数限りなくありますが、最近遂に生物にも働きかけるに至ったことは一大進歩ということが出来ましょう。それは同氏が岡田氏方に滞在中起ったことで、『心霊と人生』第十四巻四月号の記すところを左に転載します。

 本月二十日自分の娘が学校にて写生すべく三寸程の生きた鮒を求め、これをバケツに容れて湯殿の土間におき、就寝の際念のこれを覗いた処、夕刻まで溌溂として元気よくおよいで居た鮒の姿が見えない。ソコで室内を総動員して彼所このあちこちと探索したが遂に見当らないので、その夜は疑問の侭に過ごしたのである。翌朝本吉氏が浴後休息して居られたる際、鮒の行方不明の事柄を話したところ、同氏はそんな筈は無い、現に湯殿に居るとの言に、これは不思議と一同湯殿に駈つけて見れば、成程なるほど鮒はたしかに金盥かなだらいの中に平気で游いでいる。しかもその金盥かなだらいは家人が朝来使用したもので、無論鮒などの居るべき筈がない。それには何か霊的工作がありはせぬかと思われたので本吉氏に訊くと、今朝入浴の際、浴槽に手をかけたる瞬間、にわかにグラグラと眩せし由、多分同氏の霊気使用の必要ありて急激に作用せられしためではあるまいかと思われた。

 其後そのご本吉氏の入神状態にありし時、出現せられた元龍霊神にこのこのことについて訊ねてみると、左の通り報告があった。

『鮒がバケツを飛出し、タタキの上をあちこちと転々わりいるうち、放水口の狭き穴から滑り落ち、種々の径路を経て遂に道路に深く埋設せる大下水管に接続する土管中に達し、将にその下水管に落込まんとして居たのは、翌朝の七時頃であった、これを発見したる霊はの侭にしておけば、鮒は間もなく死亡する外なきを以て、これを救援してやらんと例のゼネール氏と相談の結果、即時眷属をしてこれを実行せしむることとなし、れを気化して、土管と、の上層にある厚さ数尺の土砂を透過し、便所の窓より室内に入り、転じて浴場入口の硝子戸の細き隙間を潜り湯殿の中で原体へ復した。』

 以上は岡田氏の筆によるものですが、なお本吉氏は『眩暈めまいが止んだ時、ふと浴槽の中で泳いで居る鮒を見つけたので、すくい上げて金盥かなだらいに入れた』ともいうて居ります。湯の中で三寸余りの小魚が長く生きて居られる筈はないから、これ丈でも一つの不思議として研究する必要がありましょう。

 物理的方面の心霊現象に対する同氏の能力は、今後益々多方面にして強力となり、単に偶発的のもののみでなく、提供する実験にも応じ得るようになるだろうと期待されつつあります。


第三篇(十二)

目  次

第三篇(十四)


心霊図書館: 連絡先