心霊図書館 >> 心霊文庫第19篇

諸名家の心霊観(下)

オリバー・ロッジ卿と語る(その一)

ロバート・ジェームス・リー(Robert James Lees)著


「ツー・ウアルズ」誌の名流訪問記者リイ氏が、第二に白羽の矢を立てたのは、ロッジ博士であった。一問一答の間に、この学界の長老が、心霊問題につきて、不用意に漏らす意見は、却って堅苦しいものよりも、興味深いものがある。――記者。

 ロッジ博士は、たまたま彼のロンドンの仮寓に滞在中だった。博士は『英国心霊協会』の記念祭に参列して、講演を試みるべく、今回わざわざ上京されたばかりの所であった。

 自然われわれの頭脳は心霊問題の研究、又心霊研究が、生死の神秘に対して投ぐる光明、と言ったような事柄が充実し切って居ました。

 私は沢山の質問を用意して居りました。私の放てる第一質問は、大体左の如きものであった。――

『物質的存在とは如何いかん、又物質と精神との関係如何いかん。これにつきて貴下の現在の御意見を承りたい。』

ロ博士。『われわれ人間が、永遠に生きるものとすれば、この地上生活は、全体の生命の中の、よくよく短かい一場面に過ぎません。事実人間が物質と結合して居るというのは、何という不思議なめぐり合わせでしょうナ。われわれが肉体を取扱うのは、丁度彫刻家が石材を取扱うのに類似している。自分の考えをもってこれに強圧を加え、いろいろの細工を施さねばならない。要するにわれわれは、自分の使用する材料に対して、努力を費す必要がある。単に心に考えた丈で、物質は自分の思う通りの形態を執るものでない。不断の努力――これがドウも人間の地上生活の目的らしい。それから又われわれの肉体は、絶えずわれわれを、下へ下へと堕落させようとする。肉体の統制は実に六ヶ敷むずかしい。肉体の調子が少しでもくるった時には、種々の複雑な手術をも施してやらねばなりません。肉体はわれわれの一部ではなく、単にわれわれの使用する機械の一部に過ぎない。すでに機械であるから、兎角壊れ易い……。が、機械としては、肉体ほど驚くべき機械も滅多にない。実に複雑微妙に出来ている。人間は何も知らずに使っているから良いようなものの、若しもこの機械の全装置が判ったら、とても怖くて使用し切れないでしょう。すくなくとも運動競技のような、乱暴な真似はできますまいナ……。所で爰に注意を要することはどんな単純な仕事をする時でも人間は直接物質に働きかけることが絶対にないことです。いかなる二つの物質でも、決して真に接触することはない。若しも接触すれば、直ちに合体してしまう。二つの物の中間には、常に空間が存在します。しかし二つの物の間に交渉が起ることもまた事実である。それは何故か? つまり中間にエーテルのク ッションが介在し、これを通じて働きが起るのです。私の観る所によれば、人間が物質に働きかけるのも、常にエーテルという媒体を必要とするものと思う。われわれの精神は、物質よりもむしろエーテルと不断の交渉を有っている。かるがゆえに、われわれ人間が、物質的肉体を失ったとしても、その損害はさまで重大であるとは思えない。肉体がないので、却って自由にさえも感ずる。最末端に重い物を懸けて置いて、それを動かすのは容易でないが。地上の生活は丁度それに似ている。ところが死ぬ彼岸の生活にありては、エーテル体をもってエーテルに働きかけるのだから、どんなに仕事が楽に運ぶか知れない……。』

問。『エーテルもエーテル体も、共に純然たる仮説だと存じますが……。』

ロ博士『無論それは仮説には相違ないが、しかし頗る有力なる仮説であります。エーテルなしには、われわれの思索は一歩も進めません。さればアインスタインも、これを受け容れようとし、エディングトンもまた同様です。哲理的には、エーテルは絶対に必要であると、現にエディングトンが言明しました。』

問。『物質並に物質的存在に対する御高見は、非常に興味深いものと痛感します。ところで博士、私はここに一つ折入って御高見を伺いたいのですが、他界の居住者、……精神的に非常な発達を遂げた他界の居住者の中に、地上生活と全然没交渉なものが居るものでしょうか、それとも居ないものでしょうか?』

ロ博士。『私は空間のすべての存在が、地球上に降りて肉体をつものとは考えません。われわれの所謂いわゆる天使と称する存在、あれは必ずしも肉体を持って地上に生れる必要はないと思う。御承知の通りこの地球は、天空内の極めて微小なる遊星であります。しかも生物の発生に適当な遊星は、ソウ沢山もないのであるから、われわれの地上生活は、相当重要な一経験、相当面白い一挿話と認めねばならない。で、われわれとしては、極度にこの経験を有意義に使用せねばならない。われわれの前途に、二度と再びんな機会は到来せぬかも知れない。一部の人士は再生説を唱えますが、私としてはこれに就きては、しばらく白紙の態度を持しますが、兎に角われわれが、かく物質と結合することになった以上、われわれは極度にこれを善用し、夢にもこの経験をば、人為的に切りつめたりしてはならないと信じます。他殺が罪悪であると同様に自殺もたしかに罪悪であると思います。――イヤ話頭が少々別の方へ飛びました。あなたの御質問の件に戻りますが、前申したとおり、すべての霊が物質に宿るものとは、私にはドウあっても考えられない。かの死産の場合などは、る霊が物質に結びつこうとして、ついにそれが不成功に終ったものと考えられます。』

問。『人間は老境に対すると、普通過去の業績の回顧にふけりたがるものですが、あなたはいかがでございますか。』

ロ博士。『イヤ人間は生を地上にけて居る間、現世の業務に専心従事すべきだと思います。就中なかんづく肝要な事は、現世に居る時に、成るべく余計学ぶことである。老年に達したからと言って、学習を中止する必要はどこにもない。人はその知識を、死の彼岸まで携えて行きます。現世で達し得た一切の能力は、そのままで永久に続きます。無論死後まで携えて行けるのは、汝自身の一部となれる本当の能力丈で、一切の物質的添加物は後へ遺して行きます。』

問。『もちろんあなたは、物質的財宝のめに、物質的財宝を蓄積せよとは、何人にも奨励はされないでしょうナ?』

ロ博士。『もちろんです。地上の物質を蓄積することは、永遠の用途には立ちません。経験、記憶、親切――此等これらのものは、どんなに蓄えても運び切れないという心配はありません。が、物質的のものは、一つ残らず皆地上に置いて行きます。そんなものはただ現世だけのものです。』

問。『仮りに今あなたの御意見通りに、霊界の存在が、一般科学界に承認されることになったとしたら、その一事は、現代人の人生観の上に、大影響を及ぼずことになるでしょうナ?』

ロ博士。『無論です。霊界というものは、自分の周囲を取り巻いて居るのだが、ただ人間の感覚の不完全なるがめに、かけ離れて居るに過ぎないという事実が、はっきりと理解されることになったら、それこそ驚くべき人類の大進歩であります。地上生活の顕著なる一特色は、われわれが自分の身辺の事物に気づかずに住んで居ることです。われわれの五感は、単に物質的事物を感識し得るにとどまり、その結果、はなはだ不完全な人生観をいだちである。それが全部誤謬ごびゅうというのではないが、しかしはなはだ不完全である。物質的存在がすべてであると想像することは、あまりにも幼稚な幻覚である。』

問。『スピリチュアリズムに対する、あなたの立場に関して、いろいろの人達が、いろいろの意見を述べて居りますが、あなたは矢張り、科学的研究者という立場に居られるのでしょうか?』

ロ博士。『左様、私は心霊研究をば宗教とは考えない、あくまでもこれを科学的研究題目として取扱いますが、しかしスピリチュアリズムの開拓者達のる業績に対しては、衷心ちゅうしんから讃嘆さんたんの意を表して居り、多くの点において、私も同一結論に到達して居ります。無論研究家として、感情的要素を加えることは大々的禁物で、私としては、ただ事実の正確を期する丈である。すべて物には多くの方面があり、一概に一方を挙げ、一方を抑える訳には行かない。私としては、科学的方面の開拓が、自分の職責であると主張するにとどまります。物理的現象を取扱うに当って何より大切なことは、人間の力で、どこまでその解釈ができるかということである。われわれは軽々にこれを外来の霊の働きに帰してはならない。異常現象は、時として人間の能力の拡張の結果として起ることもあり得る。われわれは現在すでに霊であるただそれが肉体の中に宿って居る丈である。従ってわれわれが生時において、どれ丈の仕事ができ、又死後においてどれ丈の仕事ができるかということは、充分の研究の結果を待たねばならない。矢鱈に一足飛びの結論を下してはならない。その点が私と一部の神霊論者との相違する所であります。神霊論者の中には、手続きも何もしらべずに、ただ漫然と、一切を他界の居住者の仕業に帰せんとするものを見受けるが、私から観れば、霊というものが人間のようにソウ容易に物質の上に働きかけることができるとは思えない。この肉体を持って居るお蔭で、物質上の仕事をすに便宜を与えられる点がたしかである。』

問。『しかし博士、あなたの研究の結果、死後の生命の存在は、立派に掴まれたように思いますが……。』

ロ博士。『私はある一つの霊の世界が存在すること、そしてわれわれも、またその一部であることを信じて疑いませぬ。しかも超物質世界との間には、密接不離の関係があります。これはどの点からしらべても寸毫すんごうの疑義を挿む余地はありませぬ。』

 

 会見は四十五分間にわたり、その間サー・オリバーは、終生を通じての心霊研究の蘊蓄うんちくを傾けて、快く物語ってれました。前記の問答は、大体私の手帳に書きとめたところでありますが、この若くて老いたる学界の耆宿の人格から滲み出る磁力と言ったものは、到底ひややかなる文字に写すべくもありません。今やサー・オリバーの思想は、全国の説教壇上において引用され、又その科学場裡の業績は、ほとんど学界のあらゆる方面に行きわたり、全然独自的に、精神的革命を成し就げたと言うべきであります。が、この偉人の功勲が本当に判るのは、恐らく今後の事柄で、今日の所では、一般世人は、まだ充分にその足跡に伴ない得ざるうらみがないでもありません。(昭和七、十一)


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