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果たしてウイルソンか?

(二) 歴然たる証拠

 スコット女史が小説の執筆中であって、大多忙であったにも係らず、ウィルソンと名告なのる霊魂は委細構わず女史に向って自動書記を送ったのであります。ところがその小説がやがて脱稿したのですからたまりません。女史の躯はまるで内部なかから火のついたようになりました。『これからいよいよ自由の身だ!』小説の最後の一行を書き上げた時に女史はそう叫びましたが、いずくんぞ知らん自由の身どころか、女史の総身はこの時ほとんど全部ウィルソンに占領されたようなものであります。

 が、女史はさすがに明敏なる理性の所有者もちぬしだけありまして、てッぺんからかかって来る者をウィルソンに相違ないとはめてかかりませんでした。『果してウィルソンかドーかモ一度徹底的に審査しなければならない……』――そう考えまして、彼女はバーチングトンへと急ぎました。例によってそこの霊友達で交霊会を催し、自分の日頃信頼する他界の居住者達をび出して右に関する調査をたのもうと思ったのです。

 早速ウィジャ盤によって霊示を求めますと真先まっさきに

『宜しいしらべてあげます。お待ちなさい』

 という文句が現われ、しばらくして次の文句が現われました。――

『ウィルソン氏は只今ここに来て居られます。そしてこれから御自身手を下してお名前を綴られようと言われる……。』

 それまではスコット女史もウィジャ盤に手をかけて居りましたが、自分の潜在意識が混入しては面白くないというので急いで盤から手を放しました。

 やがてウィジャ盤は運動を開始しましたが、いま迄の巧妙な運動とは打って変って、さもんな仕事に慣れないもののするように、あっちへうろうろこっちへうろうろ、一つ一つ文字を捜しながら大骨折で文字を綴って行くのでした。それでもしばらくして綴り上げたところを見ると正に W-I-L-S-O-N. と読めたのでした。

『おついでにあなたの前名まえなもどうぞ……』

 女史は更に註文しました。再びウィジャ盤が動き出して、四苦八苦のていで文字をさがしながら綴ったところを見ると W-O-O-D-R-O-W とありました。

『はてな!』と列席人の一人が『ウッドローという名前はう綴るのでしたかしらん……。私は Woodrough. ではなかったかと思いますが……』

 列席者の誰もがはっきり覚えていなかったので、早速百科辞書を引張り出してしらべて見ると、矢張りウィジャ盤に現われた綴方の正確であることが判りました。

『そうして見るとこりァ潜在意識の産物とも言われませんな……』

 今更いまさらながら一同感歎の声を放ったのでした。

 んな事やら、他にも又それに類似の証拠が続々現われましたので、スコット女史の疑惑も一皮づつかれて行き、いよいよ本気でしばらくウィルソンの霊魂に自分の躯を貸してやることになったのでした。

 ウィルソンは女史に向っていろいろ自動書記に関する手続を指図するのでした。不取敢とりあえず彼の註文したのは雑念妄想を心から駆逐することでした。しかし女史からいえばそんな事は最早朝飯前で、ステッドその他の霊魂達によって行われた猛練習の結果、彼女の心は大体無色透明のコップのようになり切っているのでした。

『ウィルソンから通信が参りかけますと』と女史は執筆の時の感想を述べて居ります。『私は大急ぎでそれを書き下します。丁度それは閃光のように来るのですから私は生命いのちがけで猛烈に筆を走らせなければなりません。そうする中に次第に流れが緩漫になり、いつしかポカンと筆を休めて居ることに気がつく。つづいて書いたものを清書しなければならんような気分になります。清書をやっている間に粗雑な文字が大分整理されたり、潤色されたりします。時とすれば書き直しを命ぜられる個所もあります。消したり直したりするのはことごとく先方の仕事で、私はただ器械的に筆を執っているに過ぎない。それ等の状態から察するに、最初の筆記はウィルソンの表現しようとする感想の大体の輪廓を伝える丈のものらしい。第二次、第三次の訂正を経て最後にウィルソンは初めてそれを自分の通信として承認する。しかしこの種の通信の性質として、私の力量ちからに及ぶだけのことしか受取れないようです。私の力量ちからの届かぬところに何やらまだ残っているものがありそうに感ぜられることも一再でありません……』

 兎に角この時を境界としてウィルソンの通信は数ヶ月にわたりて陸続りくぞくとして女史の筆端から現われることになりました。これからそれ等の通信中の粋を抜いて紹介して行く予定ですが、便宜のめに私の勝手で、一つ一っその内容にふさわしき標題を附け、いささか読むものの便宜を計ることに致します。


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