心霊読本

第三篇 心霊現象の体験事実

二、私が養成した最初の霊視能力者

 右の事件から約半歳の後には、私の心霊熱はすでに最高調に達して居り、自身指導者となりて、しきりに精神統一の実修に没頭して居ましたが、大正五年の四月、T夫人に霊視現象が起りました。爾来じらいここに二十年、T夫人の霊視能力は今にいたるも依然として継続し、あるいは遠距離偵察に、あるいは守護霊司配霊しはいれいの調査に、あるいは他界の居住者との交渉に、間断なく私の調査研究に多大の便宜を与えて居ります。兎に角これが私が親しく養成した透視能力の皮切りであるから、当時の記録の一部を紹介して、御参考に供することにしましょう。――

 T夫人の霊視の開ける初期は、他の何人の場合にも然るが如く、ずその閉ぢたる眼の中に、痛いほど鮮かな紅、紫、青などの色が見え出し、やがてこれに引きつづきて、いろいろの現象が起って来たのであった。世人は千里眼だの、透視だのと言って騒いで居るが、私の実験する所によれば、霊視の活用範囲は、そんな狭いものでなく、必要に応じて千変万化の作用を発揮するものらしい……。兎に角千里眼ということが、一番よく人口に膾炙かいしゃしているので、私がT夫人に対して最初に試みたのも、矢張りこの千里眼式のものであった。私が最も疑問としたのは、それがどの程度まで真実性をっているかという点で、事によると、統一中に眼裡に映ずるものが、単なる幻錯覚ではないかということを何より懸念した。そこでいろいろ考えた末に、私の方では知っているが、彼女の方では知らぬ場所を選び、幾回となく試験をして見たのであるが、いくら試みても彼女の霊視に一つも間違のないことを発見した。但し一回の入神中に成功する数には限りがあって、せいぜい五件位しか見えない。これは背後の守護霊が疲れるのか、それとも肉体がそうは続かぬのか、兎に角一度に無尽蔵に出来るものではない。

 私は時斯んな実験も試みた。即ち友人のK氏と打合わせの上で、毎夕午後八時を期し、一週間にわたりて、氏の東京本郷区西片町十番地の住宅の光景を見せたのである。ある時はK氏自身が書斎で読書している。ある時はK氏の夫人が長火鉢の側に坐って裁縫をしている。又ある時は洋服の来客がある、と言った風に、K氏の家の内部が手に取るように彼女の閉じたる眼裡に出現した。一週後、K氏の覚書と引合わせて見たが、寸分の誤差もなかった。東京横須賀間はたった四十マイルで、そんなものは千里眼の実験にならんと言う人もあるか知れぬが、そうは言わさぬ。私は次第に距離を延長して、これを台湾に試み、浦塩ウラジオに試み、更に欧羅巴ヨーロッパにも試み、当時激戦中であったヴエルダンの要塞攻撃の実況などは、手に取るように毎日見せた……。

 かく一方に千里眼式の実験をやっていると共に、私はる晩不図ふと思いついて透視の実験をやった。私の書斎には津軽塗の巻莨筥たばこいれがあった。中には客用の巻莨たばこが入っているが、使い残しが何本あるかは自分も知らず、彼女も知らない。私はこれが良い試験材料であると思い、蓋をしたままくだん巻莨筥たばこいれを統一中の彼女の前に突きつけた。

『何本入っているか、巻莨たばこの数を見てもらいます。』

 五六分過ぎて、もう大概たいがいかろうと思ったので、統一を中止してたずねると、彼女は不審そうに、しきりに首を傾けている。

はこの中が見えましたか?』

んだかへんでしたよ。私の眼には白木の小筥こばこが視えました。形はその巻莨筥たばこいれにそっくりですが木理もくめがはっきり見えるのです……。』

木理もくめがはっきり……、そして内部なかは見えないのか?』

ふたがしてあって内部なかは見えませんでした。』

 私は初めて彼女の霊視能力が、塗ってあるうるしを突き抜けた丈で、木筥きばこを透視する力がなかったことに気がついた。

『統一を中止したのが少し早過ぎたらしい。もう一度やり直し!』

 私は直ちに統一のやり直しを命じ、今度は念入りに、約三十分間もそれをつづけた。済んでからたずねると、彼女は言った。

『今度は内部なかがよく見えました。十七本でございます。』

 急いでふたって勘定して見ると、はたして十七本の敷島が入っていた。

 まだT夫人に関する記録は沢山ありますが、この辺で割愛するとしましょう。兎に角これは私の家庭において、私自身が指導者として、初めて養成し得た能力者であるから、すくなくとも私に取りては永久に忘るることのできない、はなはだ意義深き事柄であり、私が周囲の毀誉褒貶きよほうへんを無視して、心霊問題と心中しんじゅうする覚悟をめたのも、こんな事が有力なる素因を為して居ります。何と言っても血のにじみ出るような体験ほど各自の一生を司配しはいする、力強き原動力はありません。心霊事実と理論とに反対の態度を執る人達は、畢竟ひっきょう何等心霊上の体験のない人に限るようであります。私どもがあくまでも力点を心霊実験と、精神統一の実修とに置く所以であります。


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