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果たしてウイルソンか?

(十) 人生は間断なき変化

 五月十五日の通信も同じくお国自慢の傾きがあるが、その中に識者を思考せしむるに足るべき、ウィルソン一流の哲学が見出されます。――

『一つの国民が同種同文であればあるほど種類と変化とにとぼしく、その必然の結果として超国家の出現に肝要なる衝突や騒擾そうじょうが起らない。超国家の出現がなければ腐敗と不合理とは到底免れない。人生の河を洗い清むる奔流がありてこそそれが沈滞せる泥沢とならずに居れる。

『植民地人の第一世が一般に皆お粗末な人間であることは私もこれを認める。が、為政者はその点に関して単に目前の利害から判断を下してはけない。その祖国で志を得なかっため、移民者の多くはあるい蛮骨ばんこつ稜々りょうりょうたる人物であるかも知れぬ。しかながら彼にあたうるに時日を以てすれば、次第に新世界において恵まるる均等の機会に心を和げ、案外善良な人間となるものである。遠大な眼光を以て観れば人種の混合はその国に取って甚だ大切な要素である

かって古代ローマ帝国も極力人種の混合を防ごうとした。庶民に対するローマの法律は厳酷を極めた。それにもかかわらず新しき血液が間断なく彼等の脈管に注ぎ込んだのでおのずから強大を致したのである。最後にローマが衰亡に帰したのは一つは失政のめでもあるが、一つは頑強野蛮なる侵入者に対する処置を誤っためである。彼等と結合して自己の若返り法を講ずる代りにいたずらに彼等と戦端を開き、そして彼等のめに撃破されたのである。

『人間は時として一百年……イヤ一千年も一ヶ所に居住する場合もないではない。が、彼は主として風来坊である。何か自分の権利を侵害されたとでも思い込むと、さっさと荷物をからげて漂泊の旅に出かけたがる。他の動物には移住の季節があれど人間にはそれがない。気が向いたが最後、何時いつでも出掛けてしまう。地球上に人間ほど落付きのるい動物はない。事によると人間は地上が永住の地でないことを薄々感づいているのかも知れない

『実際そうした人間の態度は間違って居ないと思う。地上の制度組織にはことごとく破綻の種子が含まれて居り、万世不易の政体などというものは何所を捜しても決して見当らない。腕っぷしの強き者は一の金城鉄壁、例えば封建制度見たいなものを築きあげる。封建制度では各人自己の領土を所有する事になって居る。が、歴史の指示する所によれば、一の強大なる意志は、それに劣らず強大な、そしてそれと全然正反対な、他の意志によりて取って代られることを見出すのである。人類は斯くして動揺を止めない。

『その昔われわれの祖先は、圧迫を免れるべくイギリスを後にした。が、彼等はただ自分達の手で他の一つの圧迫制度を組織したに過ぎなかった。彼等の子孫の人生観は到底彼等と相容れないものであった。祖先の移民達が新世界にもたらしたもので貴重だったのはただその気象丈であった。彼等の堅忍性、又彼等の真理慾――それ等のものは永久に残った。しかし祖先達の真理とするところはわれ等の真理とするところではなかった。彼等の抱懐せる理論や思想はごうもわれ等の感興を惹くに足りない。そんなものは風雨にさらされたる更紗さらさ模様と同じくいつしかその色がせてしまった。

『元来人間の意見なるものは全く価値がないものである。昨日は昨日、今日は今日、又明日は明日、と間断なくグルグル廻りをやる。時がそれ等を吹き散らすのは丁度一陣の風が朝霧を吹き散らすような具合である。霧が消散して後に残るはただ実体をそなえたる大地のみだ。それと同じく年来抱懐せる意見の誤謬であることが判った暁に、後に残るはただ自分から到底切り離すことのできない、持って生れた先天的の性分のみである。そればかりは何所どこへでもブラ下げて移住する。』


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