霊界通信   新樹の通信   第二篇

幽界居住者の伊勢参宮

(二)再度の参拝


 この事があってから約九ヶ月、昭和五年五月八日の夜に、私は再び新樹に向って、伊勢参拝を命じました。

 できる丈報告の内容が、正確かつ豊富なることを期すべく、今回は新樹一人でなく、彼の母の守護霊小櫻姫にたのんで、同行を求めました。その結果は果して良好で、前回に比すれば、の報告がよほど現実味に富んでるように感じられます。双方からの報告がありますが、先ず新樹の方から紹介しましょう。――

『無事に参拝をすませて参りました。今度はお母さんの守護霊さんに来てもらいました。守護霊さんは、今日は大廟にお詣りするのだからというので、白い装束を着てられました。白い柔かい地質のキモノで、腰の辺をチョット端折はしょった道中姿です。袖ですか……袖は一向長くありません。丸味のついた短かい袖で、そして足にはいつものように厚ぼったい草履を穿いてられました。僕は相変らず洋服だ……。僕は黒っぽい色は嫌いだから、薄色のものを着て行きました。ステッキは持ちません。

『先ず着いた所は、広々とした神苑の境内、純白の細かい小砂利が、一面に敷きつめてありました。僕達はしばらく其所そこを歩いて行きますと、やがて杉、松、その他の老木が、眼もはるかに立ち並んでる所に出ました。

『守護霊さんが、ちょっとこの辺で手を浄めて行くことにしましょうと言われますので、あちこち捜しましたが、杉の木立こだちのこんもりとした所に、余り水量の多くない、一つの渓流たにがわがありました。現界の五十鈴いすず川は、相当大きな流だときいて居ましたが、ドウいうものか、こちらのは、そんなに大きい川ではありません。巾はやっと一間もありましょうか。しかし水はいかにもきれいです。僕達はその川で口や手をそそぎました。

『現界の五十鈴川は、この川に相当するのでしょうか?』

 そう僕が守護霊さんにたずねますと、

『さあどちらがドウなのでしょうかしら……。』

 守護霊さんにもその辺のところは不明でした。あの方も今日初めての参拝だったということです。

『それから爪先上りの坂路さかみちになり、僕達はそれをズーツと二人で上って行きました。すると間もなく、前面に白木のお宮が現われました。それが例の大廟、僕がお父さんに言いつかって、一度参拝したことのある、あのお宮です。

『お宮は、今日はよほどよく念入りにしらべましたが、棟には矢張りあの千木ちぎとかいうものの附いた、大体地上のお宮そっくりのようです。その寸法ですか……。さあ正面の扉の所が、目分量でざっと二間位のものでしょうか。ドウも僕は建築の事に暗いので、詳しい事は判りかねます。お宮の周囲には、ぎっしり細かい砂利が敷きつめてありました。

『そこで僕は守護霊さんに言いました。――

「こちらにお詣り致しましたからは、何卒どうぞ天照大御神様の御姿を、ちょっとでも拝まして戴くよう、あなたからお願いしてください。」

「承知いたしました。その通りに致しましょう。」

『守護霊さんは姿勢を整えて、少し首をさげて、瞑目して祈念をこめられました。僕もその通りにしました。

『しばらくすると、神様のお姿がお現われになりましたが、今日は前回とはちがって、お宮の内部――そのずーつと奥の方です。

「お出ましになられたから、早く拝むように……。」

『守護霊さんから小声で注意がありましたが、そんな注意を受ける前に、僕はチャーンと拝んで居ました。奇麗と言っては失礼かも知れませんが、全く奇麗な、そして気高けだかい女神さんで、おからだは余り大きくないように拝しました。御服装は袖の長い……丁度平袖ひらそでのような白衣をお召しになり、お腰の辺には、白い紐見たいなものを捲いて、前面で結んでられました。御手には何も持ってはられないようで、しかしおくびには、たしか頚飾のようなものを垂下さげられたようにお見受けしました……。

『僕はうれしいやら、難有ありがたいやら、又恐れ多いやらで、胸が一ぱいでした。とても自分の勝手な祈願などの、できる心の余裕はありませんでしたヨ……。

『厚く厚くお礼を申上げて、御神前を引き退りましたが、同時に神様のお姿も、スーツと判らなくなりました。四辺あたりしんとして、ほとんどさびしい位、神々しさの極というものは、あんな境地を指すのかと僕は思いました。自分のからだが何だかコウ寒いような、変な気持でした……。

『守護霊さんは、何やらしばらく御祈念をこめてられましたが、何を祈念したのか、それはお父さんから直接じかにお訊きくだい。

『それから僕達は神苑内を出まして、別の道を通って戻って来ました。守護霊さんも、一緒にお詣りができたと言って、大へんに歓んでくれました。僕も守護霊さんと一緒で、大へん力強く感じました。慾を言ったら、僕生前一度伊勢へお詣りをして置いたら、比較ができて、大へん面白かったらうと思いましたが、今更ドウにも仕ようがありません。守護霊さんとは途中でお分れしました。「難有ありがたございました」――そう言うと、モウそれっきりです。こちらの世界のやり方は、何事もはなは飽気あっけないです……。』

 今度は入れ代って、同じ参拝につきての小櫻姫の報告を紹介しましょう。――

『今日は小供から、是非伊勢の大廟にお詣りをしたいから御同行を願いたい、という通知しらせでございましたので、早速その仕度をして出かけてまいりました。そういう尊いお宮に詣るのでございますから、できる丈清浄なキモノをつけて行くのがよいと考えまして、そのつもりで更衣きがえをいたしました。

『小供には途中で逢いました。その時どんな打合わせしたと仰っしゃるのですか……。別にこちらでは打合わせの必要はございません。小供に逢いたいと思えば、どこにってもすぐ判りますので……。小供は今日も洋服を着てりました。近頃は大へん私に馴れまして、遠慮せずに、よくいろいろの事を申します。

「お宮に行ったら、ドウいう風にすればよいか」だの、「お宮までは、どの位の道程みちのりがあるか」だのと、中には随分私などに返答へんじのできない質問もいたしますので、少し困る時もございます。

『先方へ着いて見ますと、それはきれいな、広々とした神園おにわございましてネ……。別に現界のように、柵だの何だのという区劃しきりはありません。ただ何となく神霊の気が漂ってると申すような気分の場所――それが大廟の境内なのでございます。

『私は生前に、何所どこにも参ったことがございません。何にしろ物騒な戦国時代の人間でございますから……。で、無論現界のお伊勢様も、ただ人の噂にきいた丈で、いかにも残念なことに思ってりましたが、今回図らずも、現界でかなえなかった望みを、こちらで協えることになりまして、大へん難有ありがたいことでございました。

『境内を歩るいている時に、小供が申しますには、「現界には五十鈴川という大きな河があるが、こちらの世界にもそれがあるかしら……。」――そんな事は、私も一向存じませんので、二人で散々さがしました。すると森の奥の方のさびしい所から流れ出る、きれいな川があるのです。で、小供にもそう申しまして、口も手もすすぎました。その時小供が「いかにもきれいな水だから、飲んでもよいかしら……。」と申しますから、「それは少しも差支えないでしょう。御神水だからたんと戴きなさい。」と答えて置きました。

『お宮さんは大そう立派な、白木造りの神々しい御神殿でございました。その時小供が申しますには、「折角お詣りしながら、神様にお目にかからないのは余りに残念である。第一それではお父さんに報告をするのに、具合が悪るいから、あなたから是非お願いしてもらいたい。」というのです。そこで私が一生懸命になって、御祈願を籠めますと、すぐに神さまがお出ましになられました。これまでに、私は幾度もお姿の遥拝は致してりますが、このように近々と拝みますのは、この時が初めてでございまして、何とも難有ありがたい事に思いました。小供も拝ませて戴きましたから、詳しい事はそちらからおききになったでございましょう。私などには、天照大御神様の御本体はよく判り兼ねますが、承るところによれば、この神様は、日本では自国の御先祖の神さまとしてあがめられてるものの、実は日本だけの神さまではなく、世界をお守りなさる、世にもならびなき、尊い神さまだと申すことで、お姿も国々によりて、いろいろにかえられると申すことでございます。私がこの神さまに、何を御祈願したとおききでございますか?、――私は一番先きに、日本の国を御守護遊ばされるようにお祈り致しました。その次に子供のことをお願いしました。早く立派な心になり、早く進歩ができますようにと……。私の祈願はただそれ丈でございました……。』


幽界居住者の伊勢参宮
(一)最初の参拝

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幽界居住者の伊勢参宮
(三)乃木さんと同行


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