霊界通信   新樹の通信   第二篇

幽界居住者の伊勢参宮

(三)乃木さんと同行


 新樹の第三度目の大廟参拝は、ホンの最近のもので、この時は乃木大将と同行しました。

 昭和六年正月元旦――この日は午後から雪で、年賀の客も杜絶とだえ、いかにも落付きがよかったので、私は新樹を呼び出して、こんな事をいいつけたのであります。――

『今日は元旦であるから、この際モウ一度、おまえに大廟参拝をやってもらいたいと思うが、それにつきては、今度は一つ乃木さんをお誘いして見てはくれまいか。是非御同行をお願いしたい、と言ったら、乃木さんはきっと承諾されるに相違ないと思うが……。』

 すると間もなく新樹からの返答へんじがあった。――

『早速乃木さんにその旨を通信しましたが、乃木さんは非常なお歓びで、こんな御返答を寄越よこされました。――「わしは生前はたびたび大廟へお詣りをしたものだが、こちらの世界へ来てからは、お詣りどころか、まだそんな気分にさえなれなかった。あんたは実に良い事を教えてくださった。そう言われて見れば、わしも是非お詣りをしたくなって、自分の方がずっと先きへこちらの世界に来ているのに、後の烏に先きになられて、何とも面目ない次第である……。」そんな御返答なので、僕は早速乃木さんと御同行する事に話をきめました。ではこれから出掛けてまいります……。』

 それから約十分の後に、新樹から報告がありました。乃木さんという新顔が加わってるので、同じ参拝でも、よほど趣の異なった箇所ところがありますから、多少の重複を厭わず、そっくりそのまま登載することにします。――

『乃木さんという方は、平生からあんな謹厳な方でありますから、この度の大廟参拝ということについては、よほど心を引きしめて、チャンとして出掛けなければならないという事になりまして、軍人ですから矢張り軍服……例の青味がかったカーキ色の服に、長剣をさげて行かれました。僕ですか……僕はいつもの通り、さっぱりした洋服です。

『道すがらも、乃木さんの控え目にされているのには、僕ほとんど恐縮してしまいました。ドウしても乃木さんは、僕に先きに立てと言われるのです。

わしが先きにくなったと言うても、こんな事は又別じゃ。あなたが先きに気がついて、あなたの方から誘われたのじゃから、うか案内してください。」

 僕はさまざまにおことはりしたが、ドウしても乃木さんはきき入れてくださいません。仕方がないから、僕が先きへ立って案内役をつとめる事になりました。

『大廟の模様は、以前と少しも変りません。例の小砂利を敷きつめた境内、しんしんとした大木の森、白木造りのお宮……とても素的です。乃木さんはあたりを見廻わして、う言われました。――

「大分こりァ模様がちがう。現界のお宮も結構じゃが、こちらの世界のお宮は又格別じゃ。何という御質素さ、何という神々しさであろう。わしは近頃こんな結構な、すがすがしい気分に打たれたことがない。これにつけても、こちらの世界は矢張りこちらの世界丈のことがあると思う。敬神と言っても、現界の敬神とは又訳が違うやうじゃ。」

 いかにも感激にえないと言った面持でした。

『僕達はいよいよ御神前に達して礼拝をすましたが、その時僕は乃木さんに言いました。――

「あなたはここにお祀りしてある神様に、お目にかかられたことがおありですか?」

「イヤまだそんな……。」と乃木さんは非常に魂消たまげた御様子で、「自分などの境涯で、そんな事は思いも寄らぬ事ぢやと思うていたが……。それとも淺野さん、このお宮では、神様にお目にかかる事ができますか?」

「イヤ実は僕も最初そんな事はできないものと考えて居ましたが、父から言われて、お宮の前でその事を念じましたら、スーツと神々しい女神のお姿がお現われになり、非常にびっくりしたことがあるのです。その後も一度、母の守護霊と同道で参拝して、お姿を拝みました。はなはだ差出がましいようですが、折角御同道したことですから、僕が一つ神さまにお出ましを願い、あなたにも拝見できるようお許しを願いましょう。」

 乃木さんはいよいよびっくりし、

「そんな事ができるものなら、淺野さん、是非そうしてください。」

『そこで僕は御神前に額づいて、誠心こめて神さまに祈願しました。――

「今日はこの方をお連れいたしましたから、度々たびたびのことで恐れ入りますが、何卒どうぞ神様のお姿を拝ましていただきます……。」

『御祈願をおわるかおわらぬうちに、たちまちお宮の後方の一段高い所――前には立木の茂みの中でしたが、今日はそれとはちがって、何もない虚空の一端に、いつもと同じく、白衣を召された女神のお姿がお出ましになりましたので、僕は乃木さんに「早く拝むように……。」と通知しました。そうすると乃木さんは、はっとしてしまって、急いで、というよりかもむしろあわてて、低く低く叩頭おじぎをしてしまいました。

「乃木さん、拝みましたか?」僕は気にかかるので、下方したを向いたまま訊ねますと、

「拝みました……。何とも難有ありがたございました……。」

 という返答へんじです。

『再び上を仰いだ時には、モウ神様のお姿は消えて居ました。何分なにぶん乃木さんの歓び方は非常なもので、「大へんに結構なことをさせて戴いた。」と言って、涙を流して僕にお礼を言われます。僕は乃木さんに言いました。「僕にお礼なんか御無用です。幽界の居住者として、これしきの労を執るのは当然の事ですから……。今後も折があったら、又どこかえ御案内を致しましょう。又僕の知らないところは、どうか御指導をして下さるように……。」

『僕は乃木さんといろいろお約束をして、実に良い気持でお別れしました。乃木さんという方は、あんな老人で、生前地位の高かった方だから、僕を小供扱いにでもするかと思っていましたのに、却って僕を先輩扱いにしてくれるので、僕実に恐縮してしまいました。連れ立って歩るいても、はなはだ気持のよい方で、今後もあんな風の人と一緒に出掛けたら、面白いだろうと感じました……。』(六、一、五)


幽界居住者の伊勢参宮
(二)再度の参拝

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ある日の龍宮


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