横森家に搦まる因縁譚

横森家に搦まる因縁譚

七、武田信玄不動明王

 盗まれた掛軸が、神懸りによって、再び元の所有者の手に戻った。単にそれ丈でも、相当興味ある問題に相違ないとは思いますが、しかしこの事件は、そんなことでけりがついたのではありません。今迄いままでの所は、この事件のホンの三番叟さんばんそうで正味の所は、これからドシドシ進展して行くのではないかと信ずべき大なる理由があります。それが何所どこまで進展するかは、日本の心霊界として、最大の注意を払うべき、重要案件と痛感されます。

 霊界の事は、容易に思議すべき限りではありませんが、私のこれまでに調査したところによると、今回の問題は、ただ宝物捜しなどという、児戯に類せる事柄でなく、其所そこに大なる隠れたる謎、人間界から霊界の奥の奥にかけて、首尾連関れんかんせる遠大なる、一の計画と言ったようなものが、あるのではないかと、考えられるのであります。西洋の心霊現象は、正確味に於てすぐるが、奥は通例浅い。日本のはこれに反して、その輪廊りんかくがいかにも茫漠ぼうばくとして居るが、ともすれば油断のならぬ深みが潜んでいる。この問題を取扱うにつけて、私は再びこの感を深うした次第であります。

 外面から観察すると、この問題は、ただ一人の平凡な婦人、おとなしくはあるが、さして教養のありとも見えぬ一女性の身に起った、一の変態現象としか見えません。が、かね代女の内面に向って、一歩探究のメスを進めて見ると、其所そこに彼女の曾祖父たる横森市兵衛という人の霊魂が、厳として控えています。この人はその時代の田舎紳士としては、珍らしく事理を解せる律義な人物で、一家のめに、又その郷土のめに、骨身をおしまず尽瘁じんすいしようとする意気が、充分に窺われます。誠に得難き立派な心懸の人物には相違ない。が、その器局がさして大きいとも、又その人格がさして高邁なりとも考えられません。かね代女の背後に控えて居るものが、ただ市兵衛の霊魂一人だけならば、その神がかりの力は、恐らく多寡の知れたものでしょう。一と通りの事は判っても、飛び離れた仕事は、到底できないに相違ないと思われます。

 ところが、市兵衛の霊魂の内面、に向って、更に一段探究の歩をすすめて見ると、うしても其所そこには市兵衛の智慧袋、その守本尊が控えて居るものと、見倣みなさぬ訳には行かないのであります。その守本尊が、武田信玄の霊魂であるのか、それとも武田信玄の霊魂と、不動明王の力との合併したものであるのか、その辺の穿鑿せんさくは、現在に於て、到底私どもの断言し得る限りではありませんが、兎に角奥の方に控えて市兵衛の霊魂を指導し、操縦しつつある、ある有力なものが存在する事実は、疑われぬと考えられます。ここにかね代女の神懸りの深みと、強みとが発生してまいります。表示するとぎのようなことになりましょう。――かね代――横森市兵衛――守本尊武田信玄不動明王。


六、掛軸の発見と復帰

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八、生米と生水との生活


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