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果たしてウイルソンか?

(八) 通信につきて

 五月八日の自動書記は主として幽明間の通信に関する感想で持ち切りであった。――

『あなたが折角せっかく私の通信を正確に受取ろうと努めて居てくださるのは感謝に堪えません。私の方でもあなたに愛想をつかされないように最善を尽しつつあります。うした通信は近頃だんだん私の興味を惹くようになりました。例のフランスの科学者(ジェレー博士の事)が帰幽後しきりに幽明交通法の実験中だときいた時分に、私の方でも何所どこかに一人、自分の言わんと欲する所を受信し得る人間がりはせぬものかしらんと捜索して居ました。それが私をあなたのもとに近つけた所以ゆえんです。

『こちらの世界では、前に一言した通り、風評うわさは拡がり放題であります。で、われわれが若しわれわれの注意をある一方に向けさえすればその特殊の問題の波動を受取ることができるのです。従ってわれわれには新聞紙の必要はない。どんな事柄でも絶対に正しく知悉知悉ちしつし得るのです。

『地上で発明されつつある事物の大部分はことごとくこちらの世界の受売りである。例えばあの無電――あれはわれわれが用ゆる通信法のヘタな模倣に過ぎない。鳥の飛翔、飛行機の航空――これ等もわれわれの目にもとまらぬ迅速な行動の似て非なる反映である。エーリエルが地球の周囲に一本の帯を捲きつけるのに何時間を要したかは忘れましたが、われわれは勿論むろん速さにかけて彼の敵ではない。(エーリエルは中世神話中の人物で空の使者)

『われわれには勿論むろん動く必要はない。何事もただ座ったままでらちが明く。が、たまにはわれわれだっても動いて見たく思います。妙なもので生物は無用の仕事をって嬉しがりますその証拠には鳥を御覧なさい立派に飛べる身である癖にヨチヨチ地面ぢべたを歩みます

『しばしば申上げた通り現界の生活はホンの手ほどきの生活です。あなた方が汗水垂らして発明したとか、又は発見したとか言って騒いでいる事物の全部は、こちらの世界では尋常茶飯事で、面白くも可笑おかしくもない事なのです。

『われわれの念波はもちろん距離のめに影響を受けない。又われわれはこれを伝達し、若くはこれを受信すべき器械を必要としない。あなた方がその心に私の面影を描いた瞬間に私はそれを感知する。但しあなた方にこちらのかんがえを伝えるのは、それは別問題である。何となればあなた方の心の中には千百の思想が煮えくり返っているからである。まるで沸騰しているお湯の如きもので、それを突破することはなかなか容易の業でない。

幽明交通の最大難点は詰まり受信者の心が雑念妄想で占領され切って居る事である。われわれの思想は玲瓏れいろう透徹とうてつ、一時にただ一つの思想しかっていない。われわれは思想の強烈なるを期するめに常にこれを簡単化すべくつとめる。明瞭で、直截でそして単純な思想は一の力強きエーテル波を形成し、意の赴く所に向ってこれを放射し得る。しかるに人間の方ではなかなかそれを巧妙に受け取ってくれない。こちらから送る折角の思想も屡々しばしば有耶無耶うやむやの裡に葬り去られ、時ならぬ時分に不図ふとあなた方の心に浮び出たり何んかする。あなた方はそれを自分自身の思想と思うであろうが、実は時候はずれの幽界通信である場合がすくなくないのである。

『私が連続的に送りつつある此等これらの通信もキッとすぐさまあなたの所に到達するものばかりはあるまい。そんな場合にあなたはどこまでが自分の思想で、どこからが他人のものか、ちょっと判別しにくいでしょう。が、要するに私とあなたとの間には共通点がすくなくない。働く方法は各々異なるも、その目的とする所はいずれも同一であるから、まあドーにか道連れになれましょう。』


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