二つの怪奇な心霊現象

土佐の集団的怪現象

はしがき

 東洋においても、西洋においても、時として途轍とてつもない怪奇現象が突発します。例えば大きな石塊が矢鱈やたらに飛ぶとか、器具類がひっくり返るとか、無智の群衆が何とい う事なしに踊り出すとか言った種類で、無論中には人騒がせの好きな、イタズラ者の計策たくらみにかかるのもあるようですが、明確なる証拠が立派に上り、ドウあっても これを事実と認めない訳には行かないのも、決してすくなくありません。西洋の心霊家は、かかる現象を普通ポルタアガイスト現象(騒々しい幽霊現象)と呼び、これに関する正確なる記録が、沢山作られて居ります。『今の開けた世の中に、そんな 莫迦ばかな話があつてたまるか』などといふのは、単にその人の無智を証明する放言に過ぎません。心霊科学のメスにかければ、もちろん別にそれは不可能の事でも、又不可思議な事でも何でもないが、しかし普通の常識、普通の物理化学の知識では、到底訳の判 わからない異常現象が、案外世界の各方面に起りつつあるのであります。

 試みに私の記憶を辿たどって見ましても、西洋では、バアレット博士の報告にかかる、チェリトンに於ける石飛び現象(一九一八年五、六両月の英国心霊協会月報所載)などがあります。年代も あたらしく、又証明者も粒揃いの学者ばかりで、一点疑惑の余地がない。更に最近には、オーストリアの少女、ズーガンを中心として起れる怪事件があり、心霊大学が相当力瘤を入れて、 これを究明したことは、御存知の方もあると思います。東洋方面には、この種の出来事が、一層多いのではないかと考えられますが、何をいうにも調査が不充分、従って記録が一向纏まって居ないので、あまり識者の視聴に上るのが多くないのは遺憾いかん千万であります。ただ大正十三年十月二十七日以降、約二ヶ月に亘り、北満の南関嶺に起った怪奇現象丈は、本会員田中剛輔氏の手で、綿密な記事が作製され、『南関嶺の怪現象』と題し、『心霊と人生』誌大正十五年二月号に掲載されて居ります。まだ御承知のない方は、是非御一読をお勧めします。

 私がこれから紹介しようと思いますのは、只今から約八十五年の昔、土佐国長岡郡豊永郷岩原村に起った、怪奇現象の実験記録であります。これは当時直接この事件に関係した、土佐藩士野島通玄とい う人が、『甲辰奇怪記』と題し、なかなか詳しく顛末を記述してあるのを台本とし、私が全編を読み易い現代語に翻訳したまでで、内容にはもちろん一点一かくの増減をも施しません。日本の心霊界としては、近頃め ったに見当らぬ面白い掘出物で、原本はもちろん写本のまま、野島家の書庫に秘蔵されて居たのであります。事によるとこの種の秘本は、なお他にも少しは見出さるるか知れません。若しも御心当りの方があったら、この際成るべく提供さるることを、日本心霊界のためめに御願いして置きます。


二つの怪奇な心霊現象

目  次

一、事件の発端


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