心霊図書館 >> 心霊文庫第17篇 >>  憑依と自殺の実例 その一

『死者に交わる三十年』

憑依と自殺の実例 その一

]夫人の自殺

 ]夫人は、ウィックランド博士が少年時代を英国で過して居る時分に、日曜学校の教師だったもので、ウィックランド夫人とは一面識もなく、夫人は]夫人の存在さえも知らずに居たのでした。

 ]夫人は悧発で、精神的で、幸福なる結婚生活に入り、二児の母として、何不足なき身分の人でした。ところが彼女は、一見幸福と満足の絶頂において、ダシヌケに首を絞って自殺を遂げました。おどろいたのはその良人と子供達とで、何故なにゆえの自殺なのか、とんと推定さえつかないのでした。

 ところが]夫人が自殺してから、約十ヶ年を経過したある冬の日に、シカゴの自宅において、ウィックランド夫人は、急に神憑状態になりました。その憑霊は気息いきがつまって、しきりにもがき抜いている状態をつづけるのです。霊媒に憑依する事に慣れた霊魂は、最初からそのつもりで居るから始末がよろしいが、初めてこの経験をするものは、他人の躯と自分との見境みさかいがつかず、突然物質的肉体に接触したはずみに、普通その臨終の際のもだえを繰り返します。

 ウィックランド博士は、んな事には慣れ切って居ますから、直ちにその憑依霊に向って姓名をたずねますと、意外にもそれが十年前首をくくって自殺を遂げた、ロンドンの旧友であることを発見しました。彼女はその時までも、地縛の霊魂として残り、十年間にめさせられた精神的苦痛は、実に言語に絶するものがあったのでした。

 ]夫人の霊魂は斯く物語りました。――

『私は自分のからだからけ出た瞬間に、初めて何故あんな向う見ずのことをしたかということに気がつきました。他人のそねみから、私の身に附き纏うことになった悪霊ども――そいつ等が私のそばって、さも得意らしく、歯をむき出してあざわらって居るではありませんか!

『私が自殺したのは、全く其奴そいつ達の仕業で、ツイうっかりした隙間に、イタズラをされてしまったのです。私は不可抗力の一の衝動に駆られて、夢中で首の周囲まわりに紐をくくりつけたのです。これはけないと気がついた時には、モウ手遅れでございました……。

 私はしモ一度自分の躯を取りもどすことがきれば、んなことでも致したいと思いました。私が経験した絶望と、後悔との十年間の苦しみ! 家庭は砕け、良人は落胆、二人の子供達は、母を尋ねてさびしさに泣いています。私は何時も彼等の傍に行っていたのですが、先方ではむろんそんなことには少しも気がつきません。その間の私の胸の暗さ、苦しさ……。』

 ウィックランド博士は、何時もするように、]夫人に向って、霊界の真の生活に就きまして諄々じゅんじゅんと説明を試み、一時も早く心の闇をひらいて、信仰の光明を求むるようにさとしますと、元来判りのよい霊魂ですから、直ちに悟りの扉が開けそめ、霊界の指導霊に就きて、まことの教を受け、ドウすれば地上に残せる愛する者に対してお役に立ち得るかを、真心から研究することになりました。

 それから幾年か過ぎた時、ウィックランド博士の所に、一人の自殺癖のある患者が来ますと、]夫人の霊魂が再び戻って来て、博士夫人の口を借り、右の患者に向い一場の訓戒を試みました。左にその全部を紹介します。


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