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果たしてウイルソンか?

(三) 移民法のない世界

 四月二十八日の通信――

『私の死んだのは丁度地上で私というものに用事が無くなった時でしたよ。世界各国民の結合をもくろんだのは私だったが右の仕事はもっと若い人達でいくらでも遂行することができます。地盤を造り、計劃けいかくてるのが私の受持、その上に建物を築きあげるのは他人の受持――ざっとそう言った仕組なのです。

『幸にも私は地上最終の両三年間大分影が薄い人間になっていました。考えて見るとそれが一の準備時代だったのですネ。こちらへ来た時に私の休められた精神はむさぼる如くこの新規な、そしてこのすてきに興味ある生活を吸収する余裕をもっていました。もっとも私は前途にこんな世界が自分を待っていようとはまるで想像もしていなかった。何のあてどもなくこちらへ引越し、心の中はまるきり地上の問題で占領されて居りました。ですからイキナリんな未知の新世界へほうり込まれると同時に何とかして旧世界と通信をすべき方法はないのかとしきりに四周あたりを見まわしたものです。

『が、次第にこの新らしい世界の平和と静寂とが私の全身にしみわたり、いつしか旧世界を忘れるようになりました。よもや生命がここまでつづいていようと思わなかった丈それ丈、私の興味はこの新世界の研究に向って喚起されて行きました。実際の死後の世界――それは私がこれまで聞知したいずれの架空譚ともちがっていました。あくまでも合理的であり、どこまでも完備しているのがたまらなく私の心を引き入れて行きました。こりァできる丈早くこれにつきて学ばねばならぬ……そう私は考えました。

『地上生活においてもわれわれは幼児の境涯から成年の境涯へと次第に進歩して行きますが、ここでも亦われわれはだんだん学習し、だんだん発達して行きます。死の黒門を通過してこちらへ押し寄せる未発達の霊魂は数限りもありません。何にしろ幽界は移民法が布かれて居ません……。所謂いわゆる千客万来です。賢愚、美醜、老若、男女……誰でも構わず歓迎され、誰でも構わず安住の地を与えられます。うれしいのは向上の見込が誰にもあり、隠れたる能力の火花がすべての人に備わって居ることです。愉快に永遠の生命を享楽すべきエネルギイの持ち合わせのないものはただの一人としてありません。老人はここへ来て自分の若返ったことに気がつき、病人はここへ来て二度と病気にかかるうれいのないことを知り、貧人はここへ来ていよいよやり繰り算段の必要がなくなったことを悟ります。

『私の体験から考えるに老衰するのはただからだであり、心は決して老衰するものでありません。一たん弱りかけた肉体から解放されると同時に心は直ちに本来の元気を取り戻します。で、最初思いもよらぬ新生活に入りて戸惑いした人達も、自分がモ一度若返り、モ一度健康を恢復かいふくしたと知った時には皆大に歎びます。モーとても駄目だと絶望の叫びを放った身が、いくらでも新規の機会を与えられるというのですからこれは誠に当然の次第でしょう。

『いよいよこの新世界の生活がいかに面白く、いよいよ予想以上の能力がいかに自分の中に潜在しているかを確認した時に私は一心不乱になって、どこまでも自分の力量を延ばそうと最大の馬力を出すことにしました。が、私が自国の同胞に私の発見した真理……つまり永生の真理を是非伝えたいと考え出したのはホンの近頃のことであります。地上に居た時私は微力の限り母国のめに尽しました。が、私がこの価値ある発見をしたのは永久に母国を離れてからであります。その必然の結果として、私はこの発見を自国の同胞に分与せねば気が済まなく感ずるのです。

『永世の事実……ずっと霊化はしているが大体死後も同一状態の下に個性が存続するという事実は、私の観る所によれば、人類がこれまでに為し遂げた発見の中の最大発見ではないかと考えます。この重要事実をば私の力に及ぶ限りの手段を講じて世界に普及するという事はただに私一個の満足をち得るのみでなく、実に私に取りてドーあっても回避し難き責務かと感じます。私はこれからこの仕事に全身を捧げるつもりでありますから、私の生前の知己朋友がこれに対して充分の援助を与えられんことを切望して止みませぬ。

『地上に居た時から私は全力を挙げて理想を高めることに努めはしましたが、しかし当時の私はいかにも盲目的でした。いかにも暗中模索的でした。現在の私は痛切にその非を悟りました。私は是非ともこの大切な知識を広く世界中に光被こうひしなければならぬと思って居ります。

『生命は永遠であって死はただ一の関門――われわれのすべてが一度は是非通過せねばならぬ一の黒門に過ぎません。われわれの不変の自我は依然としてどこまでも生存をつづける。一日の業務を終りてわれわれは眠りにつくが、むれば其所そこあたらしき一日を見出す。私はこれが厳粛なる事実であることを断言します。私がその活きた証拠人であります……。』


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