心霊図書館 >> 心霊文庫第17篇 >>  憑依と自殺の実例 その二

『死者に交わる三十年』

憑依と自殺の実例 その二

一、地縛の霊魂

 前章に引続きて、憑依霊と自殺に関する新実例を紹介します。例によりて、ウィックランド医学博士、並に同夫人の数ある実験の中から、適当と信ぜられるものを選びますが、御承知の通り、同夫人は地縛の亡霊かからせるに、誠に誂向あつらえむきの好霊媒で、自由自在に、現幽両界の連鎖を講ずる手腕は、ほとんど前代未聞と言って差支さしつかえないと存じます。憑霊現象の実地を知らぬものは、ちょっと腑に落ちかねる虞があるかも知れませんが、その理論は一度腑に落ちれば、比較的簡単であります。ね申上げます通り、霊媒は一の生きたる器械であります。ただ生きて呼吸して居る丈で、多くの場合において無意識であり、当人の個性は、可及的かきゅうてき混入せぬをもって原則とします。そうして置いて、この生きた器械を、当人と全然無関係の、他の霊魂に貸すのでありますから、その人の人格とは、全然ちがった別人格が現われて、あるいは言葉をきき、あるいは文字を書きます。心理学者は、その別人格の処置解釈に困り、苦しまぎれに潜在意識説だの、暗示説だのを提唱します。幼稚劣弱な霊媒の場合においては、潜在意識説位で、曲りなりにも説明がつきますが、ウィックランド夫人見たいな、優秀的確な霊媒になりますと、死者の霊魂の個性が歴々れきれきとして現われ、いくらでも動きの取れぬ証拠を挙げますから、潜在意識説や、暗示説では、到底説明がつかぬ事になって来たのであります。潜在意識説も、暗示説も、過去の詐術さじゅつたッぷりの似而非えせ霊媒を撲滅ぼくめつ掃蕩そうとうするのには、大なる効果がありました。イヤ日本のいかがわしい霊媒現象に対しては、現在でもまだすこぶる有効な武器であるかも知れません。しかし時代は急速に進展しつつあります。現在の世界の心霊学は、そんなものでおさえつけられるには、余りに長足の進歩を遂げてしまいました。いつまでも弓矢や竹槍で戦争はできません。今頃いまごろお真面目くさりて暗示説やら、潜在意識説やら一点張りで騒いでいる連中を見ると、他人事ながら冷々ひやひやいたします。

 前にも申上げた通り、ウィックランド夫人にかかって来る霊魂は、そのほとんど全部が地縛の亡霊でありますが、この種の霊魂に就きては、読者の方で、ある程度の理解をつことが肝要であります。『死』は決して罪深き者を聖者にするものでもなく、又賢者を愚物にするものでもありません。死者の精神状態は、生前から引続いて、その希望、習慣、意思、僻見へきけん、迷信等を持ち越しているのが多数であります。生きている人間は、死を恐るること蛇蝎だかつの如く、つそれに神秘的色彩を帯させますが、実際死んだ者の告白等から推定すると、死ぬることは案外に自然的なもので、物質的肉体から脱出した人達の多数は、自分の死んだことに気づかず、何やら勝手が少々ちがって来たナ、位にしか考えて居ません。一方において物質的感覚を失って居るから、今迄のように物質界の事情も分らず、他方において死後の世界の規律法則を知りませんから、精神的にも盲目であって、無自覚な死者の霊魂は、随分憐れむべき状況に沈淪ちんりんして居ります。そんな亡霊達が、普通多くは地の世界の雰囲気の中にマゴマゴして居る所の、いわゆる地縛の霊魂となるのであります。

 ずッと上層の霊界まで進んだ霊魂達は、間断なく地の世界に降りて此等これら地縛の霊魂達を啓発すべく努力するようですが、困った事には、両者の距離が余りにかけ離れ過ぎて居るので、所謂いわゆる大声俚耳りじに入り難き憾があり、つ亡霊の多くは、死は滅亡だという間違った先入観念に捕えられて居るので、好意をもって自分を迎うる先輩の霊魂を、何やら怪しい一つの幻覚である位に考えて、容易に信頼せぬ傾向が多いようです。んな連中は、むしろこれを霊媒の躯に憑依せしめて、心霊上の知識ある人間の手で説諭せつゆした方が、却って余程効能が多いように見受けられます。ウィックランド博士は、よくそのあいだの呼吸を諒解し、常に諄々じゅんじゅんとして亡霊の説諭せつゆを試み、多くの場合において、驚くべき良成績を挙げて居ります。

 地縛の亡霊の一番厄介な点は、物質的肉体を失っているくせに、生前の物質的慾望が、依然として残存して居る事で、彼等のめにも、又人間のめにも、飛んだ迷惑な現象が起ります。外でもない、それが憑霊現象であります。人間の躯からは、一の磁気的光線を放射します。それが所謂いわゆる霊衣オーラであります。亡霊達はこの光に引きつけられて、意識的又は無意識的に、霊衣オーラの中にとび込み、そして次第に、その人間の思想感情までも左右します。ヒステリイ、発狂、悪癖、その他の不健全なる性質がかくして発生します。古来『悪魔』扱いを受けたのは、多くは此等これら地縛の霊魂のようで、悪魔は悪魔ですが、個々の慾望、迷信、無智等から発生した人間お手製の品物であります。

 従来人類間に発生せる不幸災厄の大部分、又原因不明の不可解の事件の多くは、此等これらの肉体のなき幽界の居住者のイタズラであります。正直とか真心とかは、はなはだ結構なものに相違ないが、それ丈では、必ずしも憑依の防禦にはなりません。此等これらの問題につきての完全な知識――これが何よりたよりになる金城鉄壁であります。

 肉体の欠陥も、勿論むろんある程度までは、悪霊から憑依さるる原因となります。即ち生来襲われ易き体質、神経系統の欠陥、不意の驚き等がそれであります。又一般に躯が衰弱して居る場合には、抵抗力が薄弱なので、兎角彼等のつけ込みどころとなります。

 今回の説明は、この辺で一とず切り上げて置きまして、次に実例を紹介することにします。


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