心霊問題の表と裏

マアガリィ霊媒問題

一、心霊現象に対する懸賞

 本誌の前々身『心霊研究』の海外消息欄に報告して置いた通り、かの有名なる米国科学雑誌『サイエンティフィック・アメリカン』社が、時代の趨向すうこうかんがみ、幽霊写真、並に物理的性質の心霊現象に対して、各々二千五百ドルづつの懸賞を提供したのは一昨年のことでした。その提出条件は左の通りです。――

提出条件の大要

一、規定の条件で幽霊写真を作成し得た最初の人に、懸賞金二千五百ドルを贈呈します。

二、規定の条件で、物理的性質の心霊現象を具体的に示し得たる最初の人に、懸賞金二千五百ドルを贈呈します。

三、審査委員はマクドゥガル、カムストック、プリンス、カアリンクトン及びフージーニの五氏です。此等これらの人達の中で差支が生ずれば、適当な代理者を選出します。懸賞金は五人一致、又は四対一の場合に限る。三対二の場合には贈呈しません。

四、申込期限は、一九二四年(大正十三年)十二月三十一日までの事。申込は秘書バアド氏に宛てられたし。

五、霊媒は、一人で賞金の一つ、又は二つを得ることができますが、一つの現象で、両方の賞金を受くることはきません。

六、実験は原則として、絶対暗黒裡にては行わぬことにしてあります。

 右の条件の第二条『物理的性質の心霊現象』と申しますのは、心霊作用が、ある物体の上に及ぼす現象、――例えば純霊力で卓子テーブルを浮揚せしめるとか、呼鈴ベルを鳴らすとか、物品を引寄せるとか云った現象を指すのであります。心霊作用、並に霊魂の存在を、科学的に証明するのには、これが一番精確味を有ってりますので、欧米の心霊学界では、従来この方面に努力を払いつつあります。次に第三条の五人の委員――くわしい事は後で又述べますが、マクドゥガル博士は、御承知のとおり、ハアヴアド大学の心理学教授で、『肉体と精神』その他沢山の著書で有名な学者であります。カムストック博士は、マサチュセッツ学院の物理学講師、ブリンス博士は米国心霊研究協会の審査官リサアチ・オフィサアで、専門の心霊学者、カアリングトン博士も同じく心霊学者で、ロンドン心霊研究協会に属し、霊媒ユーサピア女史の霊能を、天下に紹介したので有名であり、又さかんに心霊学上の著書を刊行してります。それからフージニ氏は、ずっと毛色が変って、これは有名な奇術師であります。何等かの手品でもあれば、早速看破しようというつもりで、この人を加えたらしいが、後になって見ると、その人格が劣等で、一番悶着の種を蒔き、ブチコワシをしてります。又秘書のバアド氏も、同じく専門の心霊学者で、米国心霊研究協会の審査官です。

『サイエンティフィック・アメリカン』誌が、右の懸賞を公表した時には、賛否両様の講論がまちまちで、なりの酷評や、皮肉も現われましたが、多くの言説の中で、コナン・ドイル氏が同誌に寄せた一文などは情理兼ねそなわり、ある程度までその結果をも予想した卓見に富んでいますから、左にその要点を摘出することに致します。――

『貴誌は極めて危険な仕事を敢行しました。多額の懸賞金は、国内のあらゆるナラズモノを挑発しますが、これに反して、善良なる霊媒は超世間的であって、金銭をもっこれを釣り寄せることはきませぬ。し貴誌が心霊運動の主唱者達の後援と、裏書とを得さえすれば、霊媒達は斯学しがくの為め、並に自己の名誉の為めに奮起するでしょうが、左もなければ、彼等は貴誌を忌避するでしょう。何となれば所謂いわゆる試験なるものは、屡 々しばしば念入りの陥穽かんせいたるを免れないからである。

『貴誌が賞金として提供した金額は、むしろこれを米国各地、ロンドン、グラスゴー、パリイ等への出張費として使用されたら、一層有効であったと愚考します。実際それ丈の労を執った上でなければ、貴誌は試験報告を発表する資格はありますまい。何となれば貴誌は、われわれ心霊研究者が有すると同様の経験を有たねばなりませぬから……。

『試験の成否の秘訣は一に人次第です。大体において述ぶれば、発信者と受信者との調子が、ピタリと合うことが肝要です。我我の間に同情、親切、儀礼等がなければとても駄目です。猫が鼠を狙うような監視的態度では、到底見るべき心霊現象に接し得る見込はありません。

『ある場合には、単なる同情以上の、深いるものを必要とすることがあります。私はある一人の有名な心霊学者を熟知していますが、この人がれば、あらゆる心霊現象は中止してしまいます。ドウも独断的、攻撃的典型の人物に、この禁厭きんよう現象が伴うようです。この種の人の中から、往々審査官が現われます。かるが故に、しも貴誌が真に真理を求むるに忠実ならば、是非ぜひとも穏和で、叮嚀ていねいで,そして同情に富んだ人を選び出すことが必要です。

ただしいかに正直で、同情心に富んでいたとて、もし彼が信頼すべき、二三の心霊学者を相談相手として疑惑を解き、又説明を受くるにあらざる限り、飛んだ誤謬ごびゅうに陥らぬとも限りませぬ。ここに一の実例を挙げます。私はある時、心霊知識の絶無なる一人の記者を、ジョンソン夫人の交霊会に伴いました。ジョンソン夫人は、霊言のできる有名な霊媒です。いよいよ言葉くちが切れ出した時に、記者はその声の中に、霊媒自身の音声が混入せるを認め、大騒ぎをはじめ、右の実験会を滅茶滅茶にしてしまいました。その記者というのはヤング君であります。この騒動は、全然同人の無知識から起っています。経験ある心霊学者なら、霊言の初期においては、しばしば霊媒自身の音声が流人することを、百も承知してります。少し忍耐して発展を待てば、やがて音声は漸次ぜんじ変化し,同時にその内容も、霊媒の知識以上のものとなります。

『これに連関して、私は心霊現象を調査さるる人が、是非ぜひとも斯学しがくの権威ある著書を精読さるることを勧告します。例えばクルックス博士の諸書、クローフォド博士の『心霊的組立法サイキック・ストラクチューアス』、シレンク・ノッチン男爵の 『霊の物質化マテリアリゼーション』、トウィーデル氏の『人間の永生ヒーマン・サバイバル』等であります。審査官は自称魔術者や、心霊家よりはむしろ手腕あり、忍耐ある公平無私の事務家である事が適当と思います。

『私は貴誌の成功を祈りますが、その終局の結果につきては、すこしも幻想的楽観を抱きません。一八六九年の「ロンドン・ダィアレクティカル・ソサィティ」会員の数は約八十名許りで、皆公平無私の人達でした。同会委員会の物理的現象に対する報告は、衆口一致良好でした。これが今より五十年前の出来事であります。一八九〇年代に、パリイで催した局外者の実験会もまた同様で、ベルグソン氏もその一人でした。当時にくらぶれば、今日は先人的僻見へきけんの分量が余ほど減少していますが、まだまだすこぶる強烈であります。何ぞ余ほど優れたる新生面を打開し得るにあらざれば、到底一般世間を承服せしむることは不可能と存じます。

『最後に私は、大金の懸賞の不可をここに繰りかえします。それは二様に悪く働きます。何となれば、それは一方において悪霊媒を引きつけ、善霊媒を駆逐するのみならず、他方において審査官をして絶対公平を失わせしむる虞があるからです。これを承認すれば発起人は、これこれの金額を失うのだと思うと、自然審査に気が引けます。』

 不幸にしてドイル氏の推測はほぼその通りになってしまいました。


マアガリィ霊媒問題

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二、クランドン夫人の応募


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