心霊図書館 >> 心霊文庫第17篇 >>  憑依と自殺の実例 その一

『死者に交わる三十年』

憑依と自殺の実例 その一

何事ありても自殺はするな

(一九一八年十一月十七日の実験)

『随分永いこと御無沙汰を致しました。――ここにおいでの御婦人は、しきりに自殺しようと考えて居られますが、それに就きて、私からちょっと御忠告申上げたいと思うのでございます。

『実は私自身も元は幸福な人妻でございました。可愛い子供が二人もあって、良人はこの上もなく親切……。それに夫婦とも快活な性質でございますから、人にうらやまるるほど円満な家庭を作っていました。が、人生は何所に不幸の種子が潜んでいるか知れません。家庭の円満が、かえってある人の嫉視しっし標的まとにされたのであります。

『その時分の私は浸礼教会に属し、自分が霊媒的の感受性をっていようとは、っとも存じませんでした。で、私は家庭の主婦として、ひたすら家事に没頭して居たのですが、ある人が、ひそかに邪道を用いて、私達の家庭をきずつけることに着手しました。ある日私は仕事に出掛ける良人を送り出し、大へん愉快な気持で家に居たのですが、急に変な気分……。何物かに全身を占領されたような気分になり、それっきり何が何やら、さッぱり判らなくなったのでした。

『むろん私は自分が何をして居たのか、すこしも記憶しません。それは全く夢中なのでした。ただ誰かにグイと掴まれたような、不思議な気分だけが、かすかにあったように思います。

『が、しばらく過ぎますと、すっかり様子が変りました。一ばん早く気がついたのは、私の良人が、いうに言われぬ悲痛の色を浮べて、男泣きに泣いている光景でした。それから意識がモすこし明らかになって来た時に、私は自分の躯が、ブラリと梁から吊り下っている光景を認めました!

『その時の私の心持は、とても皆様にお伝えすることはきません。良人は垂下せる私の屍骸を眺めながら、ボンヤリ其所そこっています。その両眼からは、涙が雨のようにあふれ落ちますが、私には良人をドウ慰める術もありません。きることなら、モ一度自分の冷たい体内に戻りたいと思いましたが、そんなことはモウ後の祭り……。二人の子供等も、私の変った姿を見て泣いていますが、人間でなくなった私には、それをドウすることもできないのです。

『最初私は、何故んなことになったのか、っとも見当が取れませんでしたが、二三の悪霊どもが、すぐ傍で、私を見てあざけり笑っているので、初めてそれと気がつきました。彼等は私の躯を占領して、私に首をくくらせ、家庭の幸福を砕いてしまったのです。

『私の良人は、その後永久に物置の梁からブラ下っている私の首吊姿を忘れることができません。子供達はまだおさないので、何よりも母のたすけを要するのですが、その養育の任務は、良人の手一つにかかり、私は蔭からそれを見ている丈で、ああまないまないと思いつづけるより外に致方いたしかたがありませんでした。

『私の自殺は、単に悪霊の憑依の結果で、その他に何の過失はないのですが、それでもまるまる十年間というもの、私の眼に映るものは、ただあの時の光景のみでした。ブラリと垂下した醜しい自分の肉体、絶望せる良人と泣き叫ぶ二人の子供……。その苦痛はとても言葉には尽せません。

丁度ちょうど十年間経った、ある冷たい冬の日に、私は何やらモ一度娑婆しゃばへ戻ったような気がしました。私はポカリとした躯の温みを感じました。それが何所であるのかはよく判りませんが、ドウやら人間界には相違なく感ぜられました。言葉くちをきいて見た時に、初めてそれがウィックランド博士の所であることが判りました。博士のお話で、私は初めてウィックランド夫人のお躯を一時拝借していること、それから一切の現世的迷妄を振り棄てて、真の霊的生活に入り、自他の利益を図らねばならぬことを悟らせて戴きました。

『それからの私の境遇は、ずッと改善されました。今日私が霊界のうるわしき境涯に安住することのきますのは、皆博士並に博士夫人の献身的指導の賜であります。

『しかしそれまでの十年間の苦痛悔恨! 垂下せるみぐるしき死骸……人生の悲惨に泣く良人と二人の子供とのあわれな姿……。眼には見えてもたすくる途も、慰める術もなき私の心の苦しみは、れほどでありましたろう!

『で、私は衷心から自殺を計る所の一切の人々に向って、警告したいと存じます。――

 何事ありとも自殺ばかりはなさいますな

『あなたは何にも御存知がないので、今自殺しようとして居られますが、それは御自分の入る地獄を造り上げるのです。一たん躯から出脱でぬけた上は、モウ二度とその内部なかへは戻れません。それッきり御自分の務めを果たすことがきなくなります。

『何よりもず、私の子供等のあわれな身の上を考えてください。自分達の母親は自殺をしたのである、という考えから、終生離るることができないではありませんか! 私の良人も、又子供等も、決して心から私をゆるす気にはなれません。縦令たとえそれが憑霊の仕業であって、自分自身の心から出た仕業ではないにしても、私はあんなに苦しまねばなりませんでした!

『若しもあなたが、真に霊界方面の法則を御存じならば、あなたは決して自殺しようとはなさらないでしょう。その結果が実に恐ろしいからです。是非ぜひそのいまわしい考にだけは打勝ってください。自然にあなたが霊界に入らねばならぬ時節の到着するまで、この地の世界で幸福にお暮らしなさいませ。

『私が苦しみ抜いた十年という歳月は、私が無理に縮めた期間でした。あの十年を地上で過した上で、私は霊界の人として、又母としてる丈の任務を首尾よく果した上で……。

『霊界には霊界の厳律がございます。自分に与えられたる期間を、現世に過ごした上でなければ、自分ぎめに霊界には入れません。私は私の過失に対する刑罰として、十年の間、間断なく自分の眼に、自分の醜しき屍骸の垂下している状況を見せられました。そしてその間、私は自分の良人と、子供等とがんなに困っているかという事を忘るる隙とてありませんでした。

『私は目下いま相当に幸福でございますが、真の幸福は、霊界こちらで自分の愛する家族と再会する時でなければあじあわれません。私はそれまで、こちらから子供達を助けるべく全力をささげて居ります。

『良人には博士から私の愛を伝えてください良人はいつも一人ぼっちと思っていますが、実は私がいつもその側に居るのです。側に居りますが慰めることも、手助けすることもできません。――これでお告別いとま致します……』

(大正十四年・十二)


前へ

目  次

次へ


心霊図書館: 連絡先